なぜ、彼女はリーダーなのか? 遭難時に頼りになるリーダー、ならないマネージャー
採用面接や昇格面談で、「リーダーシップを発揮した経験を教えてください」と聞かれることがあります。すると、多くの人は、自分がリーダーに任命された経験を探し始めます。「プロジェクトリーダーを担当した」「5人のチームを率いた」「イベントの責任者を務めた」といった経験です。
しかし、リーダーという役割を与えられたことと、リーダーシップを発揮したことは同じではありません。リーダーに任命されても、上司が決めた計画をメンバーへ伝え、進捗を確認し、予定どおり終わらせただけかもしれません。反対に、役職がなくても、止まっている仕事を自分から引き受け、関係者を動かし、結果が出るまで方法を変え続けた人もいます。
リーダーシップは、役職によって与えられるものではありません。複数人で実現する目的を自分の問題として引き受け、人を動かし、現実の結果へ変える力です。
一人で生き残れる人が、リーダーとは限らない
リーダーとはどのような人かを考えるとき、遭難した場面を想像すると分かりやすくなります。山の中で道に迷い、日が暮れ始めています。食料と水は少なく、一人は足を負傷しています。携帯電話の電波もほとんど入りません。
このとき、自分で安全な場所を見つけ、一人で生き残れる人は優秀なサバイバーです。誰かの指示を待たず、自分で状況を判断して行動するという意味では、強いオーナーシップもあります。しかし、リーダーとは少し違います。
リーダーは、自分だけではなく、そこにいる全員を生還させようとします。誰が登山経験を持っているのか、けがの程度はどのくらいか、水や食料はどれだけ残っているのかを確認します。そのうえで、進むのか、戻るのか、救助を待つのかを決め、必要な役割を割り振ります。途中で天候や体調が変われば、最初の判断を撤回し、別の方法を選びます。
ここに、オーナーシップとリーダーシップの違いがあります。オーナーシップとは、自分が結果を引き受けることです。リーダーシップとは、複数人で実現する結果を引き受け、そのために人の認識と行動を動かすことです。
一人で完結する仕事であれば、他人を動かす必要はありません。しかし、複数人で一つの目的を実現するには、異なる知識、能力、利害、感情を持つ人たちの行動を合わせる必要があります。だから、リーダーシップは人と人の間に現れます。
話を聞くことを、意思決定の代わりにしない
遭難しているときに、一人ずつ「あなたはどうしたいですか」と聞いて回り、全員が納得するまで何も決めない人はリーダーではありません。もちろん、人の話を聞く必要がないという意味ではありません。登山経験のある人、地図を読める人、応急処置に詳しい人から情報を集めなければ、適切な判断はできません。
問題なのは、話を聞くことを意思決定の代わりにしてしまうことです。リーダーは意見を聞きますが、全員の希望をそのまま採用するわけではありません。目的を達成するために必要な情報を集め、優先順位を決め、判断します。そして、その判断に沿って人を動かします。
遭難している場面では、全員が気持ちよく過ごすことが目的ではありません。全員で生還することが目的です。人を大切にすることと、人の機嫌を目的にすることは違います。
「話を聞く」「共感する」「支援する」という行動だけを見れば、リーダーと御用聞きは似ているかもしれません。しかし、両者は何に従って行動しているかが異なります。御用聞きは相手の希望に従い、リーダーは実現すべき目的に従います。
リーダーシップが試されるのは、最初の計画が失敗した後である
目的を達成するために最初に選んだ方法が、そのまま成功することはほとんどありません。新しい商品を作っても売れない。別部署へ協力を依頼しても断られる。採用活動を始めても必要な人が集まらない。家族旅行を企画しても、全員の日程や希望が合わない。
リーダーシップが問われるのは、最初の計画を作ったときではありません。最初の計画が失敗した後です。
リーダーシップを発揮できない人は、「営業部が協力してくれなかった」「予算を確保できなかった」「メンバーの能力が足りなかった」と、目的を達成できない理由を説明します。その説明が正しいこともあります。しかし、正しい理由を説明できたからといって、目的が達成されたわけではありません。
