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「ここって芦屋だっけ?」__月2万の月謝に震える下町ママと体操教室になじめない息子

子供の「やりたい!」は、なるべく叶えてあげたい。

そんな思いから、うちは裕福ではないけど「体操やりたい!」と言った娘のために、体操教室に通わせていた。

1年経った夏の始めごろだっただろうか。毎週土曜日に娘(5)を教室まで送迎していたら、長男(3)も「一緒に行く」とついてきた。

そこから「僕も体操やりたい!」と言ってくるまで、時間はかからなかった。

いつも姉の背を追いかける長男。
尊いきょうだい像だ。

しかし何度でも言う。
うちは裕福ではない。

でも冒頭のとおり「やりたい!」はなるべく叶えたい。

私は軽率に娘を体操へ通わせたことを若干後悔しながら、毎月2万円(1万×2人)の課金をすることで、親としての意地を貫くことにした。

私は節約として、この夏はご褒美のハーゲンダッツを自粛し、ガリガリくんで乗り切ることを誓う。


こうして、きょうだい2人を体操教室に通わせるようになった。

土曜の13~14時は長男のクラス、14~15時は娘のクラス。

体操中は、保護者は2階からガラス越しで見守る。うちはきょうだいで通わせているので、片方の子が体操中にもう片方の子と一緒に待機だ。

待機する子供が、体操の見学がてら退屈しのぎにドリルをやってくれるならまだよい。

しかし大抵は10分程度で飽きられる。ポップキャンディーを舐めさせ、もう5分くらい時間を潰すが、残り45分は親をジャングルジムにして遊ばれる。

帰るころには私の髪や服装は、クマに襲われたようにボロボロだ。体操教室は、お金だけでなく、貴重な土曜休みにも関わらず親の体力まで奪われる。

しかしウチが例外なわけでない。他の保護者を見ていると、同じようにきょうだいで通わせている父母は多い。体操だけでなくプールにも習わせている猛者もいた。

「関西の住みたい街ランキング」に1ミリもランクインしない庶民の下町だと思っていたが、この時ばかりは周囲の経済力の高さに「ここって芦屋だっけ?」と思わせられた。

きょうだい合わせて月2万円の習い事など、一般家庭においてケチるところではないのだろうか。

自分も子ども達に習わせておきながら、自問自答する時間でもあった。


それだけなら、まだよかった。

子供にお金と体力を消耗する話なんて、「ほんと、子育てさせていただいてるわ~」などと、職場の雑談にする程度だ。

実は、長男も体操教室に通わせるようになって、頭を抱える別の悩みが1つあった。

それは、体操教室が始まる前に長男から毎回言われることだ。

「お母さん!!体操中は
絶対そばにおってな!」

人見知りの強い長男は「体操やりたい!」と言うものの、直前になると知らない子達と体操するのが怖くて、行き渋りをする。

せっかく通わせるように手続きしたのに、ここで「やっぱりやめます」というわけにもいかず、先生に許可をもらい、慣れるまで体操中は親が近くで見ることにした。

本当は保護者は2階から見なければいけないが、私だけが近くで見る。長男の頑張っている様子が間近で見られて嬉しいが、私だけがズルをしているようで肩身が狭かった。

開始10分くらいでそっと2階へあがろうとするも、長男は母の不在にすぐ気づき、大泣きして輪を乱す。体操が中断され他の子の迷惑になるので、私はすぐさま戻る。


他の子は親がいなくてもしっかり体操しているのに…。

とにかく私達親子に対する周囲の視線が痛かった。


それだけなら、まだよかった。

私がいないと体操できないないなんて、「私、愛されてる~」などと夫に自慢(自虐)することだ。

実は、長男の体操を間近で見て、私は頭が痛い悩みがもう1つあった。

長男は人見知りするだけでなく、集中力もないのだ。

柔軟の時間では、皆がストレッチしている横で、長男だけが芝生で青空を見上げるように両手を後頭部に置き、寝転んでいた。まるでのび太だ。

青春中なら邪魔しないが、今は親が課金してプロに指導を受けながら己の筋肉を伸ばす時間だ。

「長男くーん!真面目にやってー!(小声)」

