なぜ「AOAO SAPPORO」は夢中にさせるのか?〜都市型水族館の常識を覆す「ペンギン」と「本」が織りなす極上の知的好奇心空間〜
こんにちは、水産学生(学芸員課程も履修中)のシロワニです。
実は札幌のビルの中にひっそりと佇む“青いオアシス”があります。
2023年7月、札幌市の中心地・大通エリアに誕生した複合施設「moyuk SAPPORO(モユク サッポロ)」。その4階から6階に位置するのが、都市型水族館「AOAO SAPPORO(アオアオ サッポロ)」です。
「水族館」と聞いて、誰もが思い浮かべる光景があるであろうダイナミックな大水槽、イルカやアシカのショー、順路に沿って魚たちの解説パネルが並ぶ空間……。
しかし、AOAO SAPPOROには、イルカもいなければ、イルカショーもありません。巨大なイルカスタジアムも存在しません。
ここにあるのは、「海や水の生物を観察する楽しさ」と、「本を通して世界を深掘りする知的なワクワク感」、そして「都市の日常の中でふと立ち止まり、思索にふける贅沢な時間」です。
今回は、この水族館の二大看板である「画期的なペンギン展示」と「館内に溢れる本の世界」を中心に解説していきます。
1. 「AOAO SAPPORO」とは何か?〜都市型アクアリウムの新たなパラダイム〜
まずは、AOAO SAPPOROという唯一無二の空間のコンセプトと背景から紐解いていきましょう。
ネーミングに込められた「生命のグラデーション」
「AOAO SAPPORO」という印象的な名前。この「AOAO(青々)」には、単に「海や水の青さ」という意味だけでなく、豊かな北海道の自然、草木の緑、命が生き生きと輝く姿、そして思考が深まっていく知的な広がりといった、あらゆる「命と自然のグラデーション」が込められています。
ロゴマークに表現されているのは、水の中に広がる小さな生態系から、私たちが暮らす大きな地球、そしてそれらを包み込む知的な好奇心の輪です。
3つのフロアが描くストーリー
館内は4階、5階、6階の3つのフロアで構成されており、それぞれまったく異なるテーマと世界観を持っています。
4階【CONNECT(つなぐ)】: 水族館の裏側(バックヤード)を見せる展示や、エントランス、ミュージアムショップ。
5階【SCOPE(見つめる)】: 「観察」をテーマにした、ネイチャーアクアリウムや広大な科学的観察エリア「LABO(ラボ)」。
6階【COMMONS(分かち合う)】: 人々の知性と好奇心を刺激する「ペンギン展示」「ブルームーンプラクトン(クラゲ)」「Plankton Room」、そして緑豊かな「GREENROOM」。
この3つの階を巡ることで、「魚を見る」だけでなく、「水生生物の美しさに息をのむ」「科学者の視点に立つ」「本で知識を深める」「心身をリフレッシュする」という多層的な体験を味わうことができます。
2. 世界初!常識を覆す「ペンギン展示」のイノベーション
AOAO SAPPOROを語る上で絶対に外せないのが、6階に広がる「ペンギン」展示エリアです。ここには、従来のどの水族館でも見ることができなかった、世界初の展示システムと驚きの空間デザインが導入されています。
① 「陸上」のペンギン行動に着目した可変型展示システム
水族館のペンギン展示といえば、一般的には「ガラス越しのプールで泳ぐ姿」や「人工の岩場に佇む姿」を思い浮かべるでしょう。しかし、AOAO SAPPOROで暮らす「キタイワトビペンギン」たちの展示は、まったく異なります。
AOAO SAPPOROでは、ペンギンの「陸上での跳躍力や動的な行動」を最大限に引き出すため、「可変型の陸上ブロック構造」という世界初の展示システムを採用しました。
自由に組み替えられる六角形のブロック
展示エリアに配置されているのは、六角形の形をした様々な高さのブロックです。このブロックは固定されているわけではなく、スタッフさんによって定期的にレイアウトや高さが組み替えられます。