リーダーは、営業部が動かないなら、動けない理由を調べます。人を借りられないなら、営業担当者だけで実施できる方法を考えます。大きな施策が難しければ、対象を絞って小さく試します。それでも進まなければ、別の部署や外部の協力者を探します。
目的は簡単に諦めません。一方で、自分が最初に考えた方法には執着しません。リーダーは、目的に頑固で、手段に柔軟です。
ここで重要なのは、目的と手段を混同しないことです。遭難時に「予定どおり山頂へ行く」と決めたからといって、悪天候の中で登り続ける人はリーダーではありません。この場面の目的は登頂ではなく、全員が安全に帰還することです。引き返すことが、目的に最も忠実な判断になる場合もあります。
最初の計画を守ることと、目的を守ることは同じではありません。リーダーは、目的を守るために計画を捨てられる人です。
リーダーの対極にいるのは、悪いマネージャーである
リーダーの対極に位置するのは、フォロワーではありません。優れたフォロワーは、目的を理解し、自分の役割を果たし、ときにはリーダーへ異論を伝えます。リーダーを支える側にいても、目的に向かって能動的に動いています。
リーダーの対極にいるのは、悪いマネージャーです。悪いマネージャーは、会社から与えられた目的を達成することより、自分と自分のチームを守ることを優先します。
自分の評価を下げない。チームから退職者を出さない。他部署と揉めない。計画変更について上司へ説明しなくて済むようにする。現在の人数、予算、権限を維持する。表向きには事業目標を掲げていても、実際には自分と自部門の安定を最適化しています。
そのため、成果が出ていなくても、計画どおりに会議を開き、計画どおりに施策を実行します。うまくいかなければ、「市場環境が変わった」「関係部署の協力が得られなかった」と説明します。一方で、目的を達成するためにチームの仕事を減らしたり、予算を別部門へ移したり、自分の担当組織をなくしたりする判断は避けます。それを行うと、自分の組織が弱く見えるからです。
悪いマネージャーは、手段に頑固で、目的に柔軟です。組織、予算、会議、計画、過去の判断を守るためなら、当初の目的を小さくします。「今期は難しい」「まずは基盤を整える」「長期的には意味がある」と説明し、目的を達成できなかった事実を曖昧にします。
リーダーは反対です。目的を達成するためなら、自分の考えも、計画も、チームの形も変えます。
リーダーは、目的のために自分の組織を変えます。
悪いマネージャーは、自分の組織を守るために目的を変えます。
マネジメントは、決められた仕組みを安定して動かすために必要です。しかし、その仕組みでは目的を達成できないと分かった後も、仕組みを守り続けるなら、マネジメントは目的達成を妨げます。リーダーシップとは、管理を丁寧に行うことではありません。必要なら、管理しているもの自体を変えることです。
日本では、サーヴァントだけが輸入された
日本でも一時期、サーヴァント・リーダーシップが注目されました。ところが、日本で語られるサーヴァント・リーダーシップは、「部下の話をよく聞く」「部下を支援する」「心理的安全性を高める」といった部分へ偏りやすかったように思います。
もともとのサーヴァント・リーダーシップには、謙虚さや支援だけでなく、エンパワーメント、責任、勇気も含まれています。部下に裁量を渡す一方で、本人が担う結果への責任を求めます。必要であれば、上司や組織との対立を引き受けます。相手の成長に必要なら、厳しいフィードバックも行います。単に、部下の希望をかなえる考え方ではありません。
しかし日本では、サーヴァントだけが輸入され、リーダーが置いていかれたのではないでしょうか。その背景には、文化だけでなく、日本企業の制度もあります。
多くの日本企業では、現場のマネージャーが部下の昇進、異動、給与、配置を自由には決められません。一方で、メンバーが辞める、休職する、エンゲージメントスコアが下がると、管理責任を問われます。
