夢想だから許してほしい。
あり得ない壮大な仮定の話だ。
私の短編集が何かの文学賞に選ばれた。
授賞式に出版関係者や報道関係者やらがたくさん出席する。
私はひな壇に座っている。
カメラのフラッシュがひっきりなしだ。
この時点でもう疲れている。
「まさか私のような者の作品を読んでいただき、選んでいただけるとは、思ってもみませんでした。ありがとうございます。またこういう場は不慣れで、社交的でもありません。口べたで素っ気ないことを言ってしまいそうで心配です」
次の展開を予想しながら正直なところを述べた。
嫌な予感は的中した。
「短編集にされたのはなぜですか?」
「たまたまです。書いていたものが短いものばかりでしたので」
「執筆のきっかけは何だったのでしょう?」
「特にありません。なんとなく書き始めただけです」

「この作品群にはどんな思いを込められましたか?」
「それは、分かりません。というよりうまく纏めて言えないのです。全部読んで頂いて、何かを感じ取って頂けるのなら、そういうことです」
「子どもの頃の思い出が多いように思いますが、その頃とか昭和への懐旧とか、そういうことを伝えたかったのでしょうか?」
「何を伝えたいか、自分でも分からないのです。昭和にこだわった訳でもないと思います。読んで頂いて、何かを感じ取って頂けるなら、それがすべてです」

「読者に対して何か伝えたいことはありますか?」
「この場でお話しすることはできないのです。分からないからです。作品の中に書いてありますから、読んで何かを感じ取って頂ければ、それが伝えたいことなのだと思います」
「この作品群ですべて言い尽くされたということでしょうか?次の作品ではどういうことを伝えたいですか?」
「今回の作品集ですべてを言い尽くしたかどうか、それも分かりません。次の作品も、私はいつもそうですが、何か構想したり計画したりするのがとても苦手な人間です。次の作品がどういうものになるか、それは書き終わった時に初めて分かるのです」
「つまり次の作品については、現時点で白紙ということでしょうか?」
「白紙なのかどうか、白紙というのがどういうことなのか、私には分からないのです。書く意欲がある限り、何かを書いていくのだと思います」

「今後、長編を書かれることはありますか?」
「それも分からないのです。これからも何かを書き始めるでしょう。はっきりしているのはそこだけなのです。それが短く終われば短編なのでしょうし、結果的に長くなれば長編と呼ばれるのだと思います」
「最後に今回協力された出版社さんに対してひとこと頂ければと思います」
「それはもう感謝しかありません。でもこんなのを書いて欲しいと言われて、それを書ける器用な人間ではありません。自分が書きたいものすら書き始めには分かってないんですから。コスパとかタイパとかは非常に低いですよ。商売としてのメリットはないと思います」

来なければ良かった。
質問されるのは苦手だ。
書いたことがすべてだ。
そしてこれから書くこともすべてだ。