「変わる環境」が刺激を生む
野生のキタイワトビペンギンは、崖やゴツゴツした岩場を力強く飛び跳ねながら生活しています。水族館の展示場が毎日同じ環境だと、ペンギンたちも刺激を感じなくなってしまいます。レイアウトが変わることで、ペンギンたちは「今日はどうやってあそこへ登ろうか?」と考え、ぴょんぴょんと元気いっぱいにブロックを飛び移ります。
② 「人とペンギンの境界線」を溶かすデザイン
従来のペンギン展示場は、厚いガラスや高いアクリル壁で厳重に仕切られているのが一般的でした。
しかし、AOAO SAPPOROのペンギンエリアは、視界を遮る余計なフレームを極力排除し、客席のベンチやカフェスペースとペンギンたちの空間が、驚くほど自然に繋がっています。
ペンギンたちがパタパタと羽を羽ばたかせたり、鳴き交わしたりする声、そして水に飛び込む「ドボン!」という音が、ダイレクトに空間全体に響き渡ります。
3. なぜ水族館に「本」があるのか?〜知識の海へと潜るライブラリー〜
AOAO SAPPOROを唯一無二の存在に仕立て上げているもう一つの巨大な要素、それが「館内の至る所に散りばめられた本」です。
水族館における「解説パネル」は、通常、魚の名前、生息地、体長などが数行で書かれたプレートが水槽の横に貼られているだけです。しかしAOAO SAPPOROには、そうした画一的な説明板はほとんど存在しません。
その代わりに配置されているのが、「テーマごとに厳選された本棚」と、「問いかけの言葉」です。
① 「水族館のライブラリー」という哲学
館内の至る所、水槽のすぐ横、通路の壁面、ベンチの脇などに本棚が配置されています。そこに並べられているのは、一般的な生物図鑑だけではありません。
専門的な海洋生物学の書籍
写真家が捉えた美しい海の写真集やアートブック
自然や生きものを題材にした絵本や児童書
生物の進化や生態をテーマにしたSF小説・文学作品
海や環境問題を考察する思想書やエッセイ
このように、ありとあらゆるジャンルの本が「水生生物」というキーワードを軸に展示されています。
ただ知識を詰め込むための本ではなく、「生きものの美しさに感動した人が、さらにその背景にあるストーリーを知りたくなる本」「水槽を見た後の余韻を深めてくれる本」が絶妙なセンスで選ばれています。
② 「水槽を見る」から「本を開く」へのシームレスな体験
例えば、5階のネイチャーアクアリウムで水草の美しい緑と小さな魚たちの群泳に見とれたとします。
そのすぐ脇にある本棚には、海洋生物に関する専門書がそっと置かれています。
水槽を見て「なぜこの魚たちはこんな動きをするのだろう?」「水草はどうやって酸素を作っているのだろう?」という疑問や興味が湧いた瞬間、その場ですぐに本を手に取り、ページをめくることができる。
つまり、AOAO SAPPOROでは、「視覚的な感動(水槽)」と「言語的な知性(本)」が完全に融合しているのです。
水槽の前に置かれたゆったりとしたソファやベンチに腰掛け時折目を上げて水槽の中を泳ぐ魚たちを眺め、また本の世界へ没頭する……。ここには、従来の「立ち止まって、見て、すぐ次の水槽へ移動する」という水族館のせわしなさは一切ありません。
③ 子どもから大人まで、誰もが「探究者」になれる仕組み
本棚には、子ども向けの飛び出す絵本や平易な図鑑から、大学の講義で使われるような専門書までが混ざり合って並んでいます。
子どもたちは絵本のページをめくりながら水槽の魚と見比べ、「あ!絵本と同じ形だ!」と目を輝かせます。
大人は専門書や写真集に目を通し、「この生態系はこんな奇跡的なバランスで成り立っているのか」と感嘆の声を漏らします。
年齢や知識の深さに関わらず、誰もが自らの知的好奇心の向くままに「海の知の探索者」になれる場所。それがAOAO SAPPOROのライブラリー空間なのです。
4. フロア別・深掘りガイド〜AOAO SAPPOROの全貌〜
