『安らかな言語訓練』──穏やかじゃない妻
脳出血の後遺症が色濃く残る頃──
失語症により、まだ発語ができない妻は、懸命に“ことば”を学ぼうとしていました。
その姿を、私は毎日、背中から静かに見守りながら──
言語訓練(ST)は、私にとって、
とにかく"安らかな時間"でした。
もちろん失語症の妻にとっての言語訓練は、大事なリハビリの一つであり、
その日の訓練内容を、リハビリが終わったあとの自主トレに活かすためにも、
私は訓練内容を把握しておかなければなりませんでした。
言語訓練は他のリハビリと違い、
5〜6人程度入れるような、比較的せまい個室で行われていました。
妻は言語聴覚士の先生と机を挟んで向き合い、私はやや離れた位置に座って、
妻の背中越しからその訓練を見る必要がありました。
まだ発語が十分に出来ない妻は、
先生の口の形を真似ては、『あー』だの『いー』だのと発語を試みたり、
先生がカードを出しては妻が指さしたりしていました。
残念なことに、この言語訓練が他のリハビリと違うのは──
私の出る幕は一切ないということでした。
妻に声援すら送れずに、
ただ黙って先生と妻のやり取りを背後から見ているだけの時間というのは──
私にとって、あまりにも心地よく。
その上、部屋の中は暖房が効きやすく、
PCの熱や人の体温も加わり、
訓練が始まると、すぐにほんわかと安らかな空間になりました。
知らぬ間に、私の意識は遠のいて──
私は妻の後ろで、
コックリ、コックリ、zzzz と──
『はい、じゃあ今日はこれで終わります』
と、先生が言ってから、
訓練が終わったことに気付くことも多々でした。
──
部屋をあとにして、
妻の車椅子を押しながら、
『今日はよく出来たんじゃない?』
と言ってみれば、
私を睨みつけて、
ずっと寝てたじゃん?💢
と言いたそうな顔、、怖っ!💦
そんな言語訓練でしたが、妻はリハビリの中でも、特にそれが好きでした。
どうにも安らかになってしまう、
その訓練は私も好きでしたが──、
前述の通りです。
入院生活が200日を超える中で、
妻の言語聴覚士(ST)の先生は、3〜4人で担当をしていました。
どの先生も驚くほど優しくて、しかも皆さん若くて見た目も綺麗で、
柔らかい雰囲気を持っていました。
他のリハビリの先生も、とても優しいのですが、その病院の言語の先生は群を抜いており。
言葉の使い方から、表情の作り方から、
とにかく丁寧で、
いつも一緒にいる私まで癒されていました。
失語の症状がひどい妻の言葉を、
一生懸命に聞き取ろうとしたり。
また綺麗な顔立ちをしているのに、
発語の訓練では、
「いー」だの「うー」だのと、口角を大きく広げたり、つぼめたりと。
仕事とはいえ、私が直視しては、
いけないような顔や口の形を見せてくれた姿には、敬意しかありませんでした。
あるSTの先生は、
産休のため、妻の退院を見届けられなかったことを気にして、
わざわざその後に入所した、障害者支援施設まで、妻の様子を見に来るほど、妻のことを気にかけてくれていました。
──
ある日、妻に、
『言語の先生って、綺麗な人多いし、みんな優しくて良いよね〜』
と、つい漏らせば──
黙って私を睨み、
どこ見てんの?💢
と言いたそうな顔、、、
こ、怖いんですけど💦

『安らかな言語訓練』
──穏やかじゃない妻【完】
※あくまでも、STの先生方への見方は、
わたしの個人的な見解になります。
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