私は一人だけ先生の言うことを聞かない自由すぎるのび太を精一杯、鼓舞する。

柔軟の時間だけでなく、他の子が鉄棒している間などの順番待ちも、じっとすることができず、うちののび太だけ関係ない場所へ走っていく。

そのたびに先生が呼び止め、追いかける。その間はもちろん体操が中断される。

長男だけでなく他の子もちらほら集中できない子がいたらよいが、あいにく他の子達は皆、しっかり先生の言うことを聞いている。

2階の保護者席から後ろ指をさされている気がして、私は長男を見ていられなかった…。


うちの子って集団生活できていないんじゃ…。

今まで気にしていなかったが、保育園の先生に相談することにした。体操教室での様子を伝え、保育園での長男について聞いてみる。

「保育園での長男君は、他にふざけている子がいたら、つい便乗しちゃって輪を乱すところがありますね~。」

保育園の先生にまで迷惑かけていたなんて…。私の顔は青ざめた。

「ただ個人で輪を乱すようなことはしませんよ。4歳になっても集団行動できない子は発達支援を検討しますが、今のところはよくある行動なので、様子見でいいと思います。」

先生の言葉にホッとした。まだ様子見ではあるものの、保育園では気になるほどではないのか…。

ではなぜ体操教室では集中できないのだろう…。

体操は向いていないのだろうか。せっかく習い始めたところではあるが、やめさせた方がいいのだろうか。

私は考えを逡巡させながら、毎週土曜には重たい胃を抱えて、長男の体操を見守り続けた。


「私、体操やめてスイミングをやりたい!」

ある日、娘が夏のプールの楽しさに引っ張られ、スイミングへのシフトを希望するようになった。

せっかく体操が上達していたのに勿体無いが、まあ1年通ったしなあ。

小学校の先生をしている親戚によると、最近のプールの授業では、泳ぎ方を教えないらしい。

ちなみに私はカナヅチだ。泳げる人のことは全て、池江里佳子選手を見るように尊敬する。

小学校では泳ぎを教わらないなら、スイミング通わせるのもアリかな。
私は娘を池江選手にするため、スイミングの体験申し込みをした。

いつも娘の後を追う長男。娘がスイミングの体験をすると聞くと、「行ってみたい!」と言ってきた。

毎週の体操のことを思うと、「本当に行ける?」と疑いの目を向けざるを得ないが、「まあ、体験くらいは。」と長男の分も申し込む。

いざ当日。

娘は楽しくスイミングをしていた。長男はというと、やっぱり大泣き。

しかし15分くらいで泣くのをやめ、諦めて最後までスイミングを受講した。なんと後半は楽しそうに練習するではないか。

これは…長男も池江選手にできるかも?!と私はちょっと期待して「スイミング習う?」と長男に聞いた。

「…スイミング、行かない。」


私はガックリした。娘はスイミングに行く気満々だが、長男は体操といい習い事は早かったのだろうか…。


僕は、体操をがんばる。


続いて出てきた言葉に私はハッとした。

そうだ。長男は最初から「体操やりたい!」と言って通っていたのだ。


いつも人見知りして、集中力もないが、本人は「体操をやりたい」という気持ちがしっかりとあるようだ。


思えば、柔軟などは楽しくなく、やる意味を見出せないために本人は集中できないのかもしれない。

長男はトランポリンや鉄棒をするときはしっかり先生の指示に従っている。

周りに合わせて行動することも大切だが、彼は自分のやりたいこととやりたくないことがハッキリしているのか…。

そんな長男も親として認めてなければ。

周りの子と比べて焦っていたけれど、比べるべきは「昨日の息子」だったのだ。

柔軟の時間に寝転んでいたっていい。いつか彼が自分の力で跳び箱を越える日を、私は特等席で見守るだけだ。

結局、月2万円の月謝は、高いのか安いのかまだ分からない。

でも、泥臭く奮闘する我が子を眺めるこの時間は、少なくとも私にとっては、芦屋セレブにも負けない贅沢なひとときなのかもしれない。



そんな私の感傷をよそに、今日も長男は柔軟の時間、寝転びながらそのまま昼寝する勢いであった。

大物になる日は、まだまだ遠そうだ。


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