【掌編】エレベーターの二人
(はぁー。)
乗ったエレベーターが13階を過ぎたところで、突然停まった。
庫内のスピーカーからは女性の声で『今すぐ修理に伺います。』とあった。
別に急ぐ用事もない。
(はぁー。)
今度は腹の底から息が漏れた。
「ちょっと、健人!その、ため息って私への当てつけ?こっちが『はぁー。』よ!」
矢田優子だ。
「そりゃ、ため息も出るよ。こんな所で足止め食らうんだ。」
「ふーん、それだけ?もっと別の意味を含ませてなかった?」
俺に鋭い睨みをきかせている。
「そもそも、もう会わないんじゃなかった?なんでそこにいるのよ!」
「これは偶然だろ。『エレベーターの扉が開きました、中を確認します、優子は乗ってないよな、じゃ乗り込みます』なんてこと、普通しないだろ!乗ったら居たんだよ。」
「本当に、健人といるとこんなのばかり!」
「なんだよー!」
「ドライブ行った時だってそうじゃない。ガス欠になるまで走らせて。」
「おい、待ってくれよ!俺はいつも半分減ったら入れてたんだ。それを『石橋を叩くタイプは女々しくて嫌い』って言ってただろ!だからギリギリまで給油しなかったんだろ!」
「ギリギリ?ギリギリじゃないわ。ガス欠ってね。もうアウトなの。」
「おいおい、それならこっちだって言わせてもらうけどな。」
「な、なによ。」
「コロッケ作った時だよ。俺が甲殻類アレルギーなのにカニクリームコロッケ食べさせただろ!」
「あぁ、あれは健人がいけないのよ。エビアレルギーって言ってたじゃない。カニとは言ってなかったでしょ?それを私のせいにするの?女々しいわね。」
「エビがアレルギーってなったら、カニもそうなるだろ!百歩譲ったとしても一応聞くよな?」
「はぁー、本当に相性悪いわね。私達。」
「あぁ、本当に!」
俺はエレベーターのスピーカー前に向き直った。
「ふふっ。」
「なんだよ!優子、何笑ってるんだよ。」
「健人、あの時ガソリン貰いに結構走ったんでしょ?戻ってきたら汗びっしょりで。」
「そりゃ、あんな優子の顔見せられたら…。おいおい、それを言うなら優子だって。」
「な、何よ!」
「コロッケで蕁麻疹が出た時、救急車を呼ぼうとして、時報にかけてただろう!『何よ!20時23分って!』って怒ってたもんな。」
「…。健人が危ないと思って焦ったのよ。」
庫内が一度ガタッと揺れ、動き出した。
エレベーターはすぐ上の14階に停まり、扉が開いた。作業服を着た男性が立っていた。
「すいませんでした。怪我や気分が悪いなどはありませんか?」
「いいえ。」「大丈夫です。」と答えた。
「ご不便でしょうが、点検が終わるまで階段をご利用下さい。」
と言って作業服の男性はエレベーター内に入っていく。
「そうそう、健人。私仕事変えたの。」
と、優子は名刺を差し出した。
「そっか。俺は変わってない。」
「そう、もし知らない番号からの電話でも出るようにしてくれる?」
「あぁ、気が向いたらな。」
俺は15階を目指し階段を上った。
おわり
