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有休消化と白いカレーうどん

退職前最後の一年間。定額働かせ放題による無賃残業が常態化している公教育業界。でも、最後の一年くらいは、人間らしい日々を送りたい。超過勤務当然ヅラする不愉快な校長の言いなりには絶対なりたくない。37年間、病休も産休も取らず、むしろ病休や産休や育休や懲戒免職で消えた同僚のピンチヒッターとして2人分の仕事をこなし、ずっと出ずっぱりだった私を、誰もねぎらうことなく、最後まで使い捨てにする業界。最後くらいは、何か捨て台詞を吐いて、堂々と退場したい。

結局、吐くことはなかったけど。

そんなルサンチマンにけりをつけるべく、最後の一年間の目標を「有給休暇40日分、完全消化」および「無賃残業実質ゼロ時間」に設定した。

毎年の有給休暇は20日だが、一年間に限り、繰り越せることになっている。若い頃はそんなに休む暇がない。だから、積もり積もっていずれ、年間40日分の有給休暇が溜まることになる。そのうち前年度分の20日が使わずして消えていくのはもったいない、と考えだす者は、ある程度ベテランとなり時間の使い方に余裕が出た頃、なんとかしてちびちびと時間休など取りつつ、20日分の全消化に近づけようとする。そして、自分の身にいつ不調が起きるかわからないから、残りの20日分は大切に取っておく。2年分の有給休暇合計40日を、堂々と使い果たすということは、守るもののない最後の一年間の特典。

ただし、自分的計算の仕方は、無賃残業時間の合計を、取得した有給休暇で相殺することとする。だって、このブラック環境で、残業時間をゼロにすることは、事実上不可能だから。なので、たとえ40日分休暇を取れたとしても、その中には、残業した時間が含まれていることになる。まあ、仕方ない。

ここ数年、愛用の無印手帳には、毎日、残業時間と有給休暇時間を記録している。最後の年の4月、無賃残業はトータルで28時間。取得した有休は2時間。すると全体では、4月の残業時間は26時間の計算になる。もしこのペースで仕事をすると、一年で312時間、つまり約40日分、無賃残業することになる。そして有給休暇の消化は年間でたったの24時間、約3日分。やってらんねえよ!(まあそれでも、部活動主顧問を固辞する自分の残業時間は、公立学校教員の平均的残業時間よりは圧倒的に少ないですが。)

ということで、有給休暇消化の闘いが始まった。

毎日とりあえずは定時退勤を目指し、果たした日は無印手帳に二重丸。と思いきや、ほとんど無理。4月は超多忙。新クラスの名簿と個人別時間割作成、座席とロッカー指導、進路希望調査や校外学習参加確認書の配布回収、個人面談等々に追われ、新年度の教科書を開く間もなく授業開始。下らぬ証拠作成のための事務仕事ですぐ定時。複雑な成績処理ソフトが分厚いマニュアルと共に丸投げされる。明日締切りの書類を生徒指導部がおずおずまわしてくる。どうでもいい書式のことで管理職からダメ出しが来る。保護者対応で数時間。生徒が問題を起こすと事情聴取に指導会議。教材研究する暇なんかない。いや、このまま退勤して、明日の授業ノープランで臨んでもいいんですけど。でも、職業意識が許さない。授業の準備をやり始めると、どんどん時間が経過。これが「教員の自主的残業=残業手当なし」とみなされるゆえん。自主的超過勤務。

そんな中、「風さん、〇〇駅の近くなんだって?白いカレーうどんの店、知ってる?超有名だけど。」と話しかける、隣の席の物知りな同僚。白いカレーうどん?生クリームとか?「いや、それが、ジャガイモのムースなのよ。あっさりしてて。行ったことないの?美味いから一度食べてみて!」

思い立ったが吉日、直近で奇跡的に定時退勤を果たせた日、白いカレーうどんの店にGO。

そこは銀行に挟まれた死角の細い路地。毎日のように使う道なのに、気づかず通り過ぎていた… その奥に、小綺麗で高級そうな店…定時退勤したから、まだ早い時間で混んでいない。思い切って、入店。

広くて清潔で気持ちの良い店。メニューを見る。おお、白いカレーうどんがある!まてまて、他にはどんなメニューがあるのかな。そうだ、せっかくだからまず、ちょっとつまみでも頼んで飲もう。今月初の定時退勤祝い。

おや、こんなメニューがある!「あさりとあおさのおうどん」。いやー、これは旬だね!絶対うまそうだ!浅利の出汁効いてそう。ヘルシーだし。これにする!

