⑩ 家と土地 半年後「買わない決断」をしたご夫婦の軌跡
移住判断デザインノート ー移住は決断より確認ー
前回の記事では、
空き家リフォームで起きやすい
**「お金の誤算」**について書きました。
今回の実例2は少し違うケースですが家にまつわるリアルです。
半年かけて物件を検討した結果、購入を見送ったご夫婦の話です。
移住相談の現場では、「買う決断」だけでなく
**「買わない決断」**も大切な判断になることがあります。
【実例2】農家移住を希望したご夫婦
ご夫婦は50代前半。
農村への移住を希望していました。
奥様は実家が農家。
農業の現実もよく理解している方でした。
ご主人はIT関係の仕事。
都会の仕事を辞めずに、
週1回出社のスタイルで移住する計画でした。
生活設計としては、とても現実的です。
・農業の現実に理解がある
・集落生活のイメージができている
・収入源が確保されている
農業系移住相談では、
この3つがそろうケースは多くありません。
自治体の移住窓口と農林振興課に相談があり、
私が担当しました。
理想に近い古民家
春に開催される自治体の移住イベントに参加されたあと、
家探しが始まりました。
条件は
・古民家 土間のある間取り
・農地付き
・農地が隣接していること
リフォーム費用として
1000万円を準備。
住宅購入費用は別に準備していました。
条件に合う物件がいくつか見つかり、
そのうちの一つと話が進みます。
地主さんもとても喜んでいました。
農業を理解している人が、
農地を引き継いでくれるのであればなおさら歓迎だ、と。
今まで断ってきたケースが多かったため、
今回はとても良い雰囲気で話が進んでいました。
その古民家は、登記で確認できるだけでも
築150年以上。
敷地内にある古い土蔵には江戸時代の地域の年貢帳面や
甲冑が残っていました。
奥様が希望していた米農家の農地条件にもぴったりの物件でした。
しかし課題が見えてくる
私は役所での担当だったため、
・物件紹介
・マッチング
までが業務でした。
その後は、ご夫婦と地主さんで話を進めていきます。
ただ、ご夫婦は定期的に進捗を報告に来てくれました。
その中で少しずつ課題が見えてきます。
最大の問題は「土地の形」
その古民家は、田んぼと畑のあいだの
幅1.5メートル弱ほどの生活道を40メートル入った奥
にありました。
大屋根型の古民家。土蔵と離れ。
車5台ぐらいはいる大きな農作業小屋。
農作業小屋には
・古い農機具
・牛で田を耕していた時代の道具
・蚕の飼育かご
などがそのまま残っていました。
そしてこの土地の形状は
**旗竿地(はたざおち)**でした。
旗竿地とは、
細い通路の奥に土地が広がる旗の形をした土地のことです。
オリンピック等で観客が手にする国旗をイメージしていただくとわかりやすいと思います。
竿の部分が道路で旗の部分が土地です。
旗竿地の問題
この形の土地で問題になるのは通路の幅です。
都市生活で道路の幅を気にして家を買うことはまずありません。
土地に接面する道路には規制や法律があります。
今回の通路は幅1.5メートルに満たないものでした。
つまり
・トラックが入れない
・重機が入れない
という状況でした。
そうなると
・解体作業
・リフォーム資材の搬入
・家財処分の運びだし
すべてが人力作業になります。
当然、人件費が大きく跳ね上がります。
境界線の確認にも時間がかかった
さらに問題がありました。土地の複雑な権利確認です。
境界線の一部がはっきりしていなかったのです。
役所の記録と不動産記録の照合。
県外に住む相続人への連絡と確認。
土地の境界線の確認は所有権のある全員と
不動産業者の立ち合いが必用です。
別のケースでは
不動産登記と建物の内容が相違するケースもありました。
登記事項にはない建物があったり、逆に記載があるのにないといった状態です。現状が正しく訂正・記載されるまで売買契約は進みません。
ここだけで2か月以上かかりました。
中山間地域ではこうしたケースは珍しくありません。
昔は「柿の木が境界」といった目印で
土地が管理されていたこともあります。
しかし
・木が伐採される
・知っている世代が亡くなる
こうして境界が分からなくなることがあります。
さらに必要だった費用
家そのものも改修が必要でした。
・上水道設備の入れ替え
・浄化槽の設置(下水のないエリア)
・農機具小屋の解体
・離れの解体
・荒れた竹林の手入れ
最大の問題はやはり重機が入れない立地でした。
すべての作業の見積もりを合計すると
約700万円になりました。
ご夫婦にとってこれは想定外の数字になりました。
リフォーム前に700万円
ご夫婦が準備していたリフォーム費用は1000万円。
充分準備したはずの金額です。
家の中のリフォームに使えるお金は300万円ほどになってしまいます。
トイレとお風呂を新たに母屋内に設置するだけで200万
お風呂やトイレが家の外にある昔の農家の作りそのものが響いてきました。
秋に出た結論
「払えない額ではない」ご夫婦もそう言っていました。
しかし家の周囲だけで700万円という状況に冷静に向き合いました。
そして、狭い生活道路の立地は、将来の計画に影響がある可能性が高い。
そう考えて購入を見送る決断をしました。
「今までで一番悩みました、家主さんにも申し訳ない・・
けど、無理はしちゃいけないと話し合った結論です」
その報告を受けたのは秋でした。
昔の道幅のまま残る家
農村や山間地の家には
・農道 私道
・細い生活道路
の奥にある家が多くあります。
昔は人と牛や馬が通れればよい時代でした。
こういった家は仮に解体して新築を建てたくても現行の法律から
道路幅などで新築許可が下りないこともあるので要注意です。
ご自身の計画に沿って専門家立ち合いのもと契約前に確認をとるようにしてください。
「進む勇気」より「見送る冷静さ」
このご夫婦は焦っていませんでした。
実はこの物件からさかのぼり
2年前から家と農地探しをしていたのです。
時間をかけて調べて、考えて、判断した結果でした。
勢いや覚悟ではなく
情報を集め、確認する時間をとりましょう。
「見送る冷静さ」も大切です。
その後
このご夫婦は1年後に近隣の地域で農地付きの家を見つけました。
そして現在、農村での移住生活を送っています。
移住計画において家と地域選びは重要な要素です。
次は「賃貸 or 購入」または 4月に京都で開催される「民家サミット」について書いてみたいと思います。
