支援学校と性教育講師【教育シリーズ12】
今年の春先。
いつも
教員対象の研修講師として
招かれている
支援学校の高等部から、
今年も
ぜひ研修をお願いしたい
という声と共に、
「特別支援教育ニーズのある
子どもへの性指導の在り方」
というテーマをいただいた。
もちろん、
このようなテーマで研修を
行ったことなど一度も無い。
話を聞けば、
特別支援教育ニーズのある
高校生に対して、
現実的にどのような点に
配慮しながら性教育を
行なっていけば良いか、
現場でも手探りで
行なっているとのこと。
そして
このテーマについて、
心理職ならどのように
考えるかをぜひ聞かせてもらい、
教員と共に一緒に考えて欲しい
という要望だった。
時期は今年の秋。
様々な予定が重なる
忙しい時期なのだが、
悩んだ末に承諾した。
しかし、
承諾したものの、
こちらも知識は
ゼロである。
そこで
この間にAIを使い
情報収集を行なっていた。
まずここ15年ほどの間に
出された文献を抽出する。
そうしたところ、
査読付きの学術論文で8本、
学会発表3本、
文科省・厚労省などの
公的ガイドライン8本、
大学紀要12本がヒットした。
次に、
これらの資料を
AIに要約させ、
現状の取り組みや
問題点を速やかに把握する。
その結果、
まず分かったのは
特別支援学校では
教師と保護者間の性指導に対する
温度差があることだ。
下の表は
文献レビューによる研究(注1)で
学校での性教育を「必要」だと
回答した割合だが、
教師・養護教諭側では9割以上が必要性を
認識しているのに対し、
保護者では半数程度となっている。

さらに見ていくと、
特別支援学校で性教育に
必要だと考えている内容にも
学校ー保護者間で
温度差があることがわかる。

この点については、
その後の調査で約70%の保護者が、
家庭での性教育は必要だと
考えていることが分かった(注2)。
つまり、
学校で性教育を行う場合、
保護者に理解と協力を
得る必要があるが、
そもそも学校と保護者で
必要だと感じている
その認識が違うため、
効果的な教育が進みにくいのだ。
加えて
文献を読み進めたところ、
現状として
以下4つの壁が
あることが分かった。
①「トラブル対処に偏った性指導」
→ 性的行動や対人トラブルが生じてから
個別対応する傾向があり、
予防的・発展的な学習が不足している(注3・注4)
②「リスク管理重視の性指導」
→ ①の流れからトラブル予防の
性指導(接近禁止など)に偏り、
子どもが本来持っている
権利・同意・恋愛・自己決定まで広がりにくい(注3・注5)
③「一人一人に応じた性指導の難しさ」
→ 障害特性・発達差が大きく、
教師も教材・指導・評価の仕方に困っている(注3・注4・注7)
④「継続的な性指導の難しさ」
→ 学年間や教師間、学校ー家庭などへ
継続的な支援として指導が連続しにくい(注3・注5・注7)
こうした壁に対し、
土台にすべき基本的な考え方を
包括的性教育(CSE:Comprehensive Sexuality Education)
というらしい。

