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本日はニューヨークへ。

介護の仕事をしていると、

利用者さんへの声かけに、いろんな言葉を使う。

「お風呂入りましょう。」

もちろん、それで行ってくれる人もいる。

でも、毎回そう簡単にはいかない。

「今日は入らへん。」

「まだいい。」

「あとで。」

そんなこともある。

そんな時、私は時々、

「ニューヨーク行くでー。」

と言っていた。

もちろん、アメリカのニューヨークではない。

入浴。

にゅうよく。

「にゅー、よーく。」

それをちょっと変えて、

「ニューヨーク。」

ただの言葉遊びである。

この「ニューヨーク」は、実は昔から使っていた。

祖父母との間で使っていた言葉だ。

祖父母は、アメリカやヨーロッパへ旅行したことのある人たちだった。

だからなのか、

「うちのニューヨーク行ってこよかー。」

なんて、割と普通に言っていた。

もちろん、家のお風呂である。

旅行ではない。

でも、言い方だけは壮大だった。

「ちょっとお風呂入ってくる。」

ではなく、

「ニューヨーク行ってくるわ。」

である。

子どもの頃から聞いていたので、私にとっては何となく馴染んだ言い方だった。

そして介護の仕事をするようになってからも、時々使うようになった。

「ニューヨーク行くでー。」

お風呂が好きな人なら、案外これで通じることがあった。

お風呂好きでも、

「今はそんな気分じゃない」みたいな時には

割と有効な感じはした。

割と有効な感じはした。

ただし、当然ながら条件がある。

お風呂が嫌いな人には使えない。

「ニューヨーク行くでー。」

「嫌。」

……。

そらそうや(笑)。

行き先の名前を変えたところで、入浴が嫌なのは変わらない。

そして不思議なのが、

認知症のある利用者さんでも、

「ニューヨーク」で通じる人がいたことだ。

「ニューヨーク行こかー。」

と言うと、

「ニューヨーク?」

と、キョトンとするも、

「そそ、にゅー、よーく!」

と繰り返すと、

「ああ、入浴か!」

と普通についてくる。

一方で、通じない人には全然通じない。

同僚にも、最初は意味が分からなかった人がいた。

私が、

「ニューヨーク行くでー。」

なんて言っているのをしばらく聞いていて、

しばらくして、突然、

「あぁ!そういうこと?!」

となった人もいる。

そう。

入浴(にゅうよく)だから、ニューヨーク。

気づいてしまえば、ものすごく単純な話である。

「なんや、そういうことか(笑)」

となる。

でも、気づかなければ、

「なんでこの人、急にニューヨークの話してるんやろ。」

で終わる。

そして一度分かると、こちら側の人間になる(笑)。

さらに、利用者さんの中にも「ニューヨーク」と言う人がいた。

最初はまだ仕事を始めたばかりの20代の頃だった。

それを聞いた私は、

「おっ。」

と思った。

仲間や。

そう思った私は、ちょっと調子に乗った。

昔のテレビ番組、

『アメリカ横断ウルトラクイズ』

の掛け声を思い出して、

「ニューヨークに行きたいかー?!」

と言ってみた。

すると、

利用者さん。

キョトン。

……。

見事にスベった。

(笑)

いや、分かる人には分かる。

でも、分からない人には全く分からない。

しかも、そもそも私はアメリカのニューヨークの話をしているわけではない。

「入浴」の話である。

元ネタまで持ち出して盛り上がろうとした私が悪かった。

それ以来、

このネタは今も封印中である。

ちなみに、私は「アメリカ行くでー」とは言わない。

なぜなら、

嘘になるから。

行くのはアメリカではない。

入浴である。

だから必ず、

「ニューヨーク行くでー。」

である。

……いや、ニューヨークにも行ってないけど(笑)。

私の中では、

「ニューヨーク」は「入浴」の言葉遊びなのでセーフ。

嘘はよろしくない(笑)。

他にも、お風呂への声かけはいろいろあった。

時々、

「温泉行こかー。」

と言うこともあった。

浴室に入ったら、

「○○の湯、いらっしゃいー。」

なんて言ってみたりする。

○○は施設の名前。

もちろん温泉ではない。

100%水道水である。

でも、「お風呂ですよ」と言うより、ちょっと遊びがある。

それで利用者さんが笑ってくれたり、

「じゃあ行こか。」

となったりするなら、それでいい。

介護の声かけって、正解が一つじゃない。

その人に伝わればいい。

その人が嫌がらずに動ければいい。

時には、ちょっと笑ってもらえれば、それもいい。

そして、そのうち利用者さんの方から、

「今日、日本のニューヨーク行こか?」

なんて言われることもあった。

日本のニューヨーク。

もちろん、そんな場所はない。

でも、私たちの中では意味が分かる。

「オッケー、レッツゴー!(笑)。」

そんなやり取りができる。

こういう、誰かと誰かの間だけで通じる言葉って、

介護の仕事をしていると案外できていく。

他の人には何のことか分からなくても、その人と自分には分かる。

それだけで、ちょっと距離が近くなる気がする。

よく考えてみると、

周りの職員は、そんなに「ニューヨーク」を使っていなかった。

どうやら私が独特だったのかもしれない(笑)。

祖父母との間で使っていた言葉遊びを、

私はそのまま介護の現場まで持ってきていた。

そして今でも時々思う。

「ニューヨーク=入浴」って言ってる人、他にもおるんやろか?

もし、

「うちも言ってる!」

という人がいたら、ぜひ教えてほしい。

仲間がいると分かったら、ちょっと嬉しい(笑)。

ちなみに今日も、アメリカへ行く予定はない。

行くのは、

入浴です。

アメリカも横断しませんので悪しからず。


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