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【短編小説】 赤信号のニンフ

路地裏に、
ひっそりとぶどうの木が生えている。

芳醇な香りを撒き散らし、
夜の闇に堂々と佇んでいた。

房をもごうと手を伸ばす。
するする……。
蔓が伸びて、わたしの右手に絡まった。

「やぁ、こんばんは。お嬢ちゃん」

少年のような男が、盃を掲げている。

「僕は酒の神。
ぶどう酒を飲んで、一緒に騒ごうよ」

甘い香りに頭が昂る。
誘われるまま、盃に唇をつけた。



ぶどう味が全身を駆け回る。
視界の中で、路地裏の信号機が目まぐるしく色を変えた。

赤。黄。青。

青に変わった瞬間、
蔓が身体中を締め上げる。

あぁ、思い出した。

わたしはかつて、ぶどうの精だった。
酒神に愛され、永い時を共にしたニンフ。

「ディオニュソス様」

ぱしゃん、と足元で完熟した実が弾ける。

「やっと思い出したね」
彼がわたしの手を取った。

背後で信号が赤に変わる。

その合図はもう、わたしには届かない。


360文字



#毎週ショートショートnote
#信号機ぶどう味



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