中学受験の算数は、ドリルでは作れなかった|低学年までにやることを、優先順位つきで全部書きます【幹】
前回、「計算が速いことは、小4以降なんの保証にもならない」という話を書きました。
今回はその答えにあたる回です。
この連載でいちばん大事な1本で、以降の記事は全部ここから枝分かれしています。
長くなるので、先に結論を書きます。
問題集ができるようになったから力がついたのではない。力がついたから、問題集ができるようになる。
前回書いたとおり、私はこの教室の初期の生徒です。まだ専用の学具すらなく、手作りの道具でやっていた時代でした。その後、中学受験をして関西の最難関と言われる中学に進んでいます。
そして今、自分の子に同じことをさせています。
つまりこの連載は、同じ教育を、30年の間隔をあけて2回見ていることになります。
1回目は、何も分からない子どもとして。2回目は、親として。
そして親の側に回って初めて、この教室が何をやっていたのかが分かりました。
一般的な順番は「教材 → 能力」
私たちが学校でやってきたのは、こういう順番です。
教材をこなす → 力がつく
だから、できない単元があれば、その単元のドリルを買ってくる。
足し算が遅ければ足し算を、図形が苦手なら図形を、100問やらせる。
この順番は、あまりに当たり前すぎて、疑ったことがありませんでした。
こちらは「能力 → 教材」
このメソッドは、これを逆にします。
能力を育てる → 教材は勝手にできるようになる
だから、できない単元を直接やらせない。
折り紙の展開図ができない子に、展開図のプリントを積まない。かわりに、切り絵をやったり、鏡に映った形を写したり、パズルをやったりする。
一見、遠回りに見えます。実際、遠回りです。
でも、そのほうが越えます。自分の子で確かめました。
この1文から、全部が出てきます
面白いのは、この順番さえ握っていれば、他のルールが全部説明できてしまうことです。
教えない
教えると「解けた」という結果は手に入りますが、力は増えません。だから問題集に答えがついていない。(→ #1 )
先取りではなく、後伸び
先取りは「教材の消化」であって、能力ではない。何年生の教材をやっているかではなく、その子の中に何が育ったか。
苦手な単元を直接やらない
3桁の計算が苦手なら、20までの数と100までの数に戻る。(→ #2 )
低いほうではなく、高いほうに合わせる
能力は刺激で育つので、低いほうに合わせると刺激が消える。
いろいろ混ぜると壊れる
暗記やテクニックは「能力を育てずに教材を通す」道具なので、順番が逆転して混乱する。
いちばん大事なのは、教室ではなく家庭
レッスンは週に50分しかありません。残りの時間のほうが、何十倍も長い。
ばらばらの決まりごとに見えて、全部、同じ1文の言いかえです。
★ 未就学〜低学年でやることの、優先順位
ここがこの記事の本題です。
自分が受けた順番と、いま子にやらせている順番を突き合わせると、こうなりました。
1位:数を「かたまり」で見られるようにする
最優先です。ここが崩れていると、以降が全部つらくなります。
具体的には、5のかたまりで数を見るところから始めます。
7を「いち、に、さん…」と7回数えるのではなく、「5と2」で見る。この見方が入ると、指が要らなくなります。(→ #2 )
2位:頭の中で、ものを動かす練習
これが意外なところでした。
図形を回す。裏から見る。サイコロが転がった先の面を想像する。
一見、計算とは何の関係もありません。私も図形は図形の勉強だと思っていました。
逆です。暗算の土台として、図形が先に置かれています。(→ #3 )
そして、副産物のほうが分かりやすいかもしれません。
うちは、サイコロを実際に転がして「次はどの面が上に来るか」を当てさせたり、積み木をいろいろな形に積んで「何個あるか」を数えさせたりを、ずっと具体物でやってきました。 プリントではなく、手で触るところから始めています。
その結果、いまやっているのは立体の切断です。
小さな立方体をたくさん積み上げて大きな直方体を作り、それを3つの点を通る平面でスパッと切る。切られた小さな立方体は何個あるか。 あるいは、切り口はどんな形になるか(五角形や六角形になることもあります)。
中学受験の図形で、多くの子が最後まで苦戦する分野です。それを低学年のいま、自分で解いています。
これは先取りをさせたからではありません。切断の解き方を教えたこともありません。
頭の中で立体を動かせるようになっていたので、結果的に解けた、という順番です。
順番が逆だったら、たぶん解けていません。
ここも#4で詳しく書きます。
3位:100までの足し算・引き算
最初の大きな壁です。ここを越えたかどうかで、その先の景色がかなり変わります。
ここが定着すると、10000までの計算と単位の計算が、ほぼ自動的についてきます。
4位:作図(点描写)
なぞる作業に見えて、実際にやっていることは違います。
中学受験の図形問題で最後に効いてくるのが、ここでした。
5位:親が怒らない仕組み
順位としては5番目ですが、これが崩れると1〜4が全部止まります。
実際、いちばん難しいのはここです。
ひとつだけ書いておくと、私には、家で勉強のことで怒られた記憶がありません。
それが親の方針だったのか、たまたま怒られるようなことをしなかっただけなのかは分かりません。ただ、机に向かうのが嫌だった記憶もないので、少なくとも「嫌いにさせない」ことには成功していたのだと思います。
やらなかったこと
筆算と九九を家で教える(学校に任せています)
学年の先取り
できない単元のドリルを積む
ひとつだけ、実際に起きたことを書いておきます。
