世田谷八幡宮(東京都世田谷区宮坂)参拝ショートストーリー
世田谷線の2両編成の電車がチンチンと長閑な警笛を鳴らし、宮の坂駅のホームに滑り込んだ。電車を降りてすぐ目の前、十一月の柔らかな木漏れ日の中に、世田谷郷の総鎮守・世田谷八幡宮の鬱蒼とした杜が広がっている。
「近藤君、駅を降りて本当にすぐ目の前なんだね! 鳥居の向こうの木々が黄金色に染まってて、すごく格式を感じるよ」
まゆみは淡いキャメル色のニットカーディガンの裾を整え、大鳥居を仰ぎ見た。手元の取材バインダーには、下馬エリアで集めた手応え十分のメモが挟まれている。
「ここは平安後期、源義家が後三年の役の帰りに宇佐八幡宮を勧請したのが始まりなんだ。のちに世田谷城主の吉良頼康が社殿を再建して、城の北西を守る要とした古社だよ」
近藤正二は一眼レフを構え、参道脇の厳島神社(弁天社)の湧水池と朱塗りの橋をファインダーに捉えた。池の水面には色づいた木々の葉と秋の青空が鮮やかに映り込んでいる。
「カシャ」
「見て、まゆみさん。あそこにあるのが、江戸郊外三大相撲の一つに数えられた奉納相撲の土俵だ」
境内の一角、すり鉢状の観覧席に囲まれた屋根付きの立派な土俵を見つめ、まゆみは目を丸くした。
「本当に境内に土俵がある! ここで昔の人たちが力を競い合って、豊作や勝負の運を神様に祈ったんだね」
「そう。吉良氏の武勇や力自慢の若者たちの熱気が、今もこの土俵に残っているみたいだ」
二人は石段を上がり、重厚な木造社殿の前で二礼二拍手一礼。世田谷の地を千年以上見守り続ける八幡大神に、沿線巡りの後半戦への無事と成功を真摯に祈った。
「下馬の祈りから、世田谷城の守護と力強い勝負運の八幡宮へ……どんどん物語が繋がってきたね!」
「ああ。隣の豪徳寺へ向かう前に、この力強いエネルギーをしっかり写真と文章に刻もう!」
木々の間を吹き抜ける清々しい秋風を受けながら、二人は頼もしい笑顔を交わし、次なる歴史の現場へと歩みを進めた。