ここからは、4階から6階までの各フロアを実際に歩いているかのように、その詳細な見どころと魅力を解説していきます。
【4階:CONNECT(つなぐ)】〜水族館の“裏側”から始まる未知への入口〜
最初に足を踏み入れる4階は、普通の水族館とはまったく異なるアプローチで来館者を迎えます。
① バックヤードを丸ごと見せる「LABO(ラボ)」の衝撃
多くの水族館において、水質を管理する装置、餌を準備する調餌室、病気の魚を治療する予備水槽などは、客からは見えない「関係者以外立ち入り禁止」の裏側に隠されています。
しかし、AOAO SAPPOROでは、このバックヤード機能の一部を4階のエントランス近くで堂々とオープンにしています。
「水族館というシステムがどうやって命を支えているのか」という裏側のリアリティを最初に見せることで、来館者は単なる「観光客」から、水族館の営みを共に見つめる「観察者」へと視点を切り替えることができます。
② センスあふれる「ミュージアムショップ」
お土産コーナーも抜かりありません。
ペンギンやクラゲをモチーフにした愛らしいオリジナルぬいぐるみはもちろんのこと、おしゃれなステーショナリー、北海道の自然を感じられる水筒、そして館内のライブラリーにも置かれている厳選された書籍や図鑑までが販売されています。
【5階:SCOPE(見つめる)】〜ネイチャーアクアリウムと科学的観察の世界〜
エスカレーターで5階へ上がると、そこは静寂と生命の美しさが満ちあふれる「観察」のフロアです。
① 水景クリエイターが創り出す芸術「ネイチャーアクアリウム」
5階の前半を飾るのが、「ネイチャーアクアリウム」のエリアです。
小型の水草水槽から大型のパノラマ水槽まで、水の中にまるで本物の豊かな森や渓谷が再現されています。
光合成を促された水草たちからは、幾千もの小さな酸素の泡が立ち上り、太陽の光のようなライトを浴びてキラキラと輝きます。その中を、小さなネオンテトラやコイ科の魚たちが群れをなして泳ぎ回る姿は、息をのむほど美しい「生きた芸術品」です。
水槽の周囲には静かな音楽が流れ、ほの暗い空間の中に鮮やかな水草の緑が浮かび上がります。ただぼーっと水槽を見つめているだけで、日々のストレスや疲れがスーッと溶けていくような感覚を味わえます。
② 観察の面白さを極限まで追求した「LIBRARY OCOPUS(観察の部屋)」
ネイチャーアクアリウムの先にあるのが、大小さまざまな形の水槽が規則正しく、あるいは印象的に配置された実験室のような空間です。
ここでの主役は、例えば「チンアナゴ」、「ヘコアユ」、さまざまな造形をした生き物たち。
水槽のすぐ横には生物の体の構造を立体的に理解するため本が添えられていたりします。
「ただ見る」のではなく、「なぜこの形をしているのか?」「どうやって餌を捕まえるのか?」という疑問を持ち、じっくりと「観察する」楽しさを教えてくれるフロアです。
【6階:COMMONS(分かち合う)】〜ペンギン、クラゲ、そして熱帯の森〜
最上階である6階は、AOAO SAPPOROのハイライトであり、最も多種多様な体験が凝縮されたメインフロアです。
① 浮遊する幻想世界「PLANKTON ROOM(クラゲエリア)」
6階に入ってすぐ目に入るのが、大小さまざまな円柱型・水槽群が整然と並ぶ「PLANKTON ROOM(プランクトンルーム)」です。
ゆらゆらと水中に漂うミズクラゲやタコクラゲ、ビゼンクラゲたち。
グラデーションで変化する幻想的な照明に照らされたクラゲたちは、まるで宇宙空間を浮遊する未知の生命体のようです。
水槽の拍動に合わせて、ゆったりと膨らんでは縮むクラゲの動き。そのリズムを見つめていると、人間の心拍数や波の周期とシンクロするような、深いリラクゼーション効果を感じることができます。
② 圧倒的ハイライト「PENGUIN(ペンギンエリア)」
前述した通り、六角形の可変型ブロックの上を躍動するキタイワトビペンギンたちが暮らす大人気エリアです。
