テニス肘と決めつけない。 腕橈関節「荷重60%」が教える評価のポイント
【この記事の結論:3行まとめ】
腕橈関節は「屈伸・回旋」だけでなく、伸展位での**「荷重伝達」の約60%**を担うハードな関節。
「プッシュ動作で痛い」なら、テニス肘(上顆炎)よりも関節性の問題を疑え。外側の不安定性(PLRI)は、**LUCL(外側尺側側副靱帯)**の機能不全がカギを握る。
こんにちは、理学療法士の内川です。
「肘の痛みがあるけど、屈伸はそこまで悪くない…」
「前腕回旋で痛みが出るのに、腕尺関節は問題なさそう」
「プッシュ動作や支持動作で肘外側が痛い理由がわからない」
このような症例を担当した時、皆さんはまず何を疑いますか?
もし「とりあえず上腕骨外側上顆炎(テニス肘)」と考えてしまうなら、少し立ち止まってみてください。
その痛み、実は**「腕橈関節」**が関与していることが少なくありません。
腕橈関節は、屈伸・回旋のどちらにも関与し、さらに上肢荷重時の力を受け止める関節という、非常に重要な役割を担っています。
今回は、腕橈関節の解剖・機能・安定性を整理しつつ、「明日からどう評価すればいいのか?」という臨床の視点に落とし込んでいきましょう。
1.腕橈関節の解剖学的特徴
関節構成
上腕骨小頭
橈骨頭
上腕骨小頭の球状構造と、橈骨頭の凹面が接触して関節を形成します。
関節の性質:制限された球関節
教科書的には「球関節」に分類されることが多いですが、ここに臨床的な落とし穴があります。
腕尺関節と同じ関節包内に存在
形態的には球関節(ball-and-socket)
ただし、隣接する尺骨との結合により多軸性の動き(特に内外転)は制限される
つまり、形はボールと受け皿でも、自由には動けません。**「屈伸に追従しながら、回旋もしなければならない」**という、非常に窮屈で、かつ高度な協調性が求められる関節なのです。
2.腕橈関節の運動と機能
関与する運動
肘関節の屈曲・伸展
前腕の回内・回外
上肢荷重時の圧縮力伝達
ここで最も強調したいのが、3つ目の「荷重伝達」です。
荷重伝達の役割(ここが最重要!)
上肢に軸圧がかかる際(プッシュアップ、杖歩行、転倒時の手つきなど)、腕橈関節はどれくらいの重さを支えていると思いますか?
【荷重分担(肘伸展位)】
| 部位 | 荷重割合 |
| :--- | :--- |
| 腕橈関節 | 約57~60% |
| 腕尺関節 | 約40~43% |
💡 文献的知見
意外に思われるかもしれませんが、肘を伸ばして体重をかけた時、メインで支えているのは「太い腕尺関節」ではなく「小さな腕橈関節」なのです。
🚀 【Action Plan】明日からの評価を変える
この事実を知っているだけで、評価の手順が変わります。
プッシュアップ(椅子からの立ち上がりなど)で痛みを再現させる。
痛む場所が「外側上顆(腱付着部)」なのか、「関節列隙(奥の方)」なのかを指で触診しながら区別する。
伸展位で痛みが強まるなら、腕橈関節の圧縮ストレスを疑う。
3.腕橈関節の安定機構
① 骨性要素
上腕骨小頭と橈骨頭の適合性はありますが、完全な「はまり込み(Socket)」ではないため、骨性安定性は中等度です。
② 靱帯性安定性(静的安定化機構)
ここでキープレイヤーとなるのが、**外側側副靱帯複合体(LCL complex)**です。
靱帯役割橈側側副靱帯(RCL)内反ストレスへの抵抗輪状靱帯橈骨頭を保持し、回旋を許容外側尺側側副靱帯(LUCL)後外側回旋不安定性(PLRI)の制動
特に**LUCL(外側尺側側副靱帯)**は、橈骨頭を後ろからハンモックのように支えています。これが緩むと、橈骨頭が後ろへ脱臼しようとする力(PLRI)を止められなくなります。
③ 筋による動的安定性
腕橈骨筋: 屈曲時の圧縮力で関節を安定させる
回外筋・伸筋群: 動作時の動的制御
上腕二頭筋: 回外+荷重時の安定化
4.機能不全と臨床症状
腕橈関節の機能不全で起こりやすい問題
肘外側部痛(テニス肘との鑑別が必要)
荷重位での疼痛
前腕回旋時の引っかかり感(Clicking / Snapping)
肘外側の不安定感(Giving way)
🔍 【現場の泥臭い実践知】患者さんの「訴え」を翻訳する
患者さんは「LUCLが緩んでます」とは言いません。以下のような訴えがあったら、**PLRI(後外側回旋不安定性)**を疑ってください。
「椅子から立ち上がる時、肘が外れそうで怖い」
「ドアを重いと思って押したら、ガクッとなった」
「腕立て伏せの姿勢が保てない」
これらは全て**「荷重+伸展+回外」**の要素が重なる動作です。この肢位でクリック音や不安感が出るなら、単なる筋肉痛ではありません。
5.臨床ちょこっとメモ(評価チェックリスト)
明日からの臨床で使えるよう、チェックリストにまとめました。
✅ 肘外側痛・評価チェックリスト
圧痛点の確認: 外側上顆(腱)だけでなく、少し遠位の「腕橈関節裂隙」に圧痛はないか?
荷重テスト: 肘伸展位での荷重(Chair Push-up Test等)で痛みが再現されるか?
回旋連動: 回内外の制限がある場合、近位橈尺関節だけでなく腕橈関節の動きも確認しているか?
既往歴の聴取: 過去に転倒して手を強くついた経験はないか?(橈骨頭骨折やLUCL損傷の痕跡)
6.まとめ
最後に、腕橈関節のポイントを復習しましょう。
役割の本質
「屈伸に追従しながら、回旋と荷重を許容する」というマルチタスクな関節である。
荷重の事実
肘伸展位では、**体重の約60%**を腕橈関節が支えている。「荷重痛=腕橈関節」の疑いを強く持つこと。
安定性の鍵
**LUCL(外側尺側側副靱帯)**が後外側の安定(PLRI防止)を担っている。不安定感の訴えを見逃さないこと。
「肘の外側が痛いですね、ストレッチしましょう」で終わらせず、**「関節の中で何が起きているのか?」**をイメージできるだけで、治療の質は劇的に変わります。
ぜひ、明日の患者さんで「荷重テスト」を試してみてください。
関節の理解と共に筋肉がどうついているのか、どう動いているのか一緒に勉強しませんか?
参考文献
Morrey BF, et al: Force transmission through the radial head. J Bone Joint Surg Am, 1988.
O'Driscoll SW, et al: Posterolateral rotatory instability of the elbow. J Bone Joint Surg Am, 1991.
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