第5話 70万円で増やしたかったのはトラブルじゃないVRAMだ / ローカルLLMマシン構築記【実録】
マザーボードと電源ユニットを交換し、GPUを2枚搭載した。
電源ケーブルを接続しようとして、
「……あれ?」挿さらない。
マザーボード側のPCIe補助電源コネクタが見えない。RTX PRO 4500 Blackwellの下に隠れている。
GPUは2枚とも、ちゃんとスロットに収まっている。でも、電源を投入する最後の一歩が、塞がれていた。
この記事は、【実録】大人の失敗談で学ぶハードウェアの沼。30万円のゲーミングPCが、1年でAI専用機に変貌するまで。VRAM 16GB → 48GB → 64GBへと突き進む、あるエンジニアのノンフィクション・コメディです。
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第1話 始まりは30万16GBのゲーミングPCだった
この記事の読み方
このシリーズでは、無料と有料で役割を分けています。
無料(1話~7話)=ストーリー+知識
GPU選びで何を考え、なぜそのGPUを選んだのか。 実際の失敗談をストーリーとして楽しみながら、マルチGPUを検討するときに必要な基本的な知識を紹介します。有料(第4.5話など)=一次情報+検証+判断材料
実際に構築したマシンの実機写真、物理的な干渉、購入前チェック、構成判断など、経験して初めて分かった情報をまとめます。
「挿さなければいいのでは?」
まず頭をよぎったのは、シンプルな選択肢だった。
「このまま挿さずに動かせばいいのでは?」
GPUは物理的には挿さっている。GPU側の補助電源ケーブルはしっかり挿した。
このマザー側のPCIe補助電源さえ我慢すれば、動かせるのではないか。
必須の電源ではなく任意だよな?
スマホから、AIに相談してみた。
「マルチGPU構成で、マザーボードのPCIe補助電源を挿さずに使用するとどうなる?」
返ってきたのは、思った以上に怖い回答だった。
「挿さずに使用すると、最悪の場合、マザーボードの基板(配線層)が焼き切れる危険性があります。 この端子はオプション(任意)に見えますが、複数のグラフィックボードを搭載する場合は必須です。」
「ん?必須?……AIに心を読まれてる!?」
……この時、完全に組み立て作業の手が止まっていた。
AIに聞けば、一般論としての危険性は教えてくれる。
……でも、私の目の前にあるPCが実際にどうなっているのかは、AIにも分からない。
落ち着いて代替え案を検討する。
まず、補助電源コネクタを挿す方法自体は、2つ考えられた。
①2枚目GPUをマザーボードに直接挿さず、「ライザーケーブル」を使って縦置きにする
②追加GPUはマザーボードに直接挿した状態のまま、わずかな隙間に入るスリムな「8ピン補助電源アダプタ」を挟みケーブルを指す位置を逃す。
どちらも、大阪の日本橋まで行けば手に入るかもしれない。
「日本橋まで行くか?」
一瞬、本気で考えた。70万円払ったPCを完成させるために、今から大阪まで部品を探しに行く。
……完全に何かがおかしい。
そこで、思い直した。
買いに行く前に、まず測ろう。
この時点では、まだ何も測っていなかった。手元にあるのは、AIの警告と自分なりの仮説だけ。
それでも、まずは電源を入れてみないと、何も始まらない。
いきなりゲームやAI推論で負荷をかけなければ、大丈夫……だよな?
