【せりふ三題噺】 ネモフィラパック
ミヤビは、朝からメイクが気になっていた。
一昨日訪れた海の陽射しで、
鼻の頭が擦りむけている。
まるで子どもみたい。
ファンデーションを重ねると、
擦りむけた皮と混ざって、凸凹になってしまう。
何度やり直しても、うまく隠れない。
気が付けば、家を出る時刻の二分前だ。
……しかたない!
やむなく、そのまま出てきたのだ。
◆
大学への道中。
羽の生えた手羽先が、ひらひらと飛んでいた。
「えっ、手羽先?飛んでる??」
思わず手を伸ばす。
手羽先は、ヒラっと身を翻し、道路の向こうに消えていった。
◆
大学に着く。
「ほんとにいたんだって!」
カナコには、全く伝わる気配がない。
「そんな事より、ミヤビそれ……」
「あ、うん。日焼けしちゃってさ」
思わず手で擦りむけを隠す。
カナコの目は隠せない。
「それ、ネモフィラがいいよ」
「え?」
「ネモフィラをすり潰して、日焼け跡に塗るんだよ。そしたら一発で治る」
カナコはいつだって間違えない。
「すぐ塗らないと、皮膚ガンになるよ!」
「えぇっ?」
ミヤビは思わず自分の鼻の頭を触る。
心なしか、皮膚が硬くなっている気がする。
「もう手遅れになりかけてる。
早くネモフィラ摘んでおいで」
「えっ?化粧品とか、塗り薬とかないの?」
カナコは首を振った。
「摘んだばかりのネモフィラを、すり潰すのが常識だよ」
カナコの目は真剣だ。
とすると、自分が知らなかっただけなのか。
もしかしたら、最新の美容では、
ネモフィラパックが当たり前なのかもしれない。
「ありがと!カナコ」
「あっミヤビ……ふくさ……」
ミヤビは急いで向かう。
ネモフィラの群生地は泥濘んでいる。
長靴が必要だ。
◆
ネモフィラ畑に分け入る。
グニュッと泥に沈み込む感覚。
長靴、正解!!
辺りを見渡すと、ひとりの女性が
同じようにネモフィラを摘んでいた。
彼女も長靴を履いている。
「あの、これ摘んでもいいんでしょうか?」
女性はミヤビの顔を見ると、顔色を変えた。
「はやく塗らないと手遅れになるわ!」
「わたしの花をあげる。
水と、骨をすり潰して混ぜて塗るのよ!」
「えぇっ!?」
女性の剣幕に圧倒される。
ほ、骨……??
なんの骨でもいいのかな。
ひとまず女性にお礼を言い、
ネモフィラを受け取った。
◆
ごりごり、とネモフィラと骨をすり潰す。
台所にあった手羽先の骨を使った。
水を混ぜて、と。
なんともいえない物体が出来上がった。
ブルーに染まった、骨のすり潰し。
ミヤビはそれを指で掬い、
そっと鼻の頭に塗った。
ゾリゾリ、とした。
鶏肉の臭いがする。
◆
鼻の頭の擦りむけは、一瞬で治った。
けれど、何かおかしい。
あるはずのものが、そこにない。
気づけば、鼻が消えていた。
了

わけが分からなくなりました🤣
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