迎え火オペラ
毎週ショートショートnoteの企画参加作品
昔はここにオペラを聴きに来てた。
建物も老朽化して、立て壊されるらしい。
あの時付き合っていた彼女も、高学歴、高収入のやつに奪われちまった。
俺は独身で、未だ朝から晩まで働いてる。
どこで歯車が変わっちまったのか。
俺がその場を離れようとした時、甲高い女性の声が聴こえた。
まさかな、聴き間違いだぜ。
また、聴こえる。
朽ち果てた建物の中へ、吸い込まれるように入っていった。
中には多くの観客が座っていた。
ステージには美しい女性。
歌っているのは『蝶々夫人』。
彼女と一緒に観た、あの『蝶々夫人』だ。
空いた席に座ると、隣の女性が囁いた。
「迎え火オペラって知ってた?」
「迎え火オペラ?」
「そう。オペラが好きで亡くなった人を供養するのよ。私もその一人」
背筋が寒くなった。
身体が縛られたように動かない。
悲しく美しい歌声だけが響いていた。
俺はとんでもないもんを見ちまった。
もう、あの世に来ちまったのか。
あの世に行く前に、
俺は何がしたかったんだ……。(409字)

毎週ショートショートnoteのお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。
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