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【短編小説】 ゆめかちゃんの隠しごと

長いこと、俺はネカマをやっている。
ハンドルネームは「ゆめか」
いかにも女子って感じだろ?

『話題の白玉フルーツ団子、食べてきましたぁ』

『ゆめかちゃん、女子だねぇ』
『俺は、昨夜のストロングゼロのせいで、頭ガンガンだわ』

『アッシュさん、ありがとー☆
ナポ玉さん、気合い入れてこ!』

SNSの画像投稿サイトに、
白玉フルーツ団子の写真をアップする。

窓からの自然光で、
団子がしゅわしゅわ美味そうに見える。
写真にこだわる。これが女子ってやつだ。

俺は、単純にスイーツが好きだ。
老舗の和菓子も、定番の洋菓子も、
いわゆる映え系の新商品も。

スイーツは、芸術品だと思う。
見た目の美しさも、味へのこだわりも、
全てが繊細で作り手への尊敬を禁じ得ない。

口に含むと感じる甘さの罠。
その罠にドップリハマって、抜け出せない。

だからゆめかは、
スイーツの記事をアップする。

昼休憩中、後輩の菜月がスマホを見せてきた。
陸上部出身で、体力とフットワークのお化けだ。

「先輩、白玉フルーツ団子って知ってます?」
耳を、疑った。
見せたのは、俺の投稿画面。

ブハッ!
危うく珈琲を吹き出すところだった。

「いいいや?知らないわよ、美味しいの?」

「なんですか先輩、女性みたいな口調で(笑)
この投稿者さんのページ、ハズレなしなんです」

菜月は「今度買ってみよ〜」
と楽しそうだった。

ネカマなんてやってると、時折、いや頻繁に
口調が女性っぽくなることがある。
マジで、気まずい。

きっかけは、当時付き合っていた彼女だ。
ゼラニウムの香水が好きな人だった。
けれど俺たちは、喧嘩が絶えなかった。

俺は、こっそり彼女の愚痴を、
男女逆転させてSNSに投稿した。

そうすればバレないと思ったんだ。

結局バレはしなかったけれど、
俺たちの関係は終わり、SNSだけが残った。

菜月は、体力があり過ぎて、
時々空回りしてしまう。

ひとりで夜中まで資料を作って、
誰よりも早く仕上げてくる。

そういうのには、反発もある。

「つい、やり過ぎるんです、わたし」
彼女は残業中にそう零した。

「何事もジャスト・イン・タイム。
それがお客様目線ってやつだろ?」

それから彼女は変わった。

無理な残業をしなくなったし、
必要な時に資料を提供し、
かつ同僚の仕事まで手伝っている。

まん丸な白玉みたいに、真っ直ぐなやつだ。

時おり、芸術品みたいに透明なゼリーを
ぐちゃぐちゃにかき混ぜたくなる。

綺麗なものほど、形が変わるところを
見てみたい。

元カノのことも、たぶんそうだった。
透明だった人を、俺は少しずつ濁らせた。

今日もSNSを開く。

フォロー中のナポ玉さんこと、
“マッチョ界のナポレオンの卵”さんの
投稿を見つけた。

『ゆめかさんオススメの、白玉フルーツ団子、
食べました!』

写真を見る。
キラキラした白玉団子が掲載されている。

俺は、ふと画面の端を見つめた。
白玉フルーツ団子の置いてある場所の画像。

オフィスのデスクだ。

整理整頓されたデスクの端に、
緑色の小さなぬいぐるみが二体。

モリゾーとキッコロだ。

今から約20年前の万博のキャラクター。
菜月のデスクをチラリと見る。

モリゾーとキッコロだ。

「やだぁ、うそん〜」
俺は、デスクに突っ伏した。

真っさらな白玉が、画面の中で光っていた。


もちもち食感、大好き



■セリフ
「気合い入れてこ!」
■三題
・ゼラニウム
・団子
・耳


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