【短編小説】 ゆめかちゃんの隠しごと
長いこと、俺はネカマをやっている。
ハンドルネームは「ゆめか」
いかにも女子って感じだろ?
『話題の白玉フルーツ団子、食べてきましたぁ』
『ゆめかちゃん、女子だねぇ』
『俺は、昨夜のストロングゼロのせいで、頭ガンガンだわ』
『アッシュさん、ありがとー☆
ナポ玉さん、気合い入れてこ!』
SNSの画像投稿サイトに、
白玉フルーツ団子の写真をアップする。
窓からの自然光で、
団子がしゅわしゅわ美味そうに見える。
写真にこだわる。これが女子ってやつだ。
◆
俺は、単純にスイーツが好きだ。
老舗の和菓子も、定番の洋菓子も、
いわゆる映え系の新商品も。
スイーツは、芸術品だと思う。
見た目の美しさも、味へのこだわりも、
全てが繊細で作り手への尊敬を禁じ得ない。
口に含むと感じる甘さの罠。
その罠にドップリハマって、抜け出せない。
だからゆめかは、
スイーツの記事をアップする。
◆
昼休憩中、後輩の菜月がスマホを見せてきた。
陸上部出身で、体力とフットワークのお化けだ。
「先輩、白玉フルーツ団子って知ってます?」
耳を、疑った。
見せたのは、俺の投稿画面。
ブハッ!
危うく珈琲を吹き出すところだった。
「いいいや?知らないわよ、美味しいの?」
「なんですか先輩、女性みたいな口調で(笑)
この投稿者さんのページ、ハズレなしなんです」
菜月は「今度買ってみよ〜」
と楽しそうだった。
◆
ネカマなんてやってると、時折、いや頻繁に
口調が女性っぽくなることがある。
マジで、気まずい。
きっかけは、当時付き合っていた彼女だ。
ゼラニウムの香水が好きな人だった。
けれど俺たちは、喧嘩が絶えなかった。
俺は、こっそり彼女の愚痴を、
男女逆転させてSNSに投稿した。
そうすればバレないと思ったんだ。
結局バレはしなかったけれど、
俺たちの関係は終わり、SNSだけが残った。
◆
菜月は、体力があり過ぎて、
時々空回りしてしまう。
ひとりで夜中まで資料を作って、
誰よりも早く仕上げてくる。
そういうのには、反発もある。
「つい、やり過ぎるんです、わたし」
彼女は残業中にそう零した。
「何事もジャスト・イン・タイム。
それがお客様目線ってやつだろ?」
それから彼女は変わった。
無理な残業をしなくなったし、
必要な時に資料を提供し、
かつ同僚の仕事まで手伝っている。
まん丸な白玉みたいに、真っ直ぐなやつだ。
◆
時おり、芸術品みたいに透明なゼリーを
ぐちゃぐちゃにかき混ぜたくなる。
綺麗なものほど、形が変わるところを
見てみたい。
元カノのことも、たぶんそうだった。
透明だった人を、俺は少しずつ濁らせた。
◆
今日もSNSを開く。
フォロー中のナポ玉さんこと、
“マッチョ界のナポレオンの卵”さんの
投稿を見つけた。
『ゆめかさんオススメの、白玉フルーツ団子、
食べました!』
写真を見る。
キラキラした白玉団子が掲載されている。
俺は、ふと画面の端を見つめた。
白玉フルーツ団子の置いてある場所の画像。
オフィスのデスクだ。
整理整頓されたデスクの端に、
緑色の小さなぬいぐるみが二体。
モリゾーとキッコロだ。
今から約20年前の万博のキャラクター。
菜月のデスクをチラリと見る。
モリゾーとキッコロだ。
「やだぁ、うそん〜」
俺は、デスクに突っ伏した。
真っさらな白玉が、画面の中で光っていた。
了

■セリフ
「気合い入れてこ!」
■三題
・ゼラニウム
・団子
・耳
