8年ぶりの病棟 “あの頃の私に、伝えたいこと”
エレベーターの扉が開いた瞬間、
胸の奥がざわっとした。
この匂い。
この光。
この静かな緊張感。
足が一瞬、止まる。
ここは、娘が生後3か月の時、
心臓の手術を受けた病棟。
小さな体にたくさんの管がついていた、
あの場所。
8年ぶりだった。
今回は高熱。
1週間下がらなかった。
鼻水だけ。
それなのに、熱は続いた。
「様子を見るか」
「動くか」
その選択を迫られる時間は、
いつも静かで、でも鋭い。
市内で入院はできた。
でも、心臓の専門医はいないと言われた。
万が一。
その言葉が、頭の中で何度も響いた。
遠くても、かかりつけへ行こう。
夫と決めた。
正しかったのかどうかは、
その時にはわからない。
ただ、守りたかった。
検査を重ね、
原因は急性副鼻腔炎だった。
抗生剤の点滴が始まり、
熱は下がった。
「早い判断でしたよ」
先生のその一言で、
体の奥に溜まっていた力が、ふっと抜けた。
8年前の私は、
未来が見えなかった。
ただ、怖くて、
ただ、必死だった。
ただ、祈るしかなかった。
8年前は、
手術を受ける小さな子のママだった。
今は、
8年を乗り越えてここに立っているママ。
同じ場所。でも、私は違う。
今、
あの手術を乗り越えた娘が、
同じ病棟のベッドで少し笑っている。
もし、あの時の光景に出会えて、
あの時の私に声をかけられるとしたら。
こう言いたい。
道は続いていく。
どの道を選んで、どう進むかはわからない。
だけど、あなたはいつも家族に寄り添えているよ。
本当に、よくやってる。
8年ぶりの病棟で、
私は、あの頃の私を少しだけ抱きしめた。
不安はゼロにはならない。
母である限り、きっと。
それでも私は、
あのときより、少し強い。

それだけ本気で向き合ってきた証拠。
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