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【花の硝子庭】花の精たちのお茶会

柔らかい光の午後、丘の上に半透明の温室が現れた。
ガラスの壁の向こうでは花々が風に揺れ、光の粒が空気に漂っている。
人間には決して見えない、花の精たちの集会所だ。
床は水晶のように透き通り、花びらの雫を注いだ小さな器が並んでいる。

「ふぅ……やっと戻ってこれた」
金木犀の精・香玖弥が頭をかきながら腰を下ろした。
金色の髪に散った花びらがぱらぱら落ちる。
「また人間に恋して消えてたんですか」
淡紅の小袖を着た撫子の精が、にこやかに器を差し出した。
「今回は本気だったんだよ〜」
香玖弥は肩をすくめ、雫を一口。甘い香りが漂う。


「あなた、本当に懲りないわね」
夜顔の精が扇をひらりと動かしながら笑う。
長い黒髪に白い花を挿し、妖艶な目元がやわらかく光る。
「まあまあ、姉御、そんな冷たく言うなよ」
冬の白い息をまとったクリスマスローズの精が、ひょうひょうとした口調で割って入った。
黒髪に白い花を飾り、悪友のような笑みを浮かべる。
「香玖弥の性分だろ、秋が来ればまた香りたくなるんだよ」

「ねえねえねえ!」
花びらのリボンをまとった秋桜の精が駆け寄ってきた。
無邪気な瞳がきらきらしている。
「人間ってそんなに面白いの? 私も行ってみたい!」
「だめよ、まだ早いわ」
夜顔が軽く秋桜の鼻先をつつく。
「風に運ばれてる花びらじゃあるまいし」

「おい、キツネ。ちゃんと座ってろ」
ススキの精が肩の白い狐を撫でながら、半分笑って言った。
銀色の髪にススキの穂を挿した青年は、目を細めてみんなを見渡す。
「まあまあ、今日集まったってことは、みんなまた何かしでかしたってことだな」
狐の尻尾がふわりと揺れ、香玖弥の頬に触れる。
「ひゃっ、冷たい!」
「はは、面白いな、あんた」


「はい、雫どうぞ」
撫子の精が全員に器を配って歩く。
薄紅色や淡青色、白い雫が揺れるたび、人間界での記憶がふっと香り立つように蘇る。
「ねえ、次は誰がどの人間に関わる?」
秋桜が首をかしげる。
「決めるのは風だよ」
ススキが狐を抱き上げ、空を見上げた。

温室の天井を満月の光が透かし、全員の影が花びらのように揺れる。
精霊たちは笑い声を交わしながら、またひとつ人間界の物語を思い描いていく。

霧のような光が立ち上り、花の集会所はゆっくりと消えていった。
次に現れるのは、誰かの恋と運命が動く時だ。

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