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osakanabunko
【シロクマ文芸部】文庫本|エッセイ
タイトル:文庫本の重さ
文庫本から始まる時間がある。
鞄の中に一冊入っているだけで、
少しだけ安心する。
大きすぎず、
軽すぎず、
片手で持てるあのサイズ。
文庫本には、
“持ち歩ける世界”という感じがある。
ページを開くと、
さっきまでいた場所から、
少しだけ遠くへ行ける。
電車の中。
待ち時間。
眠れない夜。
どんな場所でも、
物語は静かに始まる。
不思議なのは、
内容だけじゃなく、
その本を読んでいた時期まで思い出すことだ。
あの駅。
あの季節。
あの頃の気持ち。
紙の匂いや、
少し折れた角まで、
記憶と一緒に残っている。
電子書籍も便利だけれど、
文庫本には“手触りの記憶”がある。
読み終わったあと、
しおりを挟んで閉じる瞬間。
その小さな動作に、
物語をしまう感覚がある。
文庫本は、
読むものというより、
時間を一緒に過ごすものなのかもしれない。
何度も読み返した本ほど、
少しくたびれていく。
でも、そのくたびれ方が、
どこか愛おしい。
人の手を渡り、
時間を吸い込みながら、
静かに形を変えていく。
文庫本から始まるものは、
きっと物語だけじゃない。
そのときの自分や、
季節や、
心の温度まで含めて、
そっと残っていくのだと思う。
了

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