それでも私が私で在りたかった〜デートDV私に起きた全ての事〜45
第45章
尊厳の値段
息子と別れて、福祉の菊池さんが待つ場所へ向かった。
年末ということもあり、区が運営しているシェルターには空きがなく、今回は民間の施設しか選択肢がなかったという。
私が移動可能だった区内には空きがなく、さらに居場所が知られてしまったことで隣接区への移動もできなくなった。
その結果、東京を離れた県へ。
息子は同系列の、男性のみの無料低額宿泊所へ。
学校への距離を考慮し、ぎりぎり東京都内だと聞かされた。
駅に降り立つと、菊池さんと黙って歩いた。
大きな荷物を抱えながら、前のシェルターよりもはるかに遠い道のりを進む。
「年末間近ですもんね。
迷惑をかけてすみません」
そう伝えると、菊池さんは苦笑いを浮かべただけだった。
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到着した建物は、古びた三階建て。
住宅街の真ん中に、ひっそりと建っていた。
観音扉を開けると、上下ジャージ姿の年配の女性がにこやかに待っていた。
「お話は聞いています」
菊池さんは「よろしくお願いします。ここで頑張ってね」と言い、私を引き渡すと足早に帰っていった。
到着した頃には薄暗くなっていた。
風の冷たい夕暮れだったことを、今でも覚えている。
ぽつんと取り残された感覚。
前のシェルターとの違いに、不安しかなかった。
あの環境がどれほど守られていたのか、ここで初めて思い知った。
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事務所での説明は、ほとんどがお金の話だった。
料金は一日計算。
宿泊料1700円
水道代300円
電気代300円
施設使用料400円
サービス料600円
「サービス料とは?」
救急車の手配や夜間対応の経費だという。
私は頭の中で何度も足し算をした。
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キッチン設備はない。
一階の食堂に電子レンジとポット、トースターがあるのみ。使用は午後8時まで。
食事は最低でも一日二食を取ることが決まりだった。
不要な場合は前日までにボードへ記入。
冷蔵庫は共同、入れる際は名前を書く。
朝食200円
昼食200円
夕食350円
お代わりなし。
食事中の私語は禁止。
皆、黙って食べる。
ただ、長くここで暮らしている人たちは知恵を持っていた。
最低限の二食だけを申し込み、もう一食は自分なりに工夫する。
夜は350円と一番高い。だからこそ、やりくりの方法を覚えていくのだという。
生きることは、計算だった。
洗濯機はトイレと併設。
朝8時から夜8時まで。
使用中は名札を掛ける。
細かなルールが、淡々と説明されていく。
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1ヶ月分として12万円弱を請求された。
「食事はいりません」と伝えると、二食は必ず申し込むのがルールだという。
入所日は27日。締切は25日。
来月扱いになると、さらりと言われた。
どうにかならないかと相談したが、食費は変わらない。
保護費がまだ全額振り込まれていないことを話すと、福祉と相談することになり、支払いは一旦待ってもらえることになった。
区立施設では福祉から直接支払われていた利用料。
しかし県を跨いだことで、住宅扶助も改めて申請が必要になる。
つまり、息子も同じ金額がかかるということだ。
今頃、あちらでも同じ説明を受けているのだろうか。
同じ系列なのだから、同じような金額を告げられているはずだ。
あっちはどんな環境なのか。
不安に思っているだろうか。
部屋に落ち着いたら、すぐに電話しなければ――
そればかりが頭を巡っていた。
ケースワーカーに相談しなければならない。
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古い階段を上り、三階の部屋へ案内された。
足に痛みが走る。
身体に異変が出始めたのは、この頃からだった。
股関節に鋭い痛みが走り、階段を上るたびに息が詰まる。
最後は、足を引きずるようにして歩いていた。
身体中が悲鳴をあげていた。
それでも、私は気づかないふりをした。
弱いところなんて、見せていられない。
守るものがあるから。
けれど――
それでも、やるしかなかった。
部屋に通された瞬間、
私は絶句した。
