憧れる逃亡。逃げたい時もある【ドラマ『Tシャツが乾くまで』】
目的地で降りずに終点まで行ってみたい。
スポーツライターの頃、ペーパードライバーだったボクの移動手段は徒歩と自転車。田舎のクラブに加え、専用練習場が完備されていなかった関係で、芝が荒れる夏場は県内各地を転々としていた。
30㎞離れた隣町まで自転車で1時間かけて取材に行くこともあった。ただ、晴れの日が多い北関東とはいえ、当然ながら毎日快晴とは限らない。梅雨時期は雨が酷い。
そんな時には公共交通機関に頼らざるを得ない。バス網はそこそこ発達しているが、なにせ練習会場が町はずれの辺鄙な場所にある。朝、昼、夕、夕と、1日3、4本しか走っていない。1本逃したら取材に間に合わない。緊張感はマイカーの比ではなかった。
バスに揺られ約1時間で着く、市貝町にある練習場付近は、絵に描いたような田舎だ。長閑すぎてさすがに眠くなる。
原風景を目にしていると、締め切りに追われる日々が嫌になることがある。好きなこととはいえ、なぜこんなにも時間に尻を叩かれるのか。のんびりしたいなあ。そこで目に飛び込んでくるのが、誰もあるいない田舎道。
ここの先に何があるのか。あの角を曲がったらポツンとパン屋さんがあって、天然工房の美味しいベーグルが食べられるかもしれない。妄想を膨らませると、ついつい停車ボタンに手が伸びかかる。もちろん、押すことはなかったけど、押したい衝動には何度も駆られた。
衝動のままに逃亡しているのが、話題の金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』の主人公・瀬尾充(松山ケンイチ)だ。消息を絶ってから1年後に帰宅するが、長期間も姿をくらましていたことに驚く。
訳があっての逃亡とはいえ、覚悟と勇気が羨ましくもある。
どこに行っていたのか。何をしていたのか。今後、詳細が語られるのだろうが、謎が多すぎる。ドラマにのめり込んでしまう。さすが、生方美玖。個々の掴み方が絶妙な脚本だ。
ボクの好きな作家の燃え殻さんも頻繁に逃亡する。正確に言えば現実逃避。よく東京から伊豆方面にぶらりと逃げる。
逃げた先での出来事が仕事になるので、作家とは素晴らしい職業だと思う一方で身内は心配が尽きないだろうなとも。でも、何物にも縛られずに、振り切った時の爽快感は、相当のモノだろうなとやはり憧れが尽きない。できないだろうけども。
仕事が詰まってくると、ここで逃げたらどうなるのなかなと好奇心と悪戯心が芽生える。きっと課内で処理してしまうのだろうけども、一度でいいからやってみたい。人一倍責任感が強いので、やるとしたら退職も視野に入れた時だと思うが。
たとえ逃げてもその後に平然と働ける人、その場に入れる人がいる。人徳というよりも生まれ持ったパーソナリティで許されてしまう。ボクの場合はきっと許されない。自分で自分を許さないだろう。
だから読書をしているともいえる。読書は旅だ。偉い人か、親戚のおじさんか忘れたが、そのようなことを言っていた記憶がある。常に書の中に「逃亡」しているから心身のバランスが保てているのかもしれない。
いろいろと考えてみたが、やはり焦がれて止まない逃亡は難しいか。だけど、一度くらいはしてみたいなぁ…。
みなさんも逃亡願望はありますか?
思いのままに。続けます。今日も呼吸ができた。ありがとう!