マザーボード側の補助電源を接続しないまま、恐る恐る電源ボタンを押した。
ここまでは、順調だった
ファンが回る。
BIOS画面が立ち上がった。
まず確認したのは、GPUの認識状況だった。
2枚とも、ちゃんと表示されている。
VRAMの合計を確認する。
16GB + 32GB = 48GB。
BIOSレベルでは、ひとまず無事だった。マザーボード側の補助電源を挿していない状態でも、電力周りで即座に何かが焼けるような様子はない。
ここまでは、順調だった。
そして、Windowsが牙を剥く
BIOSを抜けて、Windowsの起動を待つ。
ロゴが出る。
……いつもと違う画面が出た。
BitLockerの回復キーを入力する画面だった。
48桁の数字。
マザーボードを交換したことで、Windowsが「別のPCになった」と判断し、ドライブの暗号化を解除するための回復キーを要求してきたらしい。
幸い、事前にMicrosoftアカウントに紐付けていたおかげで、回復キー自体はすぐに確認できた。48桁を慎重に入力する。
通った。
「よし!」
そう思ったのも束の間、今度はログイン画面でPINの入力を求められた。
PINを入力する。
あれ?……弾かれる。
もう一度。
んんんん?……また弾かれた。
何度か試しても、先に進まない…。
BitLockerは通った。なのに、Windowsに入れない。ここで、心が折れかけた。
GPU選びに悩み、70万円以上を投じ、物理的な干渉を乗り越え、電源の問題も自分なりに判断してきた。
それなのに、最後の最後で、GPUともマザーボードとも関係のない、Windowsのログイン画面で足止めを食らっている。
何度かWindows回復画面から復旧を試みた。
でも、ここでさらに数時間を使うより、一度まっさらにして環境を作り直したほうが早い。
30年近くPCを触ってきた人間として、ここで意地を張る理由はなかった。
結論を出すしかなかった。OSを再インストールする。
OS再インストール、そして再出発
インストールメディアをUSBメモリに焼き、起動ドライブを作る。それから、まっさらな状態にしてWindowsを入れ直す。
こんな事もあろうかとバックアップは前日に済んでいる。時間のロスはアプリの再セットアップ程度。
このやり直し作業自体は、勝手知ったる工程だった。何度も繰り返してきた作業だ。
ドライバを入れ直し、必要なソフトを入れ直し、ようやくいつも通りのデスクトップに戻ってきた。
ここで、もう一段階、慎重になることにした。
いきなり2枚のGPUに同時に負荷をかけるのではなく、1枚ずつ確認する。
まず1枚だけで、PCIeの消費電力を見る。
検証したのは、消費電力の大きいRTX 5070 Tiだった。
RTX 5070 Tiだけを認識させた状態で、HWMonitorを起動する。
GPUの消費電力を、リアルタイムで見られるようにした。
軽い処理から少しずつ負荷をかけていく。
マザーボード経由の電力(PCIe +12V)の値を確認する。
数字は、拍子抜けするほど小さかった。
マルチGPUで起動、そして推論時の電力を見る
1枚での確認を終え、2枚とも認識させた状態で起動する。
今度は、実際にモデルをロードして、推論をかけた状態でのPCIe電力を確認する。
負荷をかけている間も、マザーボード側の電力が大きく跳ね上がるような挙動は見られなかった。
一方、GPU本体の補助電源(16-PIN)側は、負荷に応じてしっかり上昇していた。
今回の測定では、GPU本体の補助電源側の電力が大きく、マザーボード側のPCIe電源は比較的小さい値だった。
少なくとも今回の構成・今回の負荷条件では、GPUへの電力供給の大部分がGPU本体側の補助電源から行われていることを示す結果になった。
マザーボード側の補助電源コネクタは、結局、接続しないまま運用することにした。
なぜその判断に至ったのか、実際に測定した電力データは、検証編にまとめている。
→マルチGPU構成(RTX5070Ti/RTX PRO 4500)で実測して分かったGPU温度と消費電力レポート / ローカルLLMマシン構築記第5.5話 【実録】
パソコン、完成
Ollamaでモデルをロードする。
問題なく動いた。
30万円のゲーミングPCだった。
それが今では、RTX 5070 Ti+RTX PRO 4500、VRAM 48GB、1200W電源、そしてローカルLLM専用機になっている。
ゲーム用PCとして買ったはずなのに、もう面影はほとんどない。
……いや、GPUだけはゲームにも使える。たぶん。
GPU選びに悩み、YouTubeで金銭感覚を壊され、70万円以上を投じ、GPUが入らず、電源が挿さらず、Windowsのログイン画面で心が折れかけ、OSを再インストールし……
70万円以上払って増えたのは、VRAMだけではなかった。トラブルも増えた。
苦悩の末、ようやく、パソコンが完成したころには、休日が終わっていた。
次回予告
48GBになった。これで、やっと30B級モデルが見えてきた。
でも、使い始めてすぐに気づいた。
「48GBあるなら、1個のAIを動かすだけじゃ、もったいなくないか?」
そうして私は、今度は「マルチGPU」の先にある、「マルチエージェント」という沼に足を踏み入れることになる。
よくある質問
Q. マザーボード交換で、BitLockerの回復キーが必要になるのはなぜですか?
A. マザーボードを交換すると、Windowsから見てハードウェア構成が大きく変わったと判断され、ドライブの暗号化を解除するために回復キーの入力を求められることがあります。事前にMicrosoftアカウントに紐付けておくと、回復キーをオンラインで確認できます。
Q. GPUの補助電源を挿さずに動かすのは危険ですか?
A. GPU本体の補助電源と、マザーボード側の追加PCIe補助電源は別物です。GPU本体の補助電源は必ず接続してください。今回は、マザーボード側の追加PCIe補助電源について、実測結果をもとに接続しない判断をしました。ただし、これは今回の構成に限った判断です。同じ状況でも、構成が変われば結果も変わるため注意してください。
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次回の話→
前回の話→第4話 30万円のゲーミングPCに、追加で70万円。マルチGPU構築開始
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