「強みを活かす」という幻想

「自分の強みを活かして働きたい」と話す人は多い。特に、就職活動中の学生や若手のビジネスパーソンによく見られる。

一方で、継続的に結果を出している人から、この言葉を聞くことはあまりない。

これまで社内外で多くの採用面接やキャリア面談をしてきたが、仕事で成果を出す人ほど、強みとは自分で決めるものではないと理解している。

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「自分の中で得意」は強みではない

ビジネスにおける強みとは、自分の能力の中で一番得意なことではない。好きなことや、苦にならずにできることでもない。

強みと呼べるのは、他人よりも優れており、その能力にビジネス上の価値があり、組織や市場の中で比較優位があるものだけである。

つまり強みとは、「自分の中ではこれが得意」という自己評価ではない。その仕事を誰に任せるかを考えたときに、他の人ではなく自分が選ばれる理由である。

そう考えると、就職活動でよく聞く「私の強みは企画力です」といった主張は、かなりおかしい。

多くの場合、それはその人が企画を考えることが好きなだけである。

会社には、顧客を理解し、競合を分析し、収益性を考え、社内を動かし、実際に事業成果を出してきた人がいる。当然ながら、既存の社員の方が就活生や若手よりも企画力に優れていることが多い。

営業力、マーケティング力、コミュニケーション能力、リーダーシップも同じである。

若手に能力がないという話ではない。まだ、他者と比較して仕事を任されるほどの能力になっていない、というだけである。

強みは、仕事をした結果として生まれる

「自分にはこの強みがある。だから、その強みを活かせる仕事を任せてほしい」

この発想は順番が逆である。

最初からビジネス上の強みを持っている人は少ない。まず仕事を任され、必要な能力を身につけ、試行錯誤しながら成果を出す。それを繰り返すうちに、

「あの領域なら、この人に任せた方がいい」

という評価が形成される。

それが強みである。

強みがあるから仕事を任されるのではない。任された仕事で結果を出し続けたから、それが強みになる。

Will Can Mustは、Willから始める話ではない

この話は、Will Can Mustの誤解ともつながっている。

Willはやりたいこと、Canはできること、Mustは求められていること。この三つの重なりを考えるフレームワークである。

ところが、これを「自分のやりたいことを会社に認めてもらうための考え方」だと思っている人がいる。

特に理解されていないのがMustである。

Mustとは、会社や組織から要請された役割であり、達成すべき成果である。報酬を受け取っている以上、Mustを遂行することは必須である。

Mustを十分に果たしていないのに、

「この仕事は自分のWillと合わない」 「自分の強みが活かされていない」 「もっと興味のある仕事を任せてほしい」

と主張するのは、根本的に順番を間違えている。

まずMustを達成するためにCanを広げる。そのうえで、MustとWillが重なる部分を見つければ、仕事への意味やモチベーションを持ちやすくなる。

Willを理由にMustを選別する話ではない。

会社は、あなたに合う仕事を探す組織ではない

会社には、事業上必要な仕事が先に存在する。

顧客に提供すべき価値があり、達成すべき売上があり、解決すべき問題がある。そのために業務が作られ、人が配置される。

会社が一人ひとりについて、「この人が自分で強みだと思っている能力を活かせる仕事は何か」と考え、仕事を用意してくれるわけではない。

そもそも、自己認識と周囲の評価は一致しない。

本人は「人を巻き込む力が強み」と思っていても、周囲から見れば説明が長く、調整に時間がかかるだけかもしれない。

本人は「細部へのこだわりが強み」と思っていても、単に仕事が遅いだけかもしれない。

以前、年上の部下から「私のトリセツ」なる文書を送られたことがある。自分はこういう人間だから、こう接してほしい。こういう環境なら力を発揮できる。そんなことが書いてあった。

笑える。

もちろん、マネジャーはメンバーの特性を理解し、成果を出しやすい環境を整えるべきである。しかし、それは本人がMustを果たさなくてよい理由にはならない。

会社が社員の特性に合わせて存在しているのではない。社員が、会社の目的を達成するために役割を引き受けているのである。

まず、求められた成果を出す

ビジネスパーソンとして、最初にやるべきことは単純である。

指示を正確に理解し、与えられた業務を評価される品質で遂行し、設定された目標を達成する。

まず、求められたことができるようになる。次に、期待された水準を超える。その先に、指示されなくても必要なことを考え、より大きな成果を出す段階がある。

独自性や自分らしさは、その後の話である。

仕事を通じて自己実現したいと考えるのは自由だが、会社に自己実現させてもらおうとするのは違う。

会社は社員の夢をかなえるための組織ではない。顧客に価値を提供し、事業を成立させるための組織である。

会社の目的と自分のWillが重なればすばらしい。重ならないなら、自己実現は副業や趣味、個人活動で行えばよい。自分のWillを優先したいなら、そのための場所を自分で作るべきである。

強みとは、自分で宣言するものではない。

Mustを果たすためにCanを広げ、結果を出し続けた人に対して、周囲が「あの仕事はこの人に任せたい」と認識する。

その結果として生まれるものが、強みである。

強みを活かすことからキャリアを始めるのではない。

まず、目の前の仕事で結果を出す。話はそれからである。

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