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【解説】『バランスポイントでグリップしない』/ドラムセットを鋭く鳴らす「プロの技術」#1

■ バランスポイントでグリップしない理由は?

ドラムセットはマルチパーカッションですので上下左右、つまり三次元の動きが存在します。よって平面で限定されたスネアドラムを演奏する際の「ルーディメンツ」のセオリーとは違った考え方が必要です。

リバウンドを練習するのは基本として大切です。しかし「バウンドさせる」という行為はエネルギーが逃げてしまいます。単一の平面を連続でストロークする際には有効ですが、ドラムセットの演奏で必要なアタックが不足して「ぼんやり」とした締まりのないサウンドになってしまいます。

【重要】「バランスポイント」という支点近くでグリップする、ということは「スティックの相対重量をほぼゼロにする」ということです。つまりチップにはトルクがあまりかかりません。その結果、リバウンドには効果的ですが「チップの重さが感じられない」「トルクが不足して音量がでない」「音型を演奏する際に不安定になる」というデメリットが生じます。

■モダンドラミングは「リバウンド」を考慮しない
ドラムの音がはっきり聞こえない原因は「リバウンド」を意識しすぎて、アタックの弱い俗にいう「マイク乗りの悪い音」になっている場合があります。これは打面をヒットした瞬間の握り込み(ロックオン)が弱いことが原因でしょう。

基本的にモダンドラムセット(現代楽器)はフルショットして振り切らないと鳴りません。イメージは「ロックドラミング」です。モダンジャズ時代のビンテージ楽器はハーフショットでも柔らかく豊かに鳴りますが、アタックが弱く「音が小さい」と感じることがよくあります。ようするにビンテージ楽器とモダンドラムでは奏法(鳴らし方)がまったく違うと言えます。

■ 練習パッドでの確認

固めの練習パッドを用意してください。まずは基本の確認で、バランスポイント、つまりスティックの1/3あたりを支点にして親指と人差し指でグリップしてストローク。当然ですが柔らかく連打が可能な、リバウンドを基本とする一般的な打楽器セオリーで、中級者がパッド練習の際にやっている「グラッドストーンテクニック」です。

前述しましたが、リバウンドするための「バランスポイント」で保持し「ダブルストローク」をするグリップのまま「ドラムセットを演奏する」ことは、自分の考えではやりません。

■「スラップストローク」のためのロンググリップ

さて、次にスティックをギリギまで長く持って、その際に親指と人差し指は緩めて、薬指と中指をグリップエンドにひっかけるだけで、小指は外してください。打面をヒットするとテコの原理、つまり距離の短い薬指の握り込みで「カッ!」と硬い音が鳴るはずです。その時はスティックの共鳴もほぼ無くなります。

「スラップストローク」のためのロンググリップ

この方法でストロークするとチップスピードが上がり、ヒットの瞬間は肘からチップまでが一体化してパワーが逃げないので、強い音が出ると同時に、ドラムセットのサウンドが「ショートディケイ」(音が短くなる)になります。

注意すべき点:薬指は必ず「スティックから常に離れない」ということ。
ある意味「握ったまま」演奏します。リバウンドはほぼ使いません。ダブルストロークもホールドしたままです。というか「RR」あるいは「LL」というのは「たんなる手順」であって、かなり速くてもダブルストロークではなく「シングルが2回」です。そうでないとヘッドテンションが低いフロアータムなどはダブルでは鳴らせません。もしスネアーのクローズドロールが必要な時は一般的なセオリーに瞬時に切り替えて「親指と人差し指」のバランスポイントにグリップシフトして、スティックエンドは解放します。

これが自分が演奏経験から生み出した「歯切れのよい音」を出すコツで、ムチで叩いた(スラップ)ような「ビシッ!」という締まったサウンドが可能になります。この奏法の場合スティックの太さは14mm以下を推奨します。
※江尻モデルは公称14mmとしていますが、実測は13.8mmくらいです。これ以上細いとジャズコンボ以外の演奏は難しく必要な低音が不足します。

「スラップストローク」用グリップの裏側

中級までの考え方はバランスポイントを支点にしたルーディメンツのストロークセオリーでOKですが、ドラムセットに座った時にそのままのストロークのイメージがあると、上下、左右に楽器がある3次元のドラムセッティングに対応できず、ポップアンサンブルに必要な音量とアタックが不足してしまいます

■新しい楽器、シンバルを振り切って演奏することの重要性
ドラム演奏での盲点は、ドラムに座って演奏して自分で聴いていて「ちょうどよい」音量やアタックでは、外側で聴いている人や共演者には「倍音やボリュームが足りない」つまり「音飛びが弱い」という真実です。

つまり自宅でエレドラばかり練習していたり、目の前に「聴衆」という演奏者へのエンパワーメントがない、あるいは「ビンテージドラム」にこだわっているとドラムセットが「箱庭サウンド」あるいは「四畳半ドラム感覚」になってしまいます。頻繁にラージ会場でライブ演奏をしていない人は、こういった「振り切れていない」ストロークとサウンドの劣化に注意が必要です。
そういった視点から見てみると、YouTubeでインストラクションを展開している講師の方々の多くは、そのほとんどのショットが振り切れていないように思います。ゴルフで言えばドライバーショットを「200ヤード以下の飛距離感覚スイング」で論じても、試合では意味がないことは明白です。

新品のモダン楽器を力強く振り切って演奏することは、どんなに高価なビンテージドラムに勝ります。楽器も当然ですが「経年劣化」して、シンバルも同様なわけで、新品の鳴りには「古いオールドシンバル」は及ばないことを知っていただきたいと思います。

