12万円の「不便」を買う。iPhone全盛期に、あえてズームできないカメラを持つ理由。
iPhoneのカメラ、すごいですよね。
遠くのビルも、暗い夜景も、AIが勝手に「正解」にしてくれる。失敗しようがない。現代の魔法の杖です。
でも、私は先日、その魔法の杖をポケットにしまったまま、12万円もする「ひたすらに不親切なカメラ」を買いました。
RICOH GR IIIx。
このカメラ、現代の基準で言えば「欠陥品」スレスレです。
欠点だらけの愛機
まず、ズームができません。
カフェで向かいの席の友人を撮ろうとして、「あ、遠いな」と思っても、画面をピンチインできない。どうするか?
自分が席を立つんです。 あるいは、変な体勢で身を乗り出すしかない。
傍から見れば滑稽でしょう。12万円払って、やっていることはカニのような横歩きなんですから。効率主義者が見たら「時間の無駄」と鼻で笑うに違いありません。
次に、バッテリーが貧弱です。
「今日は撮るぞ」と意気込んで出かけると、昼過ぎには息絶えます。オートフォーカスも遅い。動く子供なんて撮ろうものなら、ピントが合う頃には運動会が終わっています。
Amazonのレビューを見れば、「今どき単焦点(ズーム不可)なんてありえない」「時代遅れのスペック」と、もっともな罵詈雑言が並んでいます。
でも、私はこの「不便さ」に、救われているんです。
「自分の足」で撮る、という快感
GR IIIxは、私に「動け」と命令してきます。
撮りたいものがあるなら、近づけ。構図が気に入らないなら、自分が下がれ。
このカメラを持っていると、ただの散歩が、自分と世界との距離を測る「対話」に変わります。
不便だからこそ、一枚一枚に「俺が撮ったんだ」という、妙に重たい納得感が宿る。シャッターを切るたびに、効率化で削ぎ落としてしまった「手触りのある時間」が、少しずつ指先に戻ってくる感覚があるんです。
誰のための道具か
誤解しないでください。
絶対に失敗したくない記録写真を撮るなら、迷わずiPhoneか、ソニーの最新機種を買ってください。このカメラは、そういう優等生ではありません。
でも、もしあなたが、「失敗のない写真に、飽きてしまった」なら。
あるいは、「便利すぎる日常に、少しの手間(ノイズ)を混ぜたい」という奇特な趣味をお持ちなら。
この不親切な黒い箱は、あなたのポケットの中で最高の相棒になるはずです。
予備バッテリーをポケットに突っ込んで、ズームのできないレンズで街を切り取る。
そんな「愛すべき無駄」を楽しめるあなたになら、この処方箋はきっと効きます。
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Roji|不便な道具の処方箋
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