磯の香りに癒される


しまった!!白いカレーうどん、頼めなかった…

翌日、その旨を同僚に報告すると、「はっはっは、あそこは何でもうまいんですよ。まあ、またぜひ行ってくださいよ。」

そんな日々でも、ちょっとでも一息付けそうならば、時間休をとって早めにとんずら。一時間目に授業がなければ、副担にホームルームを頼んで時間休。昼休みの前後に空き時間あらばそこにも時間休を入れてランチにGO。姑息。時間休だけではらちがあかぬ。行事や考査で授業がない日は、何とか半日休暇、あわよくば全休を入れる。でもそのツケで、結局、翌日残業する羽目になる。堂々巡り。長期休業期間中にここぞとばかりまとめて休暇をとる。安定の休暇はこれくらい。今年も部活動の主顧問を回避できてラッキー。やっていたら有休消化なんて絶対無理。

部活動顧問拒否は団結してやらないと根本的解決にならないんだけど。

3年担任として、調査書の作成にあわただしい夏期休業期間中、後ろの席の同僚が声をかけてくる。「風さん!〇〇先生が勧めていたあの白いカレーうどんの店、自分、この前行ったんですよ。いやー、美味しかった、白いカレーうどん。あまりおいしいんで、次の週に家族総出でまた行っちゃいましたよ。やっぱ夏はカレーですね!」 え、食べたの?・・・先越された…

よし、今日は午前中で何としても調査書を終わらせ、午後、休暇を取ろう!そして白いカレーうどんのランチをいただくのだ!

ギラギラ照り付ける真夏の真昼の太陽にやられそうになりながら、マイチャリで例のうどん屋に乗り付ける。ふー、暑かった!冷房が気持ちいい。出された水をごくごく。

ん?冷やしうどんがあるのか。茄子とひき肉のゴマダレうどん?おお、これはいいねえ…夏だし!しかもごはんとセットなのね、腹ペコだからちょうどよい!

冷やしうどんで涼をとる


あっ!しまった!!また、白いカレーうどんを食べ損ねた!

翌日また同僚に白状すると、今度は気の毒そうに目を細めて苦笑いするのだった。ううっ、覚えてろよ!

有給休暇40日分の消化にかこつけて、年度末に外反母趾の手術を受けることにし、そのためにまるまる2週間休暇を取ります、と早めに管理職に宣言。3年担任だから、年度末は卒業式を過ぎれば大きな仕事はないはず。そして、3年生の授業が終わった1月末から、自分の授業時間が少なくなり、有給休暇を取るペースが上がる。許して同僚。今年だけ。今までの37年間に免じて。最後だから。そして、涙、涙の卒業式終わる。

涙なんか一滴も出なかったけど。

結果は、一年間で、有給休暇40日全消化。無賃残業は114時間=15日分。ということは、純粋に取れた有給休暇は25日分。残りを相殺して実質残業時間ゼロとみなそう。目標達成。

一応、同僚一人一人にお別れの挨拶はしたものの、結局、白いカレーうどんの食レポをすることかなわず、同僚たちともそれきりとなってしまった。

感傷に浸る暇もなく、外反母趾手術とそれに続く療養の、カオスな日々。その間に、無職の身となる。でも全く実感がわかず…

ふと気づけば、桜も新緑も終わり、間もなく梅雨入りとなる頃。

ようやく自由に歩けるようになり、商店街を散策していたある日、くだんの隠れ路地を通りかかる。

ああ、そうだった。白いカレーうどん…

今度こそ、食すのだ、白いカレーうどんを。

季節限定メニューから、初回訪問よりちょうど一年と気づく
中からちゃんとカレーが
牛肉も入ってる
上はまろやか〜、中はスパイシー、麺はもっちり~
味の七変化を楽しみつつ美味しくいただきました


なんだか、これを食べるために、一年間、闘ってきたような気がしてきた。

これをもちまして、私の教職最後の一年間は無事、終了となりました。

追記:私みたいに気づかず通り過ぎる人が多いみたいで、最近、路地の入り口に看板が出るようになった↓

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