展示場の周囲には座席が配置されており、大人数が一度に座ってペンギンたちの動きを観察できるようになっています。
昼間は活発に飛び跳ねるペンギンたちも、夜になるとブロックの上でキュッと体を丸めて眠りにつきます。時間帯によってまったく異なる表情をじっくりと観察できるのも、夜遅くまで営業しているAOAO SAPPOROならではの魅力です。
③ 都会のビルの中に現れたジャングル「GREENROOM(グリーンルーム)」
ペンギンエリアの隣に広がるのは、熱帯地方の貴重な植物たちが生い茂る温室のような空間「GREENROOM」です。
高さ数メートルにも及ぶ観葉植物や、珍しい形の熱帯植物が密生しており、足を踏み入れると一瞬にして南国のジャングルに迷い込んだかのような錯覚に陥ります。
ここにもゆったりとしたソファやテーブルが配置されており、緑の葉から放出されるマイナスイオンを全身に浴びながら、読書やおしゃべりを楽しむことができます。水族館の中にいながら、本格的なボタニカルガーデン(植物園)の癒しまで味わえるという贅沢さです。
5. 大人のためのサードプレイス〜ナイトアクアリウム〜
AOAO SAPPOROがこれまでの水族館と決定的に異なるのは、「ターゲットを子どもやファミリー層だけに絞っていない」という点です。むしろ、仕事終わりのカップルや、一人で静かに過ごしたい大人たちにとっての最高の隠れ家としてデザインされています。
夜22時まで営業という革新
多くの水族館は夕方17時〜18時頃に閉館してしまいます。
しかし、AOAO SAPPOROは夜22時まで営業しています。
これは、仕事帰りの会社員の人々が立ち寄れることを意味しています。
カフェバーで購入したお酒を片手に館内を巡る
6階のカフェ「シロクマベーカリー&バー」では、コーヒーやソフトドリンクだけでなく、クラフトビールやカクテル、ワインなどのアルコール類も豊富に提供されています。
購入したグラスを片手に、ほの暗い館内を散策する——。
幻想的にライトアップされたクラゲの水槽の前でカクテルを傾けたり、薄暗くなったペンギンエリアのベンチでビールを飲みながらパートナーと静かに語り合ったりする時間は、まさに大人だけに許された極上のリラクゼーションです。
「静寂」と「アンビエント照明」が創り出す夜の魔法
夜のAOAO SAPPOROは、日中の明るく賑やかな雰囲気からガラリと表情を変えます。
館内の照明はさらにトーンダウンされ、水槽から漏れる青や緑の光が、来館者のシルエットを浮かび上がらせます。
静かなアンビエント・ミュージック(環境音楽)が館内に心地よく響き、まるで深海の中に身を沈めているかのような没入感を味わうことができます。
仕事で疲れた頭をリセットしたい夜、一人で思索にふけりたい夜、大切な人と特別な時間を過ごしたい夜。AOAO SAPPOROは、どんな夜でも優しく包み込んでくれる都会のオアシスなのです。
おわりに:命を見つめ、知の海へ漕ぎ出す場所
AOAO SAPPOROは、単に珍しい魚を眺めて「可愛いね」「きれいだね」と通り過ぎる場所ではありません。
可変型ブロックの上を躍動するペンギンたちの生命力に目をみはり、
ミズクラゲのゆったりとした拍動に自らの呼吸を合わせ、
本棚から手にとった一冊の本によって、水槽の向こう側に広がる壮大な地球の歴史や生命の神秘へと思考を巡らせる——。
「見る(SCOPE)」、「つなぐ(CONNECT)」、「分かち合う(COMMONS)」。
AOAO SAPPOROが提示するこのシンプルなアプローチは、忙しない日々の中で麻痺しがちな私たちの五感と知的好奇心を、優しく、そして力強く呼び覚ましてくれます。訪れた際はぜひお気に入りの一冊を見つけてみてください。
最後に実際に今回訪れてみて私が興味を持った本を共有したいと思います。
この記事は私が実際に訪れた2026年8月5日現在の展示をもとに作成しています。
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