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ソニー・ロリンズ『ナウ・ザ・タイム』

ソニー・ロリンズのアルバム『ナウ・ザ・タイム』と『スタンダード』は「RCA末期の2枚」とひとくくりにされます。末期という言葉の語感の悪さが手伝って残念ながら注目されません。RCAはアメリカレコード会社です。


どうしてスルーされるのか?

関心の薄さは1950年代から現在までのソニー・ロリンズの即興演奏家というミュージシャン像が関係します。本アルバムの演奏はそれとのズレが大きく、ロリンズへの期待にそぐわなさがあります。

モダン・ジャズの演奏の流れは、テーマを合奏し、ソロパートに移りソリストがアドリブ演奏し、テーマに戻り、演奏が終了します。そのため聞きどころはアドリブをキメるソロパートとなります。

ロリンズはアドリブ演奏の巧者でホットで美しいメロディを吹きます。モダン・ジャズ史上屈指の天才的インプロヴァイザーと呼ばれるゆえんです。

この流れのなかで『ナウ・ザ・タイム』を聞くとロリンズにどこか煮えきらなさを感じます。ソロが短い、アドリブが少ないと。

確かにそうだけれども

あるジャズ評論家は煮えきらなさの仮説を立てています。

RCA未期の数枚は、本当は長く演奏されたものを、収録曲を多くするためにカットしたにちがいない。RCA本社からオリジナル・テープをとりよせて日本で発売すれば、稀なるアルバムが出来あがるはずである。インパルスに入って吹込んだものは、水を得た魚のような感じがするのに、RCAのはまるで、腐りかけた鯛みたいだ。オリジナル・テープはこんなものでなかろう・・・・・と、日本ビクターをたきつけて、照会の手紙を書かせた。

油井正一『ジャズの歴史物語』角川ソフィア文庫

「RCAのはまるで、腐りかけた鯛みたいだ」とは辛辣なお言葉です。確かに『ナウ・ザ・タイム』の一面を言い当てらっしゃいます。

それはさておき

そうは言っても『ナウ・ザ・タイム』を聞くとそれと違った面白さがたくさんあります。

一部の収録曲では50年代末から続くピアノレスでの演奏、トランペットではなくコルネットを吹くサド・ジョーンズの参加、マイルス・デイヴィスの第2期黄金カルテットのリズム隊だったハービー・ハンコック(ピアノ)やロン・カーター(ベース)の参加。

そうそうたるメンバーとの演奏のなかで特に聞きどころはテーマ部のアドリブ化を試みているところです。

このため演奏された曲目はモダンジャズのスタンダード・ナンバーで、チャリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、ベニー・ゴルソン、セロニアス・モンク、ロリンズ自身、ジョン・ルイス、マイルス・デイヴィスとジャズの巨人たちが作曲した作品を取り上げています。

誰もがよく知った曲のテーマでなければ、テーマにアドリブを加えていることがわからないです。

収録曲ごとに演奏形態は違う

ピアノ有りは「ナウ・ザ・タイム」、「ラウンド・ミッドナイト」、「アフタヌーン・イン・パリ」。ピアノはハービー・ハンコックがアフタービートに徹したバッキング聞かせます。

ピアノ無しは「ブルーン・ブギ」、「アイ・リメンバー・クリフォード」、「52丁目のテーマ」、「セント・トーマス」、「フォア」です。ロリンズが得意としたピアノレスの演奏は特にホットです。ジャズの熱さ、いわゆる「演奏が終わらなさ」が溢れています。

テーマのアドリブ化の試み

テーマ部への導入を大胆にカット、すぐにテーマが始まる「ナウ・ザ・タイム」、「ラウンド・ミッドナイト」、「ブルーン・ブギ」。

テーマのメロディを断片化し散りばめる「アイ・リメンバー・クリフォード」、「セント・トーマス」、「フォア」。

テーマ部では伴奏楽器の関係を逆転させる「アフタヌーン・イン・パリ」。

テーマ部の大胆なカット

チャーリー・パーカー「ナウ・ザ・タイム」


ジャズ・メッセンジャーズ でも導入はしっかり演奏します。


ロリンズはバッサリ。


テーマのメロディを断片化

マイルス・デイヴィスの「フォア」

スタン・ゲッツでさえテーマを大胆に手を加えないです。


ロリンズの「フォア」は曲名を知らなければ、オリジナルに聞こえる

テーマ部の伴奏楽器の関係逆転

ジョン・ルイス「アフタヌーン・イン・パリ」

ロリンズがメロディを歌う


ロリンズはそれぞれの曲で、インプロヴァイザーぶりがソロ演奏より前にテーマ部から現れます。幕があがったら息つく間にクライマックスがあるような演奏。即興演奏が前傾、前のめりにロリンズらしさが吹き出します。
『ナウ・ザ・タイム』はRCA時代との契約終盤近くの傑作だと思うところです。

全曲が聞けます。



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