もう焼けているのに、もう一度焼きます。
「もう焼けています」
とうもろこしには、すでに焼き色がついていた。
それでも職員は、しょうゆを塗る。
そして、もう一度火の上へ戻した。
「焦げます」
「少し焦がします」
「もう焼けています」
ミチオは言った。
八月上旬の昼。
午前の畑作業を終えたミチオは、農村展示区の食堂に来ていた。
二十七歳。
普段なら小屋で簡単に昼食を用意することも多いが、この日は担当職員から食堂へ来るよう言われていた。
焼き台の上で、とうもろこしが一本焼かれている。
粒には、すでに薄い焼き色がついていた。
職員が一本を持ち上げる。
ミチオはそれを見る。
「もう焼けています」
「はい」
それでも職員は皿へ移さなかった。
小さな刷毛を取る。
しょうゆを含ませ、とうもろこしの表面へ塗った。
茶色い液体が粒の間へ広がる。
もう一度、焼き台へ戻す。
じゅっ。
音がした。
さっきとは違う匂いが立った。
ミチオは焼き台を見る。
「焦げます」
職員はとうもろこしを少し回した。
「少し焦がします」
しょうゆを塗ったところが、だんだん濃い色になっていく。
小さな泡が立ち、また消えた。
しばらくして、職員がとうもろこしを取り上げた。
「どうぞ」
ミチオは一本受け取った。
まだ熱い。
盆の上へ置いて、少し待った。
昼食には、いつもの穀物料理と汁物も並んでいる。
汁物を一口飲んでから、もう一度とうもろこしへ触れた。
さっきより冷めている。
焦げた粒のところから、かじった。
最初にしょうゆの味がした。
噛むと、とうもろこしの甘みが残った。
もう一口。
今度は焦げていないところを食べる。
ミチオは少しだけ見比べた。
「どうですか」
職員が聞いた。
ミチオは焦げた方を、もう一度かじった。
「ここが違います」
「焦げたところですか」
「はい」
それからは、普通に食べた。
とうもろこしを少しずつ回しながら、粒をかじっていく。
しょうゆの濃いところもあれば、黄色いままの粒もある。
やがて、手元には芯だけが残った。
ミチオはそれを盆の端へ置いた。
焼き台では、次の一本が焼けていた。
職員が持ち上げる。
刷毛でしょうゆを塗る。
じゅっ。
また、同じ音がした。
その一本も、もう一度火の上へ戻された。
ミチオは何も言わなかった。
食堂には、焼けたしょうゆの匂いが残っていた。
