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或る夏の日

或る夏の日。

暑さにグロッキー気味だった私たち夫婦は、近所の喫茶店に入った。

エアコンがよく効いている。
涼しい!

私はいつものアイスコーヒー、
妻は、クリームオーレを注文。

窓からは、夏の青い空と白い雲、
そして、風に揺れる緑の木々が見える。

(子供の頃も、こんな風景を見ていたな。)
不意に、そんなことを私は思った。

私が小学生時代を過ごしたのは、紀伊半島南部にある海辺の村。

夏休みは、毎日のスケジュールが決まっていた。

朝は、6時半に近所の集会所でラジオ体操。
朝ご飯を食べたら、夏休みの宿題。

その後は、午前10時になったら、近くの浜辺で海水浴だ。

私が通ったのは、全校児童100人余りの小さな小学校。
海水浴場は、その小学校の子供たち専用だ。

お昼まで、友だちと思いっきり泳ぐ。
泳ぐというより、波の上で浮かんでいる。
水中眼鏡で、海の中を見たりもする。
小さな魚がいっぱい泳いでいる。

お昼になったら、みんな家に帰る。

帰ったら、風呂場で潮出し(しおだし)だ。
潮出しとは、海水の付いた身体から塩分を落とすこと。

お昼を食べたら、縁側近くの畳に寝転がって、昼寝。
昼間でも、雨戸を開けっぱなせば、心地よい海風が入ってくる。

その後は、学校の運動場へ。
友だちを見つけたら、一緒に遊ぶ。

そして、夕方。
バイバイして、帰宅。
そして、夜は大好きなテレビ番組を家族で見る。

そんな、一日を繰り返していた。

雨の日以外、家の中で閉じこもっていることなど、ほとんどなかった。

昭和の夏空も、青い青い空だった。

そんな子供時代のことを思い出していたら、アイスコーヒーが運ばれてきた。
(そう言えば、子供の頃は、アイスコーヒーなんぞ飲んだことはなかったな。)
当時、子供たちの夏の定番飲み物と言えば、
カルピス、
そして、渡辺ジュースの素(もと)、だった。

私は、今と昔を行ったり来たりしながら、アイスコーヒーを飲んでいた。
その日の窓越しの景色は、子供の頃に見た空と緑に、本当によく似ていた。

会計を済ませて、外に出たら、また暑さがすぐに襲ってきた。

ただ、この暑さは昭和のものでは無かった。

猛暑、酷暑と呼ぶにふさわしい、令和特有の暑さだ。

嗚呼、昭和は遠くなりにけり。

額から滴り落ちる汗を拭う私の頭に、そんな言葉が思い浮かんできた。



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