🌸第16話「青山デート未遂」
どうしてこうなったのか、私にもよく分からない。
青山の街並みを、私は二人の“イケメン”と並んで歩いていた。
通り過ぎる人が、みんな目を見開く。
「芸能人?」「モデル?」という声が、あちこちから上がっている。
そりゃそうだ。
左右を歩くのは、黒百合と白百合――人ならぬ“花の精”なのだから。
しかも、今の二人は見事に“現代化”していた。
黒百合は黒のモード系ジャケットに、白のインナー。
まるで雑誌の表紙に出てきそうな、無造作な前髪と鋭い眼差し。
一方、白百合は白のシャツに黒のスリムパンツ。
中性的な笑顔で歩く姿は、まるで春の風みたいに神秘的だ。
……正直、隣を歩くのが恥ずかしい。
何この非現実的な並び。


事の始まりは今朝だった。
「父の会社に行ってくる」と言った私に、
黒百合が、突然言い出したのだ。
「俺も行く」
その後すかさず白百合が、「なら、僕もついていく」と微笑んだ。
いや、精霊が一緒に来てどうするの。
「気配を消して見てて」と頼んだのに、
「何があるか分からない」と黒百合は頑として譲らない。
その真剣な顔を見たら、強く言えなくなってしまった。
――とはいえ、その格好じゃ完全に浮く。
仕方なく、達也に頼んで行きつけの服屋へ向かうことにした。
「なあ、あの二人……どっかで見たことあるような……?」
達也が不思議そうに眉をひそめる。
うん、そうだね。会ってるよ。
その時は一二歳の姿だったけど。
店員さんがにこにこしながら試着室へ案内する。
数分後――。
カーテンが開いた瞬間、店内の空気が変わった。
モードな黒。艶めくライン。
黒百合が鏡越しにこちらを見て、ふっと口元を緩める。
「これでいいか?」
心臓が跳ねた。
あまりに自然で、あまりに絵になってしまって、何も言えない。
その隣で、白百合が袖を整えながら苦笑している。
「ねえ紗良、君の世界の服って、意外と動きやすいね」
「……そう、かな」
顔を上げられない。なんでこんなに胸が苦しいんだろう。
達也がぽつりと呟いた。
「足、長……。顔、ちっさ……。いや、俺もう帰っていい?」
店員さんまで「モデルさんですか?」と聞いてくる始末。
――そして今、カフェにいる。
通り沿いのテラス席。
私はミルクティーを頼んで、目の前の景色を眺める。
隣のテーブルから、ちらちらと視線を感じる。
だけど、黒百合はそんなの気にする様子もなく、
淡々と「熱くないか」「風が強い」と気遣ってくる。
そのたびに、胸の奥がざわつく。
白百合が、カップを手にして静かに微笑む。
「君たち、なんだかいい感じだね」
「えっ⁉︎ な、なに、白百合!」
慌てて声を上げる私に、黒百合が怪訝そうな表情をする。
「いい感じっていうのが良く分からないが……危ないからな」
その言葉に、紅茶の香りが一瞬遠くなった。
――こんな日常、いつまで続くんだろう。
嵐の前の、束の間の晴れ間みたいな時間。
心の奥が、少しだけ温かかった。
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