狭義の性教育が
⑥〜⑧であったのに対し、
CSEに基づけば、
①〜⑤も「性教育」として
扱っていくことになる。
つまり、
「身体的な性以外にも、
互いの気持ちや大切にしているもの
の違いを理解すること」
「相手の価値観を尊重すること」
それも大枠では「性教育」という
理解なのだ。
そうすれば、
当然ながら②の「価値観、人権、
文化、セクシャリティ」や、
③の「ジェンダーの理解」
にあるように、
特別支援教育ニーズ+
セクシャルマイノリティ
といった子もいるはず。
いや、いて当たり前として
授業を組み立てていく必要が
ある、
ということになる。
また、
④の「暴力と安全確保」は、
性的同意を踏まえつつ、
性暴力からどう身を守るかが
入ってくる。
実際のところ、
障害のある子どもが
性暴力被害に遭うリスクは、
障害のない子どもに比べて
約2.9倍高く(注8)、
発達特性のある
成人女性を対象とした
アンケート調査では、
回答者32名のうち71.9%が
何らかの性被害に遭ったことが
あるという結果も見かけた(注9)。
もしかすると、
特別支援学校の
高等部であっても、
すでに性被害を受けた子が
いるかもしれない。
だとすれば、
学校で行う性教育によって、
生徒が傷つかないための配慮
(例えば退席の配慮など)も
考えなければならないかもしれない。
もちろん、
認知特性に配慮して
伝わりやすい授業内容にするのは
言うまでもないだろう。
①の「人間関係」については、
そもそも幼少期から苦手にしている
場合も多い。
とすると、
果たして高等部からの性教育で
何とかなるのだろうか。
いや、
きっと小学部からの
積み重ねが大切な部分だろう。
してみると、
高等部の研修で①を掘り下げるのは、
今回の場合あまり効果的ではない
かもしれない。
⑤の「健康とウェルビーイング(幸福)
のためのスキル」は、
医療でいう共同意思決定
(SDM:Shared Decision Making)
と重なる部分がある。
身近な大人と子どもが協力して、
その子の関心・嗜好・価値観に沿った、
最善の決定をするプロセスを共に考える。
その子にとって幸せに生きる力を
育む領域になるため、
CSE全体を支える
一つの到達点のようにも見える。
だから、
この⑤を達成するために
種々の正確な知識が
必要になるのだと考えられる。
そうすると、
⑤を頂点として、
⑥〜⑧を底辺に持つ
ピラミッドのイメージが
何となく頭の中に思い浮かぶ。
もちろん公式ではないピラミッド
なのだが、
経験上仮説として一つ
こういう視点を持っておけると
面白いことが多い。

‥よし、
これで研修アウトラインは完了。
あとは最前線の現場に合わせて
スライドを作成していくだけだ。
何もカンペキな
内容を目指すことはない。
要は研修会当日に、
高等部の先生方に
心理職からみた
考え方の起点だけを
置ければ良い。
研修会までの残りの期間、
コツコツとスライド作成に
取り組んでいこう。
注1)光武智美(2014)「特別支援学校における性教育の実施状況およびニーズについての文献的検討―全国を対象にした文献に焦点をあてて―」『学校保健研究』56巻5号、367–375頁
注2)光武智美・吉村匠平・森田慶子(2016)「発達障害児・者の家庭での性教育の必要性に関する研究」『学校保健研究』58巻3号、168–179頁
注3)村川歩里・牛山道雄「特別支援学校における発達段階に応じた性教育の現状と課題―非養護教諭と養護教諭のインタビュー調査を通して―」京都教育大33–40 https://www.kyokyo-u.ac.jp/Ccce/48a840a764b3cf04675b39b2a43609028c374193.pdf
注4)鶴岡尚子・北岡大輔・林修(2022)「特別支援学校における性教育に関する事例的研究(Ⅱ)―苦手意識をもつ教師へのインタビュー調査より―」『和歌山大学教職大学院紀要 学校教育実践研究』7, 89–97
注5)「人とのかかわり・からだ・恋愛・セックスを学ぶためのハンドブック」補助資料「支援の手引き」令和7(2025)年3月 厚生労働省 令和6年度障害者総合福祉推進事業
注6)金城実菜美・森浩平・下地斎・田中敦士(2015)特別支援学校におけるセクシュアリティ教育(恋愛学習)に関する文献的考察 『琉球大学教育学部紀要』85, 123–130
注7)寺門遼香(2023) 特別支援学校における性に関する指導の実態とよりよい指導の在り方 茨城大学教育実践研究誌 129–132 https://www.ppedu.ibaraki.ac.jp/wp-ppedu/wp-content/uploads/2023/03/38_寺門%E3%80%80遼香.pdf
注8)発達障害と性暴力被害―実態とリスク要因および求められる支援 2023年 日本発達障害学会『発達障害研究』45(2) 112–121
注9)岩田千亜紀・中野宏美(2019):発達障害者への性暴力の実態に関する調査.東洋大学社会学部紀要,56(2), 23-37.
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