AIに専門家会議をさせると、なぜ全員賛成で終わるのか——議論を構造化する「円卓会議」Skillを作りました
こんにちは、noteのCDO(Chief Design Officer)の宇野です。
AIの回答は、「もっともらしい」と感じませんか?
これ、褒め言葉のように聞こえるかもしれないけど、僕はここに引っかかってます。設計方針を相談しても、事業判断を聞いても、返ってくる答えはたいてい筋が通っていて、それっぽい。大きな異論がないものができる。
「いいと思います」「このアプローチが適切です」——言われた瞬間は安心する。でもあとから、「これ、本当に検討し尽くしたんだっけ?」と不安になりません?
もっともらしい答えがすぐ返ってくること自体が、問題なのかもしれない。
答えが1つに定まらない問いほど、「反対意見が出ない」ことのほうが危ない。全員が賛成しているのは、正解だからじゃなくて、反対の声が構造的に存在しないだけかもしれない。
この問題を解決するために Roundtable(円卓会議)というツールを作りました。
「専門家になって議論して」の限界
AIに複数の専門家を演じさせて議論させるプロンプトが流行っています。孫正義さんが SoftBank World 2023 の講演 で「ChatGPT内でキャラクター同士にディスカッションさせている」と語っています。
僕もしばらく試していました。面白いし、たしかに視点は増える。
でも使い込んでいくうちに、あることに気づきました。5人で議論をさせているとすると、最初に発言した専門家の意見に、あとの4人が引きずられる。異論が出ても2ターンくらいで合流して、最終的には穏やかに合意して終わる。
5人いるのに、実質1人が5役を演じているのを見ているような感覚です。
これは心理学で Groupthink(集団浅慮) と呼ばれる現象で、人間の組織でも起きます。全員が「まあいいんじゃないか」と感じている間に、重大なリスクが見過ごされる。AIでもこれが再現される。
さらに、マルチエージェント議論(Multi-Agent Debate)の 学術研究 では、「議論を3ラウンド以上続けると、少数派が多数派に迎合して意見の多様性が失われる」ことまで確認されています。
議論させればさせるほど良くなるわけじゃない。これは意外でした。
MAGIシステムから始まった
この問題を考えているとき、思い出したことがあります。
noteのCXOの深津さんが2023年に、新世紀エヴァンゲリオンのMAGIシステムをGPT3で再現する 実験 をしていました。性格の異なる3体のAIがそれぞれ独立に意見をkl出すというもの。
あの実験で示されていたのは、「複数のAIに別々の視点で考えさせて合議すると、1体より包括的な答えが出る」ということでした。
これに触発されて、「合議の質をさらに高める方法はないか」を調べていったら、意思決定の理論にたどり着きました。デルファイ法、Groupthink研究、マルチエージェント議論の論文——集団で意思決定する際に「どうすれば意見が偏らないか」「少数意見が消えないか」を扱った研究が、実はたくさんある。
MAGIの「複数のAIで合議する」というアイデアに、これらの知見を組み合わせて、どんな議題でも使える汎用システムにしたのが Roundtable です。
Roundtableがやっていること
Roundtable は、議題を渡すと専門家チームが自動で組まれ、構造化された議論を経てレポートが返ってくるプラグインです。Claude Code と Cursor で使えます。
このRoundtableには4つの特徴があります。
初めは全員が独立に分析する
他の意見を見ない状態で、各専門家が分析を完了させる。全員分が揃ってから、意見が割れた点だけを議論する批判者(Devil's Advocate)が必ずいる
専門家とは別枠で、弱点を探すことだけが仕事の人を1名入れる。良い点を挙げる必要はない。「この提案が最悪の形で失敗するとしたら、原因は何か?」を問い続ける少数意見は構造的に保護される
多数派と矛盾する指摘でも、根拠があればレポートに必ず残す。棄却するなら「なぜ棄却したか」を明記する。「多数派だから」は棄却理由にならない議論は最大2ラウンドで止める
3ラウンド以上は少数派が多数派に迎合するという研究結果に基づき、あえて議論を止めることで意見の多様性を守る
技術的には、Claude Code では エージェントチームやサブエージェント、Cursor ではサブエージェントを使って、各専門家を完全に独立したセッションで並列に実行しています。同じ会話の中で順番に発言させるのではなく、物理的に別の空間で考えさせる。これが、最初の発言者に引きずられるアンカリング効果を構造的に排除する仕組みです。並列実行なので、速度面でも待ち時間を抑えられます。
これらの設計は、デルファイ法やKahnemanの Adversarial Collaboration、Janisの Groupthink研究など、意思決定研究の知見を参考にしています。学術的な詳細はリポジトリの SKILL.md にも書かれているので、興味がある方はぜひ。