また、難しい目標を設定して大きな成果を出しても、評価が劇的に上がるとは限りません。しかし、未達になれば評価は下がります。計画を変更すれば説明責任が増え、前例どおりに実行すれば「きちんと管理した」と評価されます。
この環境で合理的に行動すると、高い目標を掲げず、変化を避け、部下の不満を減らすマネージャーになります。そこへ「部下に奉仕するのがリーダーである」という説明だけを持ち込めば、メンバーに頭の上がらない上司が生まれます。
人の話を聞くことは大切です。しかし、リーダーの仕事は、メンバーを常に満足させることではありません。目的を示し、その目的に必要な役割と行動を求め、結果が出るところまで組織を動かすことです。
リーダーシップは、少しずつ負荷を上げて鍛える
リーダーシップは、本を読んで知識を増やしただけでは身につきません。概念を学べば、自分や他人の行動を説明する言葉は手に入ります。しかし、他人が予定どおりに動かない状況で、実際に目的を達成する力は、実践の中でしか鍛えられません。
リーダーシップは、知識より筋肉に近いものです。そして、筋肉を鍛えるには、同じ重さを持ち上げ続けるのではなく、少しずつ負荷を増やす必要があります。
最初は、自分の仕事を期限と品質の範囲で完了させます。ここで身につくのは、主にオーナーシップです。次に、一人の相手と一つの結果を実現します。さらに、異なる希望を持つ複数人をまとめます。その次には、指示権のない別部署や外部の人を動かします。そして最後に、正解も前例もない目標を引き受けます。
大切なのは、リーダーという役職に就くことではありません。自分だけでは実現できない目的を引き受け、少しずつその難易度を上げることです。
リーダーシップを発揮する状況には、共通する条件があります。自分以外の関係者がいる。実現したい状態について認識を合わせる必要がある。予算、時間、労力は無限ではない。そして、予期しないことが起きる。
これは、会社だけで起きることではありません。家族旅行にも、家事にも、デートにも、友人との遊びにも同じ条件があります。
ただし、旅行の予約をしただけでは、リーダーシップの訓練にはなりません。店を検索して予約し、参加者へ連絡するだけなら、事務処理です。最初に、何を実現したいのかを決める必要があります。
家族旅行なら、「全員が一つは新しい体験をし、翌日まで疲れを残さない旅行にする」。友人との集まりなら、「初参加者が孤立せず、次回も参加したいと思える場にする」。家事なら、「どちらか一方へ負担を偏らせず、毎回相談しなくても回る仕組みを作る」といった目的を置けます。
デートなら、単に有名な店へ連れていくのではありません。相手が何を面白いと感じるかを考え、これまでになかった体験を一緒に作ります。ここで重要なのは、「自分が相手を楽しませる」という一方向の発想ではありません。二人や複数人でどのような状態を実現したいのかを考え、その実現へ向かって人を動かすことです。
実行後には、何がうまくいったかを振り返ります。想定していた相手の希望は正しかったか。どこで計画が崩れたか。そのとき自分はどう対応したか。次回は何を変えるかを考えます。
毎回同じ店を予約し、同じ連絡をするだけなら、事務作業の反復にすぎません。目的を置く。人を動かす。予想外の事態に対応する。方法を変える。前回より難しい結果を実現する。この反復によって、日常生活もリーダーシップの練習場になります。
リーダーは、目的を現実の結果へ変える
リーダーは、最初から正解を知っている人ではありません。誰よりも強い人でも、話がうまい人でも、全員に好かれる人でもありません。
最初に選んだ方法が失敗しても、他人や環境のせいにして終わらせず、別の方法を考えます。目的を達成するためなら、自分の判断、計画、役割、組織まで変えます。そして、自分一人で成功するのではなく、複数人で実現する目的に向けて、人の認識と行動を動かします。
リーダーに任命されたから、リーダーシップが身につくわけではありません。肩書きがなくても、自分だけでは実現できない目的を引き受け、人を動かし、失敗するたびに方法を変え、最後に結果を出した人にはリーダーシップがあります。
リーダーシップとは、目的を掲げる力ではありません。人を動かし、目的を現実の結果へ変える力です。
