放課後【シロクマ文芸部|お題「波の音」】
「波の音ってどんな音だっけ?」
幼馴染で、たまたま同じ高校に通っていた僕とユミは電車で家に帰る途中だった。
同じ電車になった時は、お互い暇つぶしに、たわいもない話をすることが多かった。
「ザザーッとか、ザブーンって感じじゃないの?」
ユミは手を大きく振って否定した。
「そんなんじゃないよ。もっとこう、穏やかでどこまでも続く感じ。」
「ザザーッとかは穏やかじゃないの?」
「全然違うよ。わかってないなあ、ハルトは。」
ユミは人差し指を立てて横に振る仕草をした。
「いやいや、波の音はザザーッ、ザブーンだって!」
僕は少しムキになっていた。
「わかった。じゃあ確認してみようよ。」
「そうしよう。」
僕はそう言って、スマホで波の音を検索した。
ユミもスマホをいじりだした。
「30分くらいみたい。」
突然ユミが言った。
「何が?」
「このまま終点までいけば、海まで行けるよ。」
「今から海に行くの?」
「え、行かないの?」
僕は心臓の鼓動が早まっているのを自覚した。
「行くよ。」
ユミの方を向けなくて、窓の外をじっと眺めていた。
沈黙が続いた。
旧型の電車はその間を埋めるように、絶え間なく音を発していた。
日が傾き出していた。
眩しくて車内のほうへ体ごと振り返ると、
ユミの顔が少し赤くなっているような気がした。
きっと窓から入ってくる西日のせいだ。
自分たちが降りるはずの駅を通り過ぎた。
「なんか悪いことしてるみたい。」
ユミがいたずらに笑う。
僕は何も言わなかった。
またユミが話しかけてくる。
「ハルトといると気持ちが穏やかでいられる。」
ユミが深呼吸した。
「今日ね、2組の山本が私の悪口言ってるの聞いちゃったんだよね。」
「どんな?」
「私、手当たり次第、男に色目使ってるんだってさ。」
「ユミが?」
僕は手すりを握りしめていた。
「手当たり次第な訳ないじゃん。あーあ、波の音、早く聞きたいな。」
ユミは窓の外を見つめていた。窓ガラス越しにユミの表情が見えた。
僕の心は大荒れだった。
やはり波の音はザザーッ、ザブーンだ。
今回も参加させていただきました。
小牧さん、いつもお題をありがとうございます!
他にも短編やショートショートなどいろいろ挑戦しています。
こちらもよかったらどうぞ。
