君の心へ帰還する
せりふ三題噺の企画参加作品
僕は宇宙船のパイロット。
彼女とはもう何カ月、いや、地球時間では一年以上会えていない。
宇宙船に乗っていると、時間がゆっくりと流れる。
地球の時間とは全く違うものだ。
僕は今度、いつ地球に帰れるんだ。
宇宙カレンダーを見ると、帰還予定日はまだ数カ月先。
彼女は僕のことを待っていてくれるだろうか。
思えば、彼女との出会いは滑稽なものだった。
僕は好物の昆布漬けを買いにデパートへ行った。
最後の一つを見つけ、手を伸ばすと、もう一人の手が重なった。
「それ、先に見つけたん私です」
「あ、でも、僕、今日しか買いに来れないんです」
「そんなこと言うてもあかん。私これ買って帰らんと、うちの人に怒られますねん」
「あ、そうでしたか。それではどうぞ」
「おおきに。あの、この隣の明太子の昆布もうまいで」
そう言うと、彼女は風のように去って行った。
僕は次の日、休みを取って、またデパートへ行った。
売り場には、たくさんの昆布漬けが並んでいた。
昨日は、たった一つの昆布漬けを二人で争ったのに。
「あの、昆布漬けを下さい」
買った昆布漬けをエコバッグに入れ、いつも立ち寄るカフェへ向かった。
その時だった。
「受付で待ってますね」
近くの案内カウンターから女性の声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある。
振り返ると、昨日の彼女が立っていた。
僕は一目で彼女だと気づいたのに、彼女は僕に気づかない。
ここで声をかけないと、一生会えない気がした。
「あの、一緒にコーヒーいかがですか?」
「なんや、あんた。藪から棒に。ナンパしとるん?」
「あ、いえ、僕は、その……ご一緒にコーヒーをと思いまして」
「それがな、ナンパいうんや」
「そうですか。それじゃ、ナンパします」
「は? あんた、おかしいで」
二人は大笑いした。
「ごめん、連れがおんねん。良かったら明日、この場所で」
「あ、明日は……」
僕は明日、仕事で来られない。
連絡先も知らない。
でも、彼女を逃したくない。
僕は考えた。
次の日、彼女がカフェに現れた。
店員が彼女に一枚のメモを渡した。
美しい隣人よ
僕の心の
隣にいてほしい
○月○日 15時にここで
――そして今。
彼女から毎日のようにメッセージが届く。
「いつ帰ってくるの」
「もう、浮気するでー」
「なんでこんな行けずな人、好きになったんやろ」
そんな言葉が、毎回僕の心を打ち抜く。
宇宙カレンダーに、また一つ印をつける。
待ってて。
地球への帰還の前に
君の心へ帰還するよ。

せりふ三題噺のお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。
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