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🌸第9話「桐原家の御曹司」

「……二人を助けたいの。だから一緒に来て!」
思わず声を張った私に、黒百合は冷ややかに返した。

「人間に頼るなんて、くだらない」

白百合が兄の言葉を遮る。
「兄さん。人を動かさなきゃ、世界は変わらない。僕らだけで抗えば、また倒れるだけだ」

黒百合は不満そうに黙り込む。私は胸の奥のざわめきを押さえ、口を開いた。
「私は……公害を止めたい。そのために、信じられる人に相談したいの」

―――――

桐原メディカルコーポレーションの応接室。
桐原遊馬さんは、変わらぬ色男の笑みを浮かべて迎えてくれた。

「やあ、紗良。すっかり大人っぽくなったな。……で? そっちの綺麗な小僧二人は何だ? やけに目つきが鋭いじゃないか」

遊馬さんの家は、大正時代から続く医療貿易の大手企業を経営している。
花霞財閥とも深い縁があり、彼自身も若くしてコーポレーションの役員に就任していた。

人を惹きつける魅力にあふれ、女性からの人気は抜群。
そんな遊馬さんに、私は幼い頃から妹分としてずっと可愛がられてきた。


黒百合は眉をひそめて顔を背け、白百合は苦笑いしながら頭を下げる。
「……事情があって、一緒に来てもらいました」

遊馬さんは肩をすくめ、軽く笑った。
「ま、いいさ。普通の子供じゃないことくらい、見ればわかる」

私は息を整え、本題を切り出した。
「花霞の工場からの排水で、街が傷ついています。私は、どうにかして止めたいんです」

その瞬間、遊馬さんの瞳から軽さが消えた。

「変わり始めたのは十五年前だ。当時、俺は十歳だった。優しかった親父さんが、ある日を境に人が変わったようになった。
この立場になってから、花霞の決算書や株主報告を見たが、あの頃から花霞財閥は急拡大してるんだ」

私は息を呑んだ。
黒百合は腕を組み、吐き捨てる。
「やはり人間は欲に負ける……それが本性だ」

遊馬さんは黒百合をじろりと見て、口元を吊り上げた。
「ガキの姿でそんな口を叩くとはな。……中身はずいぶん大人びてる」

「なっ……!」黒百合が言葉を詰まらせ、白百合が「すみません」と苦笑する。

私は遊馬さんを見つめ、強く頷いた。
「過去を掘り返せば、今を変えられる……そういうことですね」

遊馬さんは口元に軽い笑みを戻しながら、肩をすくめて言った。
「ま、ややこしいことは置いといて。紗良、お前ならやれるさ」

――人を動かす。それが、私に託された役目。




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