■手を高く上げて待っているということ

学校の吹奏楽部のドラマーをみるとルーディメントのストロークのまま演奏して、手全体の位置がスネアーの真上にあって、スティックが垂直線より後ろにテイクバックできていない状態をよく見ます。そういった状況を変えていくには、上記で説明した「スティックを長く持つ」そして「一時的に」シンバルを今よりかなり高くセッティングして、自分の目の高さレベルにシンバルのセンターホールが来るようにしましょう。そしてシンバルをショットする時は、親指が目の位置まで上がっていることを確認してみてください。

■テニスもゴルフもグリップのギリギリ後ろを持って振っている
参考になるのは「ボクシング」「野球のバッター」「テニス」、テイクバックの際にどのタイミングで、どこに手(バット、ラケット)があるのか?
セオリーとしてテイクバックしてから高い位置で待っているはずです。

ドラムセットはマルチパーカッションですので、すべての楽器から等距離にある空間のポイントが「手の準備位置」で、そう考えると手は「挙げている」ほうが簡単に演奏できます。

また自分もテニスとゴルフを長年やっていますが、選手は誰も「バランスポイント」でラケットやクラブは持っていません。野球も当然ですがバットエンドのギリギリをホールドしています。そういった「フルスイング」する道具を考えた場合に、リバウンドを考慮したバランスポイントをグリップする、というのは「パワーが出ない」ことは当然かと思います。

◆ボールジョイント理論によるグリップとストローク

ロックドラミングなど場合によっては薬指も使わず「親指、人差し指・中指だけ」つまり三本の指でスティックのエンドのギリギリを持つ場合もあります。

これはロンググリップのなかでも「スリーフィンガーグリップ」とも呼ばれ、グリップエンドを「ひとつの関節」として指の中にホールドしているだけであって「なるべくスティックとの接触面を小さくする」セオリーです。

ようするに「ボールジョイント=自在接手(つぎて)」のようにイメージすることで、深いテイクバックのフルショットが可能になる。これはある意味「手首の動きをセーブする」という省エネ奏法でもあり「手首を使わないでストロークの振り幅を極大化する」ということ。パワードラミングでケガやトラブルを回避するためのグリップ方法でもある。

さて、ドラムセットでのストロークは「バンザイ」の状態がイメージの基本で、スティックの準備しているレディーポジションは「チップが上=天井」に向いていることが理想です。これが分かれば、きっとあなたの音の出方は変わってくるでしょう。

※ストロークの参考動画(演奏中に指は開かない、シンバルレガートも同様で握ったまま。基本はロンググリップのみで、クローズドロール時のみ親指と人差し指に切り替え)

【重要】自分の考える方法論は「個人だけのもの」
このような独自のセオリーはレッスンでは説明していません。専門学校や音大、リズケンの研究生プログラム等の専門教育でも同様です。

その理由は「専門レッスンとは共通する基本的かつ汎用性のあるセオリー」を共有する場であって「自分独自の演奏スタイルや奏法を生徒や学生に伝授して模倣させること」が目的ではないからです。

また専門的なレッスンを受ける方はほぼ100%「江尻モデル」のスティックは持っていませんし、購入を勧めることもありません。特に言及もしませんので江尻モデルがあることすら知らない学生も多いです。なので自分の奏法をレッスンで説明しても「オリジナルスティックを使った独自の奏法」を、まったく違うスティックを持った方が再現することは難しいのです。

これは「各自の体形や手足の長さ、手首の固定スキル、指の長さ(特に薬指、小指)、親指の反り具合」などの条件が違うからで、そういった個性とご本人がいまチョイスしているスティックは尊重すべきです。

加えて江尻モデルのようにチップ形状が「ラグビーボール型」の場合はリバウンドがイレギュラーになるため、ルーディメンツのレッスンには適していないことは、ここではっきりと申し上げておきます。

つまり前掲しているように自分のグリップはバランスポイントより後ろで握ったまま「リバウンドは使用しない」からです。ですので専門レッスンの場面でのルーディメントやストローク説明では、自分も生徒も「8A」などの球体チップを使用しています。

逆にルーディメントを履修しない「副科ドラム」等のグループレッスンの場合はこの江尻スティックは有効です。音量が小さく各自の音がはっきり聞こえるため、講師の耳に負担がかからず、生徒たちも複数のセットが鳴っている周囲の音に翻弄されずにパターン練習が可能です。

またスティックと楽器の関係ですが、ヤマハなどリム高が「低い」プレスリム系の楽器ではこのスラップ奏法(フラットヒットテクニック)は有効ですが、グレッチなどリム高が数ミリ高い(深リム)楽器ではリムショットの際の打撃の角度が深いため手の位置が上がってしまい、ラグビー型チップの先端しか打面にヒットせず、楽器がフルに鳴らずに細い音になります。これはシンバル以外でのサウンドではかなり問題があり、楽器との相性で十分に考慮すべきポイントとなるでしょう。

これらの個人の演奏方法や考え方が、上級を目指すドラマーや専門教育に携わる方へのなんらかのヒントになれば幸いです。

※上記の演奏はヤマハの当時のメイプルカスタム「プロトタイプ」(最初期に製作された新品)を演奏していますが、このような明るくアタックの強いサウンドは新品楽器の特徴で、少し時間が経つと変化してややアタックが大人しくなります。新品楽器のレコーディングサウンドの一例としてお聴きいただければと思います。

★モダンジャズのドラムサウンドは当時の「新品楽器」の録音です
皆さんはモダンジャズやビ・バップのお気に入りのレジェンドドラマーのレコーディングをよく聴くと思いますが、それらは当時の「新品楽器」の録音だということを知ってください。そういったサウンドに憧れて数十年経ったビンテージ楽器を演奏しても当時のサウンドにはならないことは明白です。

テキスト:江尻憲和(Norikazu Ejiri)