見出し画像

【せりふ三題噺】 ネモフィラパック

ミヤビは、朝からメイクが気になっていた。
一昨日訪れた海の陽射しで、
鼻の頭が擦りむけている。

まるで子どもみたい。
ファンデーションを重ねると、
擦りむけた皮と混ざって、凸凹になってしまう。

何度やり直しても、うまく隠れない。
気が付けば、家を出る時刻の二分前だ。

……しかたない!

やむなく、そのまま出てきたのだ。

大学への道中。
羽の生えた手羽先が、ひらひらと飛んでいた。

「えっ、手羽先?飛んでる??」

思わず手を伸ばす。
手羽先は、ヒラっと身を翻し、道路の向こうに消えていった。

大学に着く。
「ほんとにいたんだって!」

カナコには、全く伝わる気配がない。

「そんな事より、ミヤビそれ……」
「あ、うん。日焼けしちゃってさ」

思わず手で擦りむけを隠す。
カナコの目は隠せない。

「それ、ネモフィラがいいよ」
「え?」

「ネモフィラをすり潰して、日焼け跡に塗るんだよ。そしたら一発で治る」

カナコはいつだって間違えない。

「すぐ塗らないと、皮膚ガンになるよ!」
「えぇっ?」

ミヤビは思わず自分の鼻の頭を触る。
心なしか、皮膚が硬くなっている気がする。

「もう手遅れになりかけてる。
早くネモフィラ摘んでおいで」

「えっ?化粧品とか、塗り薬とかないの?」

カナコは首を振った。

「摘んだばかりのネモフィラを、すり潰すのが常識だよ」

カナコの目は真剣だ。
とすると、自分が知らなかっただけなのか。
もしかしたら、最新の美容では、
ネモフィラパックが当たり前なのかもしれない。

「ありがと!カナコ」
「あっミヤビ……ふくさ……」

ミヤビは急いで向かう。
ネモフィラの群生地は泥濘ぬかるんでいる。

長靴が必要だ。

ネモフィラ畑に分け入る。
グニュッと泥に沈み込む感覚。
長靴、正解!!

辺りを見渡すと、ひとりの女性が
同じようにネモフィラを摘んでいた。
彼女も長靴を履いている。

「あの、これ摘んでもいいんでしょうか?」

女性はミヤビの顔を見ると、顔色を変えた。

「はやく塗らないと手遅れになるわ!」
「わたしの花をあげる。
水と、骨をすり潰して混ぜて塗るのよ!」

「えぇっ!?」

女性の剣幕に圧倒される。
ほ、骨……??
なんの骨でもいいのかな。

ひとまず女性にお礼を言い、
ネモフィラを受け取った。

ごりごり、とネモフィラと骨をすり潰す。
台所にあった手羽先の骨を使った。

水を混ぜて、と。

なんともいえない物体が出来上がった。
ブルーに染まった、骨のすり潰し。

ミヤビはそれを指で掬い、
そっと鼻の頭に塗った。

ゾリゾリ、とした。
鶏肉の臭いがする。



鼻の頭の擦りむけは、一瞬で治った。

けれど、何かおかしい。
あるはずのものが、そこにない。

気づけば、鼻が消えていた。



不条理小説を目指したら、
わけが分からなくなりました🤣



#せりふ三題噺
#ほんとにいたんだって
#長靴ネモフィラ骨



いいなと思ったら応援しよう!