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大企業病は、みんなが自分の仕事をちゃんとやると起きる

「それは営業側の判断ですね」「開発としては、仕様が決まらないと」「予算は来期ですね」。会議では、誰も間違ったことを言っていない。担当範囲も権限も明確で、みんな自分の仕事をきちんとしている。それなのに、なぜか何も進まない。最後は「引き続き連携していきましょう」で締まり、議事録だけが完成する。連携の大切さについては、見事に連携できています。

こういう状態を「大企業病」と呼ぶことがあります。聞くと、社員が官僚的になり、挑戦心を失ったように思えます。でも、本当にそうなのでしょうか。むしろ逆で、大企業病は、企業が合理的な組織を作ることに成功した結果として起きるのではないでしょうか

効率化すると、「自分の仕事ではない」が増える

会社が大きくなれば、全員で全部をやるわけにはいきません。営業、開発、人事、経理と仕事を分け、専門性を高め、手順を標準化する。誰が何を決めるかも明確にする。これによって会社は数十人から数百人、数千人へ拡大できます。

ただし、自分の仕事が明確になると、同時に「自分の仕事ではないこと」も明確になります。営業は営業の数字を追い、開発は開発の計画を守り、人事は人事の制度を運用する。それぞれが合理的に働くほど、部門と部門の間に落ちた問題は拾われにくくなる。顧客の問題は社内の組織図を見て発生してくれないので、少々困ります。

この構造は経営学でも以前から研究されています。有名な「探索と活用」の研究では、企業は新しい可能性を探すことより、すでにうまくいっている方法を磨く方へ偏りやすいと指摘されています。標準化や継続的な改善を進めるほど、今ある仕事を速く、安く、正確に回せるようになる。一方で、「そもそもこの仕事は必要なのか」「別の方法に変えられないか」と考える余地は小さくなりやすい。

昨日の仕事を上手にする仕組みが、明日の違う仕事を始めにくくする。

つまり、大企業病は効率化の失敗ではありません。効率化の副作用として起きるのです。

だから「ルールをなくそう」「組織をフラットにしよう」では解決しません。縦の分業は必要です。問題は、縦に分けた組織の間をどうつなぐかです。

大企業は、二枚の組織図で動いている

ここで面白いのが、組織のネットワークに関する研究です。

会社には、役職と部署が描かれた公式の組織図があります。しかし実際の仕事では、もう一枚の組織図が動いています。

「この件ならAさんが詳しい」「営業の事情はBさんに聞こう」「海外チームにつなぐならCさんだ」。

非公式といっても秘密結社ではありません。誰が誰に相談し、誰が誰をつなぎ、どこから情報を持ってくるかという、組織図には載らない人間関係です。

McKinseyが2007年に紹介した、約10,000人が70以上の拠点で働くITサービス企業の事例が分かりやすい。会社が大きくなるにつれて意思決定が硬直し、同じような知識や技術が各拠点に重複していました。ネットワークを調べると、地域内では人がよくつながっている一方、地域をまたぐつながりが弱かった。そこで、各地域で中心になっていた人同士をつなぎました。彼らはこれを「connector同士をつなぐ」と表現しています。その後、社員が自分の部門外に持つつながりは増え、情報を探したり、部門や地域を越えて仕事を進めたりしやすくなりました。

大企業なのに大企業病に陥っていない会社は、縦割りがないわけではない。

縦の公式組織の上に、一歩踏み出す人たちによる横のネットワークが重なっている。

組織図だけを見ると離れている。でも「あの人に聞けばつながる」が大量に存在している。公式組織が効率を作り、非公式ネットワークがその隙間を埋めている。

一歩踏み出すとは、仕事を増やすことではない

以前、リーダーシップとは「人を率いること」より、目的に向かって能動的に動き、物事を前へ進めることだと書きました。自分の担当外でも、全体が止まりそうなら声をかける。必要なら人をつなぐ。フォロワーの立場でもできる行動です。

組織行動の研究にも、正式な役割を少し越えて、仕事のやり方を改善しようとする「Taking Charge」という概念があります。名前は覚えなくてもよくて、要するに「言われた仕事をこなすだけでなく、必要なら仕事そのものを前へ動かす」ということです。

顧客の要望が営業と開発の間で止まっているなら、「開発に聞いてください」で終わらせず、両者をつなぐ。自分の成果を阻んでいる問題が一段上の意思決定を必要とするなら、上司へ提案し、「では自分でやってみます」と引き受ける。

これは以前書いた「視座を上げる」にも近い。視座は偉い人の気持ちを想像すると上がるのではなく、それまで自分が扱っていなかった範囲の問題を、実際に扱うことで上がるからです。

そして、私はこれを会社から評価されるかどうかだけで決めなくてよいと思っています。違う部署の人と仕事をする。担当外の問題を扱う。より大きな意思決定に関わる。そこで得た経験や人脈は会社を辞めても残ります。

経験や人脈は、退職時に返却する会社の備品ではありません。

もちろん、目の前の仕事を果たすことは前提です。そのうえで一歩踏み出しても「余計なことをするな」と言われ続けるなら、自分を小さくするより、その会社が自分に合っているのかを考えた方がいい。

会社は「主体性」を無料で使ってはいけない

一方、企業側の責任は別です。

「優秀な人は勝手に一歩踏み出してくれる」と期待してはいけない。一歩踏み出した人が会社に価値を生んでいるなら、時間を与え、裁量を与え、評価する必要があります。「挑戦を歓迎します。ただし通常業務は100%やってください」では、挑戦支援というより営業時間の延長です。

さらに重要なのは、その人を永遠のconnectorにしないことです。A部門とB部門の間に毎回同じ人が入っているなら、その人を褒め続けるだけでは不十分です。次からAとBが直接話せるようにする。何度も同じ判断が必要なら、権限や手順を変える。

私は以前、マネジメントとは「人を管理すること」ではなく、成果を出す仕組みを管理することだと書きました。ここでも同じです。

一歩踏み出した人が見つけた道を、次からは誰でも通れる道に変える。

それが組織側の仕事です。

良いconnectorとは、ずっと橋の上に立っている人ではない。橋を架けたら、次の川を探しに行ける人です。

個人は、自分の可能性を担当範囲に閉じ込めない。企業は、その一歩を善意で消費せず、組織の能力に変える。

大企業病を防ぐのは、全員がもっと仲良くなることではありません。

「自分の仕事」をきちんと持ちながら、ときどきその境界から一歩踏み出せる人がいること。
その人たちが組織図を越えてつながっていること。
そして、その一歩によって見つかった道を、会社が仕組みに変え続けることです。


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今回の「一歩踏み出す」という話は、マガジン 『仕事を面白くする人が伸びる』 で扱っているテーマともつながっています。

仕事を面白く感じられる人は、最初から好きな仕事を与えられた人とは限りません。目の前の仕事を少し動かし、周囲を巻き込み、扱える仕事の範囲を広げ、その経験からまた学んでいく。マガジンでは、そうした「小さな行動から仕事とキャリアを広げていく方法」をまとめています。



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