娘のエッセイ、ワッショイショイ|夜店から|#シロクマ文芸部|
「何がエッセイだよ」
リンゴ飴を割り箸に差し込みながら、親方はぼやいていた。今日と明日は祭りの夜店で、リンゴ飴屋の商売だ。
テーブルの上には真っ赤なリンゴ飴が割り箸に刺さって、規則正しく並んでいる。親方の奥さんの実家がリンゴ農家ということもあって、夏祭りの時期はこうして夜店を出店しているのだ。
「あいつは、『のて』ってところで投稿してるんだ」
たぶんそれは、プラットフォームの『note』のことだと思うが、親方は機嫌が悪そうだったので、あえて訂正はしなかった。
「親方は、娘さんのエッセイを読んだんですか?」
この質問が悪かった。親方の体がピクリと反応する。俺はてっきり怒鳴られるかと身構えた。だけど、違った。親方は手で目元を覆い、大柄な肩を小刻みに揺らしている。
「……親方?」
「……」
しかし、突然、親方が大声を張り上げた。
「おい、たこ焼き屋! お前んとこの煙が目にしみるぞ!」
親方は目元を真っ赤にして、涙を流している。
「はあ? こっちは真っ当な商売をやってんだ!」
通りを挟んだ向かい側、たこ焼き屋の髭面の店主が言い返してきた。それはそうだ。風向きが違う。もくもくと上がる煙は、こちらには全くと言っていいほど流れてきていない。とんだ言いがかりだ。
「おい、リンゴ飴屋! さっき、お前んところのやつを食べたうちの娘の前歯がとれたぞ!」
それは大変だ。だが、親方に悪びれる様子は微塵もない。
「知るか!」
親方がテーブルをドンっと叩いた。整然と並んでいたリンゴ飴がいくつも傾き、赤い飴同士がカチカチとぶつかり合った。
「石みたいなリンゴ飴売ってんじゃねーぞ!」
お互いヒートアップしてきた。
「お前んとこの娘の歯なんぞ、うちの娘のエッセイのネタにしてやんぞ!」
「はあ、エッセイ?」
たこ焼き屋の店主は、今にも飛びかかってきそうな剣幕だ。隣りで奥さんが慌てて腕をつかんでいる。
「うちの娘のエッセイじゃ! ボケェ!」
「やれるもんならやってみろ、コラァ!」
「ああ、やってやるよ!」
興奮する親方の腕を羽交い締めにしながら、俺は心の中で毒づく。
——エッセイには何の罪もないだろうに。
親方が振りかざす無茶苦茶な言いがかりのせいで、せっかくの甘いリンゴ飴が、まるで白雪姫に災いをもたらす例の果実みたいになっているじゃないか。
頼む。夜店から、リンゴ飴屋の看板で娘の評価を争うのはやめてくれ。
(了)
(969文字)
残り一日となりましたが、こちらのお題に参加させていただきました。
