第524回 日本利き旅師検定_3
この記事はマスクドnote企画投稿作品です。
【ゆきのしたチーム 3 小説】

「──『第524回日本利き旅師検定』の最終試験を始めます。こちらのアイマスクとヘッドホンを装着してください。これから皆さんを5箇所の旅先へお連れします。匂いと、その土地の味で何処か当ててください。間違えたらそこで失格です。最後まで残った方が、栄えある利き旅師として認定されます」
ついに……ついに……!! 3回目の受験でようやく最終試験まで残れた! あと少しで念願の日本利き旅師になれる。そうしたら、空港で利き旅師専用ラウンジも利用できるし、全国の観光地で利き旅師限定メニューも食べられるし、全国の温泉で利き旅師専用タオルも借りられるんだ!
初めて受験した時は、一次試験のシャチホコの写真で撃沈した。頻出のラッキー問題だったのに、名古屋城と大阪城を間違えるなんておれとしたことが。
2回目の受験は二次試験で草津温泉を蔵王温泉と間違えて撃沈。乳白色の温泉を見分けるのは本当に難しい。
それでも、三年目にして遂にここまできた。
とは言え、ここからは味覚と嗅覚だけが頼りだ。心してかからねば。ここまできてケアレスミスで不合格は避けたい。
伊豆、京都、淡路島、下関……順当に正解することができ、残すはあと1箇所。
ふわりと香る懐かしい匂い。そして、口にしたのは……ハンバーグだろうか。これまた母の味がした。
胸のあたりがチクチクする。
間違いない。ここは……ここはおれの実家だ……!
ヘッドホンから試験官の声が聞こえた。
「それではヘッドホンと目隠しをとってください」
その瞬間、懐かしさと同時に痛みを伴った黒い風が胸の中を吹き荒れた。
ほんとに実家だ……! なにもかも嫌になって10年前に飛び出した実家……。
目の前にはいつものしかめっ面の父がいた。
「こうでもしないと帰ってこないだろ。だから検定事務局に言って、うちを目的地にしてもらった」
そう、そんなことが本当にできちゃううちの父は……この国の首相だ。
「お前もそろそろ落ち着いて、国の未来を一緒に考えようじゃないか」
あぁ、そういうとこが嫌だったんだ。こっちの気も知らずに自分のペースで話を進めるそういうところが。
「せっかく資格とれたから、旅に行ってきまぁす」
「あ! こら!」
背中にまとわりつく父の声を振り払いながら、おれは再び旅に出た。
いつか父を支えられるくらい、色んな経験をして成長するまで。
(956字)
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