うちは未就学のうちから掛け算に触れていますが、九九は一度も教えていません。 家で唱えさせたこともありません。
かわりにやったのは、掛け算を足し算の延長として見せることだけでした。
2×10 は 20 だとすぐわかる。では 2×9 は? ——「2を10回ぶんから、2を1回ぶん引けばいい」。
それだけです。
いま、九九を知らないまま、大きな数どうしの掛け算を自分で解いています。 時間はかかります。工夫しながら、自分のやり方で解いています。
学校で九九が始まれば、そこで覚えます。だから困りません。
家でやらなかったのは「覚えさせること」であって、「掛け算そのもの」ではない、というのが大事なところです。
このあたりは#5で詳しく書きます。
自分の子で、実際に何が起きたか
体験として、3つ書きます。
1. 数を「量」で見るようになった
機械的に計算はできるけれど中身がわかっていない、という状態ではなくなりました。
数が、順番の言葉ではなく、かたまりとして見えている感じがあります。
2. 重さがわかったら、長さもわかった
これがいちばん驚いた出来事です。
重さの単位変換ができるようになった、そのすぐあとに、教えていない長さの単位変換を自分で解きました。
「なんで分かったの」と聞いたら、「おなじだから」と言われました。
私はそのとき、たまたまだと思いました。あとになって、これがカリキュラムの設計どおりだと知ります。
そして、自分もそうやって覚えたのだと気づきました。(→ #3 )
3. 「なぜ」が増えた
数字にできない変化ですが、日常の質問が明らかに変わりました。
言われたことを覚える方向ではなく、「なんでそうなるの」と仕組みを聞いてくる方向に増えました。
先に、正直に書いておきます
権威になりそうな話を先に出したので、限界のほうも書いておきます。
1. 私が受かったのが、このメソッドのおかげだと証明はできません
1人です。 比較対照もありません。
これをやらなくても受かったかもしれないし、他の要因のほうが大きかったかもしれない。それは、私には分かりません。
書けるのは、「このメソッドで育った人間が、30年後にどうなっていたか」という1例だけです。それを一般化する気はありません。
2. 30年前と、いまは違います
教材も、入試も、塾の環境も変わっています。
私の話は「当時こうだった」であって、「いまもこうすればいい」ではありません。
3. 私の子は、まだ結果を出していません
未就学から低学年の段階です。
「この方法で合格しました」と書くことはありません。
書けるのは、自分が受けた側として覚えていることと、いま親として何をどう積んでいるかだけです。
4. 教室側にとって都合のいい主張も混ざっています
「低学年からの通塾はメリットが少ない」「他のやり方と併用すると崩れる」といった話は、生徒に他へ行かれない方が教室は困らない、という側面もあります。
私は生徒だった側なので、なおさらそこに甘くなりがちだと思っています。
なので書くときは、その利益相反も含めて書きます。
この連載の地図
全18本の予定です。
[いま、未就学の子にやっていること]
【序】「計算が速い」は、小4以降なんの保証にもなりません(無料)
【幹】中学受験の算数は、ドリルでは作れなかった(この記事・無料)
#1 「合ってる?」に答えてはいけない——家庭学習が続く家と、地獄になる家
#2 指で数える子は、小2で必ず止まる——8万円の教具を買う前にやること
#3 単位変換は「覚えるもの」ではなかった——図形が計算の土台になる仕組み
以降、点描写、家庭学習の量と順番、払った金額の全公開、他のやり方との違い、批判への反論、親が怒らずに続ける仕組み、と続きます。
[30年後の答え合わせ|受けた側として書きます]
【別①】答えがついていないことに、気づいていませんでした(無料)
【別②】中学受験の塾に入ったら、計算が遅い方でした——それでも数学で詰まらなかった話
【別③】最難関中に受かるまでに、やったこと・やらなかったこと——低学年は遊んでいました
無料は【序】【幹】【別①】の3本です。
今日からできること
1つだけ挙げるなら、これです。
できない単元のプリントを積むのを、いったんやめる。
そのかわりに、その手前に戻る。
3桁が苦手なら100までへ。図形が苦手なら、プリントではなく積み木やパズルへ。
遠回りに見えますが、順番が「能力 → 教材」なら、これが最短です。
📄 優先順位マップを置いておきます(無料・印刷して使えます)
さきほどの優先順位を、1枚のマップにしてこの記事に添付しています。
優先順位1〜5位と、それぞれの「これができたら次へ」の目印
やらないこと4つ
今週の1枚(曜日ごとに、やったこと・時間・様子を書く記録欄)
家にあるもので代用できるものの一覧(卵パック・製氷皿・方眼ノートなど)
こちらも無料です。前回の「小4の壁チェックシート」と2枚あわせて使えます。
次の回から、具体的に何をどうやったかを書いていきます。
この連載は、全18本の予定です
いま出しているのは5本です。これから書くのは、たとえばこんな話です。
・筆算は、家で教えてはいけない——九九を教えていないのに、大きな数の掛け算を自分で解くまで
・計算ドリルを増やしても、暗算は速くならない——図形が計算の土台になる仕組み
・【全公開】未就学から幼児教室に払った総額——中学受験の塾代と比べて、元は取れるのか
・答えがついていないことに、気づいていませんでした——「教えない教育」を受けた側として(無料)
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