「肩の痛みが治らない」と悩むセラピストへ。肩甲上腕関節を"構造"から攻略する臨床のヒント
こんにちは、理学療法士の内川です。
突然ですが、皆さんは肩の評価をする際、「肩関節=肩甲上腕関節」という視点だけで止まっていませんか?
特に新人の頃は、以下のような思考になりがちです。
肩を上げる動作 = 三角筋の作用
このように「動き」と「筋肉」を単純な1対1の関係で結びつけてしまうと、臨床で行き詰まることが多くなります。なぜなら、実際の肩の動きはもっと複雑な「協調運動」だからです。
肩甲上腕関節は、「高い可動性」と引き換えに「極めて低い安定性」を持つ特殊な関節です。 今回は、この関節の解剖・特徴を深掘りし、「評価 → 原因特定 → アプローチ」が一本の線でつながるような、実践的な内容をシェアします。
1. 肩甲上腕関節の解剖:なぜ「不安定」なのか?
まずは敵を知る(構造を知る)ことから始めましょう。この構造的欠陥とも言える特徴こそが、臨床攻略の鍵です。


構成骨と関節面
上腕骨頭: 大きく丸い球体
肩甲骨関節窩: 浅くて小さい受け皿
ゴルフのティー(関節窩)にボール(骨頭)が乗っている状態をイメージしてください。骨の形状だけ見れば、骨性安定性はほぼゼロです。
それを支える軟部組織
関節唇: 浅いお皿(関節窩)の縁を深くし、吸盤のように安定性を高めます(※SLAP損傷の好発部位)。
関節包: 可動域を確保するため、ダボダボの服のように非常に広くゆとりがあります。ここが癒着・拘縮すると「凍結肩」になります。
【臨床のヒント】
「動的安定性」が命
骨で止まっていないということは、「筋肉(腱板)や靱帯がサボった瞬間、関節はズレる」ということです。 つまり、リハビリの第一歩は「筋力増強(パワー)」ではなく、「関節を良い位置に保つ機能(安定化)」の再教育であるべきです。
2. 肩甲上腕関節の「本質」を理解する
この関節を一言で表すと、以下のようになります。
「めちゃくちゃ動かせるけど、すぐに崩れやすい」
メリット: 手をあらゆる方向に伸ばせる(可動性)
デメリット: インピンジメントや脱臼を起こしやすい(不安定性)
この「崩れやすさ」を補うために、ローテーターカフ(腱板)や肩甲骨の位置が重要になります。臨床では、「動くかどうか(ROM)」だけでなく、「崩れずに動いているか(Quality of Movement)」を見ることが最重要です。
3. 【実践編】運動方向別の「主動作筋」と「評価の視点」
教科書的な主動作筋の知識に、「臨床でどこを見るべきか」という視点を加えて整理しました。
① 屈曲(前方挙上)
主動作筋: 三角筋前部、大胸筋(鎖骨部)、烏口腕筋
🔍 臨床チェックポイント:
三角筋が頑張りすぎていないか? 三角筋ばかり働くと、骨頭が前上方に引き上げられ、インピンジメントの原因になります。
肩甲骨の後傾は出ているか? 肩甲上腕関節だけで上げようとすると詰まります。肩甲骨が連動しているか触診しましょう。
② 外転(側方挙上)
主動作筋: 棘上筋(初動〜全域)、三角筋中部(30°以降)
🔍 臨床チェックポイント:
初動で肩をすくめていないか? 棘上筋の機能不全(求心位保持能力の低下)があると、初動で骨頭が安定せず、僧帽筋上部で代償しようとします。
「60°〜120°」で痛みが出るか? いわゆるPainful Arc Signです。三角筋の垂直方向のベクトルが強まる角度で、腱板が骨頭を抑え込めていない証拠です。
③ 外旋(結髪動作などに重要)
主動作筋: 棘下筋、小円筋
🔍 臨床チェックポイント:
骨頭が前に飛び出していないか? 後方組織(棘下筋など)が硬いと、外旋時に骨頭が前方へ押し出され、前面痛を引き起こします。
投球動作での重要性 コッキング期での安定性は、これら後方筋群の機能にかかっています。
④ 内旋(結帯動作などに重要)
主動作筋: 肩甲下筋、大胸筋、広背筋、大円筋
🔍 臨床チェックポイント:
猫背になっていないか? 大胸筋や小胸筋の短縮(内旋位固定)は、肩甲骨を外転・下制させ、すべての運動を阻害します。
外旋制限の原因は? 肩甲下筋の短縮は強力な外旋制限因子になります。「マッサージしても外旋が出ない」場合は、肩甲下筋の深部癒着を疑いましょう。


4. 機能低下が引き起こす「負の連鎖」
臨床でよく見るパターンは以下の3つです。
ローテーターカフ機能低下 ↓ 骨頭を関節窩に引きつけられない ↓ 三角筋が過剰収縮し、骨頭が上へズレる ↓ インピンジメント(衝突)発生
可動域制限(GH関節の硬さ) ↓ 肩で動けない分を他でカバーしようとする ↓ 肩甲骨の過剰運動や、体幹・頸部の代償 ↓ 肩こり、頸部痛の併発
筋バランスの破綻 ↓ アウターマッスル(三角筋・大胸筋)優位、インナーマッスル不全 ↓ 慢性的な不安定感・再発
👉 ここが重要! 「筋力が弱いから鍛える」ではなく、「役割分担が壊れているから再教育する」という意識に変えてみてください。
5. 明日の臨床で使える!評価フローチャート
明日からの患者さんに、この順番で評価を試してみてください。
姿勢を見る(静的評価)
円背(胸椎後弯)はないか? 巻き肩になっていないか?
土台が崩れていれば、肩は正しく動きません。
動かし方を見る(動的評価)
代償動作(肩のすくみ、体幹の側屈)が出るタイミングはどこか?
代償が出た角度=機能破綻が起きている角度です。
可動域を測る(ROM)
肩甲上腕関節単体の動き(肩甲骨を固定して)と、全体の動きを比較する。
筋機能を診る(MMT・整形外科テスト)
痛みがある場合は、無理に筋力を測らず、腱板テスト(Empty can, Full canなど)で機能不全を確認する。
まとめ:木を見て森も見る
肩甲上腕関節の評価について深掘りしました。
構造: 骨性安定性が低く、筋依存度が高い関節である。
本質: 「動くが崩れやすい」。**求心位(骨頭が真ん中にあること)**の保持が最優先。
アプローチ: 痛みがあるなら、アウターの強化よりインナーの再教育。可動域制限なら、肩甲胸郭関節・脊柱も含めた全身評価が必要。
「肩が痛い」という訴えに対して、患部(GH関節)を詳細に診ることはもちろん重要ですが、**「なぜそこに負担がかかったのか?」**という視点を持つことが、治療成果を上げる近道です。
解剖学をイメージしながら、明日の評価を楽しんでみてください!
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参考文献
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