専門家を「誰にするか」の設計
「Webサイトを評価して」と言われたら、デザイナーとエンジニアを呼ぶのは当然ですよね。でもそれだけだと、作り手の視点しかない。
Roundtable は5つの原理で専門家を選びます。中でも僕が気に入っているのはこの2つ。
「この議題が失敗したとき、最初に気づくのは誰か?」 ——その人の視点を持つ専門家が必要。ECサイトなら、表示崩れに気づくフロントエンドエンジニアだけじゃなく、離脱率の悪化に気づくUXリサーチャーも。
「一般的には招集されないが、実は重要な知見を持つ分野は?」 ——AI開発に倫理哲学者、組織設計に生態学者。異分野の視点が入ると、議論の質がガラッと変わることがある。もちろん、ロジックで「必要」と判断した場合だけ。
やっぱり、「誰を呼ぶか」で議論の質の8割は決まるんだと思います。
そして、同じ側の専門家を重複させない。「編集者とストラテジスト」はどちらも作り手側。片方を読者側に替えるだけで、議論のバランスが変わります。
専門家の人数は、議題が必要とするステークホルダーの数で決まります。単一ドメインの明確な問題なら3名、複数の領域が絡む問題なら4〜5名。仕様上は最大7名まで対応していますが、実際のところほとんどの議題は3〜5名 + Devil's Advocate で十分です。多ければいいわけではなく、必要な視点を過不足なく揃えることが大事。
パネル構成は事前に提示されるので、「この専門家を追加して」「この人は外して」と調整もできます。
返ってくるレポートはこんな感じ
議論が終わると、こういう構造のレポートが返ってきます。
エグゼエグゼクティブサマリー — 結論を3〜5行で。忙しいときはここだけ
専門家パネル — 誰がどんな視点で参加したか
合意事項 — 全員が一致した点
主要な議論と結論 — 意見が割れた点について、賛成側の根拠、反対側の根拠、どちらを採用しなぜそう判断したか
少数意見 — 1人だけが指摘したが見逃してはいけない点
推奨アクション — 優先順位つき
議論の限界 — この議論でカバーできなかった観点
「主要な議論と結論」が核です。結論だけじゃなくて、「賛成はこう、反対はこう、採用理由はこう」と判断のプロセスが全部見える。だから「この結論を信頼していいか」を自分で判断できる。
実際にnoteの記事ページのUIを議題にして回してみたものがあります。返ってきたレポートには全員一致の指摘に加えて、認知心理学者から「サイドバーのソーシャル要素が周辺視野を通じて読書への没入を阻害している」という少数意見が出てきた。
毎日見ている自分たちの画面なのに、この視点はなかった。円卓会議ならではの良い視点です。
使い方
/plugin marketplace add saladdays/agent-skills/plugin install roundtable@saladdays-skillsあとは `/roundtable:start` のあとに議題を書くだけです。渡し方はいろいろあります。
/roundtable:start このWebサイトを評価して: https://example.com
/roundtable:start いま議論している設計方針を多角的にレビューして
/roundtable:start このプランニングドキュメントの戦略を評価して(ファイルを添付)開発中のClaude Codeのセッションで「いまの設計どう思う?」とそのまま聞くこともできるし、noteの下書きや事業計画書を渡して評価してもらうこともできます。議題さえあれば、形式は問いません。
スキルとして登録されているので、コマンドを覚えなくても「円卓会議を開いて」と言うだけで動いてくれます。
議題の重さに応じて議論の深さが自動で変わります。軽い相談なら Quick(独立分析だけで統合)、事業判断のように高リスクなら Deep(議論を深掘り+セカンドチャンスで見落としを再確認)。深い議論ほどラウンド数が増えるぶんトークン消費が大きくなるので、この自動判定は使いすぎを防ぐ意味もあります。
おわりに
偉そうなことを書きましたが、このツールは人間の専門家を置き換えるものではありません。高リスクな判断には、必ず人間の確認を入れてほしい。
ただ、「1人で考えて、1人で決める」をやめるだけで、見える景色はかなり変わります。
ぶっちゃけ、僕がこのツールを気に入っている理由はシンプルで、「いいと思います」ではなく「ここが危ない」が返ってくるからです。安心させてくれる相談相手じゃなくて、不安にさせてくれる相談相手。やっぱり、それがいちばん価値がある。
まずは軽い議題で試してみてください。Devil's Advocate の指摘に、ドキッとするかもしれません笑
いいなと思ったら応援しよう!
頂いたチップは次なるUIデザインやその記事に活かしていきます!