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シポリテを離れる朝。 @mx026

一週間ほど過ごしたシポリテを、私は離れることにした。
荷物は来た時とほとんど変わらない。
それでも、来た時とは何かが違っていた。
黒サンゴで作られたガラガラ蛇のネックレスを首にかける。
削りかけの琥珀。
小さなヤスリ。
何種類かの紙ヤスリ。
一つずつリュックの中へ入れていった。
ケンちゃんは、
「俺はもう少し残るわ。」
そう言って笑った。
シポリテへ来る前は、
「ちょっと手伝いがある。」
そんなことを話していた。
でも、私が見ている限りでは、誰かに手伝いを頼まれている様子はなかった。
誰かと話をしたり。
ジョイントをふかしたり。
海を眺めたり。
それがケンちゃんの時間の過ごし方だった。
誰とでもすぐに話をする。
初めて会った人でも、気がつけば友達になっている。
シポリテでも、いつの間にか色々な人と知り合っていた。
本当に不思議な男だった。
「じゃあ、またな。」
「おう。」
それだけだった。
またすぐに、プエルト・エスコンディードで会うことは分かっていた。
だから、特別な別れの言葉はいらなかった。
私はローカルバスを乗り継ぎ、来た時と同じ道をプエルト・エスコンディードへ戻っていった。
窓の外には乾いた大地が広がっている。
サボテン。
小さな集落。
時々見える海。
バスは集落ごとに止まり、乗客が一人、また一人と降りていく。
家が見当たらないような場所で降りる人もいた。
この人たちは、どこに家があるのだろう。
ぼんやり窓の外を眺めながら、そんなことを考えていた。
景色だけが、ゆっくり後ろへ流れていく。
バスがゆっくり走り出す。
窓の向こうに見えていた海も、少しずつ見えなくなっていった。
首にはガラガラ蛇のネックレス。
リュックの中には削りかけの琥珀と、小さなヤスリ。
持ち帰ったのは、それだけではなかった。
その時の私は、まだ気づいていなかった。
シポリテで過ごした数日が、
これから先のもの作りを変え、
やがて私の生き方まで少しずつ変えていくことを。
リュックの中に入っていたのは、削りかけの琥珀だけではない。
これから先の人生へ続いていく時間も、一緒に持ち帰っていた。
@mx026

📖 シポリテで始まった物語は、この先も続きます。
この出来事は「Safari Archive 第一章|メキシコ」の一編です。
第一章を順番に読むと、ケンちゃんとの出会い、マウロとの時間、初めて琥珀を削った日、そして現在のもの作りへつながる原点を、一つの旅としてたどることができます。
▶︎ Safari Archive|第一章 メキシコ(マガジン)
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