【書評】『荒仏師 運慶』(新潮社)梓澤 要 著
東大寺南大門の金剛力士像に代表される、力強く写実的な造形で日本の仏教彫刻史に名を刻む大仏師・運慶。本作は、平安末期から鎌倉時代という激動の時代を駆け抜けた運慶の、執念と祈りに満ちた生涯を描いた重厚な歴史小説です。
読み進める中で深く胸に迫るのは、運慶の生涯が「一人のクリエイター・組織人としてのキャリアの葛藤」そのものとして描かれている点です。
若き日の純粋な功名心や、エースとして他派閥に対抗するため父に利用される苦悩。同門から生まれるライバルや道を分かつ者との相克。鎌倉の武士という「新たな顧客」の台頭による隆盛。息子の育成や、老いて病に倒れ思うように身体が動かなくなる焦燥——。天才として遠い存在だった運慶が、自分と同じように悩み、働き、生きた一人の人間として一気に引き寄せられていきます。
しかし、そうした人間臭い葛藤や世俗の波に揉まれる生涯の中で、彼の根底には常に「仏心」という一本の揺るぎない縦糸が通っていたことを感じさせます。どれほど派閥争いや仕事の壁にぶつかろうとも、木の中に潜む尊像を掘り出し、祈りをかたちにするという純粋な精神性がブレなかったからこそ、彼は一人の職人を超えて「仏師の極み」へと到達できたのではないでしょうか。
私自身、興福寺の四天王像が好きなこともあり、東京国立博物館まで足を運びました。作中で運慶と息子・弟子たちが一気呵成に生命を吹き込んでいく興福寺北円堂の諸像(近年の研究で、現在の中金堂四天王立像はその北円堂ゆかりの傑作とされています)の場面は、まさにその「仏心」が結実していく格別の熱量を持って迫ってきます。
さらに奈良国立博物館「超国宝展」では、彼の初期作と言われる圓成寺の大日如来坐像、そして作中にも深く関わってくる重源上人の坐像とも対面することができました。これまで見てきた文化財の存在感が、作中の職人たちの息遣いや葛藤と重なり合い、いっそうの重みを増して立ち現れてきます。
2025年は、まさに運慶という一人の人間の生き様にぐっと近づくことができた一年でした。静寂の中に佇む彫刻の奥に、今にも動き出しそうな魂の叫びを感じさせてくれる名作です。
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