【短編小説】 プラネタリウム殺人事件
プラネタリウムで、
動かない人影があった。
幻想的な星々が観客を宇宙へ連れ出し、
いっときの夢へと誘う。再び明るさが戻った時、
観客はゆっくりと目覚める。
後ろから3列目、H-7席のシートの人影は
ピクリとも動かなかった。
「お客様。終わりましたよ?」
案内の女性が声をかける。
座っていた女性は、がくりと首を垂れた。
「きゃーーーー!」
悲鳴が空間を切り裂くように、響き渡った。
「し、死んでる……」
◆
一週間後。
捜査一課の若手刑事風間は、
プラネタリウムに立っていた。
事件以来、封鎖された館内には照明が点灯し、
座席の薄いグレーが、やけに色褪せて見える。
事件は雲を掴むようにあやふやだ。
「一体、どいつが犯人なんや?」
◆
夫「ユキオ」の証言
ぼくはH-6シートに座っていました。
はい、妻が空調が寒いって言うんでシートを交代したんです。
プラネタリウムには毎シーズン来てます。
今回は「ギリシャ神話の浮気者」の回でした。1年前に観た演目と同じなんですけど、妻が好きなんです。ゼウスが浮気して、ひどい目に遭う話が好きとかで。
はい、途中で席を立ちました。お腹が痛くなって、トイレに籠っていました。サービスのハーブティーを飲みすぎたのかもしれません。上映後に席に戻ろうとしたら、騒ぎになっていて……。
えぇ?ぼくですか?
ぼくがナミコを殺すはずがありません。
彼女を愛していますから。
◆
案内の女性の証言
はい、それはもう驚いて……。
最初は寝ていらっしゃるのかなと思いました。
よくいらっしゃるんです。心地よくて眠ってしまうお客様が。受付でサービスのハーブティーをお渡ししていますので、リラックス効果もあるんでしょうかね。
起こして差し上げようと思いました。
でも、私が声をかけましたら、首がガクリと……
あぁっ!
すみません、取り乱しました。
お客様は白目を剥いて、明らかに息がございませんでした。はい、死んでいると思いました。口から泡を吹いて、この世のものとは思えない形相で……。すみません、気分が悪くて……。あれから眠れないんです。
そういえば。
受付で男性より荷物をお預かりしました。小さな包みで、昆布みたいな匂いがしましたね。後で取りに来ると仰ったので、「受付で待ってますね」と言ったんです。
いえ。ユキオ様ではありません。
いかにもバンドマンという風情の男性でした。
◆
愛人「ヒロミ」の証言
あたし?うん、ユッくんと付き合ってたよ?
もう半年になるかな。ユッくんは、奥さんが別れてくれないって言ってた。
でも、あたし殺してなんかないよ。あの日はバイトだったし、何よりユッくんとは遊びだもん。本気で離婚されても迷惑だよ。バイト?試飲のサービスだよ。
ユッくんは、カレンダーが恐怖って言ってたかな。結婚記念日とか、付き合った記念日とか、とにかく記念日だらけだったんだって。花丸が無言の圧みたいに見えたって。
まぁでも、結婚記念日くらい大事にしてあげなよって思ったかな。だから、ご飯作って貰えなくなるんだよって。
◆
バンドマン「イツキ」の証言
俺と結婚すれば良かったんだよ……!甲斐性はねぇけど、ナミコを愛する気持ちは誰にも負けね〜。くそっ!力になれなかった。
え?受付で包みなんか渡してねーよ!
プラネタリウムに行ったのは、偶然だ。星が好きなんだよ。大学でナミコと一緒に天体観測サークルだったしな。
えぇ?位置情報がおかしいって?
くそっ!そうさ。ナミコの行動をちょっとばかし監視してた……いや、ストーカーじゃない!
分かったよ、白状するよ。
プラネタリウムに行ったのは、後をつけてたんだ。ナミコが、身の危険を感じるって相談してくれてたからさ。
俺はナミコを愛してる。
あんな旦那なんかよりもずっと……。
◆
「全員証言がバラバラや。誰が犯人なんや?」
風間は資料を睨みつけた。
じっと見ていると、おかしな点がいくつも浮かび上がってくる。
……待てよ。受付の女は、どこでユキオの名前を知ったんや??
了

■セリフ
「受付で待ってますね」
■三題
・宇宙
・カレンダー
・昆布
