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母を連れて、故郷へ④ マジックアワーの中を走る

この夏、母を連れて故郷・長崎へ帰ることにした。

「今、連れて帰らなければ後悔する」

そんな気がして選んだ、車での帰省。

母と娘、そして四国まで運転を買って出てくれた知人との4人旅は、香川で3人旅になった。

今度は私が運転席に座る。

彼に見送られ、3人で香川をあとにした。

およそ700キロ。

ここまで、すべて彼に運転してもらった。

快適だった助手席を離れ、香川から愛媛へ向かう。

関東よりも、夕暮れが遅い。

東京に出てきた頃、夕暮れの早さに驚いた。

そんな話を、ついさっき彼としたばかりだった。

まだ、空は明るい。

右手に海を見ながら、心地よい気分でハンドルを握る。

空が少しずつ色を変え始めた。

この変わりゆく景色を、残しておきたい。

しっかり見ておこう。

間もなく、夜がやってくる。

マジックアワーの中を走る。

まだ青さの残る空。

地平線のあたりだけが、淡いオレンジ色に染まっている。

昼でも夜でもない、ほんの短い時間。

「ねぇ、写真撮って」

たまりかねて、助手席に移った娘に頼む。

「綺麗だねぇ……」

暮れていく空を眺めながら、車を走らせる。

それにしても――

高松から松山って、こんなに遠いの?

なぜか私は、二、三十分も走れば着くような気がしていた。

ナビで確認すると、150キロくらいある。

甘かった。

まだまだ先は長い。

途中、サービスエリアに立ち寄った。

朝から胃腸の調子が悪かった母も、すっかり元気を取り戻している。

母と娘と私。

三人で店の中を歩いていると、四国のお土産が気になり始めた。

「あ、これいいね」

「こっちもいいんじゃない?」

あれこれ見ているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。

実は、今回の旅には、途中からもうひとつ目的が加わっていた。

この旅の計画を立てたあと、熊本で大きな地震が起きた。

当初考えていたのは、松山からフェリーで大分へ渡り、熊本を通って長崎へ向かうルート。

このまま熊本を経由して帰ることはできるのだろうか。

そんなことを考えていた矢先、母が言った。

「福岡の従姉妹に会いたい」

母にとって、姉妹のように仲の良い従姉妹。

95歳になる。

昨年から急に認知機能が低下し、今は施設に入っているのだという。

そして福岡には、母と同じ89歳の従兄弟もいる。

すでに連絡をとり、途中で立ち寄ることになっていた。

5年ぶりの再会である。

あのときは、みんな元気だった。

昔の話に花が咲いたっけ……。

終戦を8歳で迎えた母とおじさん。

14歳で迎えたおばさん。

わずか6歳の違いなのに、三人が覚えている戦争はずいぶん違っていた。

守られる側だった8歳と、家族を守る側にもなっていた14歳。

あのとき、そんな話をたくさん聞いた。

どうして記録しておかなかったんだろう。

今になって、少し悔やまれる。

だけど、また会える。

それだけでも嬉しい。

そうだ。

お土産を買わなくちゃ。

出発前は慌ただしくて、何も準備できていなかった。

せっかくなら、四国のお土産がいい。

とりあえず、ここで気になるものをいくつか買っておこう。

だけど、松山にはもうひとつ目当てがある。

六時屋のタルト。

明日の朝、買いに寄れるだろうか。

そして、再び走り出す。

さっきまで青さを残していた空も、すっかり夜の色に変わっている。

松山のホテルに到着したのは、20時をかなり過ぎてからだった。

せっかく松山まで来たのだから、道後温泉に浸かりに行きたい。

そう思っていた。

だけど、朝早く家を出て、ここまで長い一日だった。

母の体力を考えると、今日はもう出歩かないほうがいい。

道後温泉は諦めた。

ホテルの大浴場へ行く。

湯船にゆっくり身体を沈める。

朝4時半の寝坊から始まって、
東京を出て、
富士山を見て、
淡路島を渡り、
讃岐うどんを食べ、
そして今、愛媛にいる。

長い一日だった。

今日は、もう休もう。

明日、2人は何時に起きるのだろう。

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