【妄想ストーリー】 #15 SECOND CRY
THE YELLOW MONKEYの楽曲『SECOND CRY』の歌詞背景を独自の世界観と言葉で物語にした作品です。
潮風が鉄と火薬の匂いを運んでくる。
どこまでも黒く淀んだ魔の海を越え、たどり着いた異国の空は、どこか現実味がないほどに青かった。
足元には泥濘、耳をつんざく爆音。
その中で、彼の網膜に最後に焼き付いたのは、見慣れないヘルメットをかぶり、冷徹な銃口を向けたメリケンの兵士の姿だった。
「この国はどこの国だろう? この僕は僕じゃないだろう…」
そう呟く少年の名はジャガー。
1944年、激しい戦火のなかで命を散らした、名もなき若い兵士だった。
しかし、肉体が滅びたことなど、彼は微塵も気づいていなかった。
いや、魂があまりにも強烈な未練と痛みを抱えたまま、時間を飛び越えてしまったのだ。
胸に突き刺さった三発の弾丸の生々しい衝撃。
痺れたまま動かない片腕。
それなのに、なぜか不思議と痛みはない。
ただ、頭の奥底で、かつて恋人と過ごした日々の中で口ずさんだ作りかけのメロディーだけが、レコードの針が飛んだようにグルグルと鳴り響いていた。
「僕はジャガー 確か殺された……あの娘の前で…」
走馬灯のように蘇るのは、故郷の街角。
見送ってくれた愛しい人、マリーの泣き顔だ。
彼女の前で崩れ落ちたはずの自分が、なぜ今、見たこともない巨大なビル群と、奇妙な色彩にあふれたアスファルトの街を歩いているのか。
ふと通り過ぎたビルのガラス窓に、自分の姿が映る。
そこには、時代遅れのボロボロの軍衣を纏い、狂気を孕んだ目を した男が立っていた。
ここは1994年の見知らぬ地。
50年という途方もない時を飛び越えた、かつての戦場帰りの亡霊。
自分はすでに死んでいる。
それなのに、どうしてこんなにも生々しく、世界は狂おしく輝いているのだろう。
キラめく赤い血は何を見たのか。
震える指先で、彼は一体何を書こうとしたのか。
狂える世界の生贄として、バラ色に引き裂かれた時代に放り出されたブラッディボーイ。
彼は戸惑いながらも、次第にこの新しい世界の圧倒的なスピードと退廃に飲み込まれていく。
古びたトレンチコートを翻し、ジャガーは夜の街へと繰り出した。
戦争の記憶は、次第にネオンの光にかき消されていく。
手に入れたのは、甘い麻薬と、ギターをかき鳴らすロックスターとしてのきらびやかな虚構。
彼はステージの上で絶叫した。
「お前に魂を売ってやる!お前に全てを売ってやる!お前に薬を射ってやる!堕落を鎮める ROCK AND ROLL!!」
戦争という名の巨大な暴力にすべてを奪われた男が、50年後の平和と引き換えに、今度は自らの魂をロックンロールに売り渡していく。
それは、狂った時代に対する彼の精一杯の復讐であり、レクイエムだった。
頭の片隅で鳴り続けていた作りかけのメロディーは、いつしかこの世界の激しい鼓動へと形を変えていく。
俺はどこから来て、どこへ向かうのか。
マリー、君はまだあの世界で生きているか、それとも同じようにこの時間を彷徨っているのか。
1944年から1994年へ。
50年の時を跨いだ魂は、未だ癒えない傷を抱えたまま、終わりなき旅路をゆく。
引き裂かれた記憶と狂騒の狭間で、彼がかき鳴らす轟音のギターは、虚無に染まる夜の闇を切り裂くようにただ、永遠のレクイエムとなって響き渡り続けている。
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