見出し画像

ロールモデルは3人見つける

「ロールモデルを見つけましょう」とよく言われる。特に20代のキャリア相談では、定番のアドバイスだろう。
参考にする人がいれば、何を学べばよいか、どのように振る舞えばよいか、何歳までにどのような経験を積めばよいかを考えやすい。漠然と「成長したい」と考えるより、具体的な人を思い浮かべた方が、目指す方向も次の行動も明確になる。
しかし、若い頃にロールモデルを探そうとして、ひとつ困ったことがあった。
「あの先輩は、ものすごく仕事ができる。でも、あの人のようにはなりたくない」
という問題である。

Xのフォローお願いします。最新記事や記事の別観点を発信

仕事はできる。でも、好きではない

仕事ができる人が、人としても好きとは限らない。
顧客の要求を正確に捉え、難しい仕事を短時間で仕上げる。会議では論点を整理し、必要な意思決定を前に進める。その仕事ぶりは明らかに参考になる。
一方で、人への接し方が強すぎたり、部下を追い詰めたり、社内政治ばかりを気にしたりすることもある。平日の夜も休日も仕事を続け、家族や健康を後回しにしている人もいる。
そんな人を見ていると、仕事の能力は身につけたいが、その人のような働き方や生き方はしたくないと思う。
そこでロールモデル探しが止まってしまう。
仕事ができる人はいる。でも、丸ごと真似したい人はいない。だからその人をロールモデルにしたくない。
しかし、そもそも一人の人間に、仕事、人格、生活のすべてを求める必要はない。

ロールモデルは3人見つける

そこで役に立ったのが、「ロールモデルを3人見つける」という考え方である。
ひとり目は、業務上のロールモデルだ。
問題の捉え方、専門知識、仕事の進め方、判断の速さ、成果物の品質など、自分が仕事上で身につけたい能力を持つ人である。
ふたり目は、会社での振る舞いのロールモデルだ。
チームでの協働、人への接し方、会議の進め方、フィードバックの伝え方、他部署との関係の築き方など、組織の中でどのように振る舞うかを参考にしたい人である。
そして、三人目は、プライベートのロールモデルだ。
何時まで働くのか。家族とどのように過ごすのか。休日に何をするのか。健康をどう維持するのか。仕事以外にどのような世界を持っているのか。
この三つを、同じ人から学ぶ必要はない。
仕事の進め方はAさん、チームでの振る舞いはBさん、生活の作り方はCさんを参考にすればよい。
そう考えると、仕事はできるが好きではない先輩も、立派なロールモデルになる。
その先輩から仕事の能力だけを学び、人への接し方については、別の人をロールモデルにすればよいのである。

反面教師だけでは足りない

人への接し方が好きではない上司を見て、「自分はこうならないようにしよう」と考えることはできる。
しかし、反面教師だけでは、何をしないかは分かっても、代わりに何をすればよいかは分からない。
部下を強く詰める上司を見て、「自分は部下を詰めない」と決めても、それだけでは適切な振る舞い方法は身につかない。
だから、別の人を探す。
仕事の厳しさはAさんから学ぶ。相手の成長を促す伝え方はBさんから学ぶ。
避けるべき行動を知るだけでなく、その代わりとなる行動を、別のロールモデルから取り入れるのである。

一人をコピーせず、コラージュを作る

この考え方は、キャリア研究者のHerminia Ibarraが示した方法とも重なる。
Ibarraは、職業上の新しい役割へ移る人は、複数のロールモデルを観察し、そこからスタイル、スキル、態度、日々の行動などを取り出して、「仮の自分」を試しながら新しい職業的アイデンティティを作っていくと説明している。
ロールモデルとは、完成品を一つ選ぶことではない。
この人からは仕事の組み立て方を借りる。別の人からは人への接し方を借りる。さらに別の人からは生活習慣を借りる。複数の人から使える行動や要素を集め、自分の性格や置かれた環境に合わせて組み直すのである。

2つの「遠すぎる」はロールモデルの価値を半減する。

ロールモデルは、優秀であればよいわけでもない。
2021年に発表された4つの研究では、合計2,165人を対象に、ロールモデルが目標や意欲に与える影響が調べられた。その結果、ロールモデルが「自分にも到達できそうな存在」と受け止められた場合に、成功できるという期待や意欲が高まりやすいことが示された。
ここでいう「到達可能性」は、能力の距離だけではないと私は考えている。
たしかに、世界的な経営者や著名人のように、自分と実績が離れすぎていれば、「自分にもできそうだ」とは思いにくい。
しかし、能力的には身近な先輩であっても、その人の性格や振る舞い、働き方が自分とあまりに異なれば、やはり遠い存在になる。
いつも強い言葉で人を動かす。社内政治を巧みに利用する。毎晩遅くまで働き、休日にも仕事をする。
その方法でなければ同じ成果を出せないように見えれば、「自分はその人のようにはなれない」と感じるだろう。
能力は真似できそうでも、その成功に必要に見える人格や生活を受け入れられないのである。
だからこそ、ロールモデルを分ける意味がある。
仕事の能力はその先輩から学ぶ。しかし、人への接し方や生活の作り方は、もっと自分に近い別の人から学べばよい。
一人を丸ごと目指すよりも、必要な部分ごとに到達可能な人を選んだ方が、具体的な行動へ落とし込みやすい。

最も見落とされる三人目のロールモデル

三つの中で、多くの人が最も見落としているのが、プライベートのロールモデルだ。
キャリアについて考えると、どうしても会社名、役職、年収、専門性などに目が向く。
「あの人のような仕事をしたい」
「あの人のような役職に就きたい」
とは考えても、
「あの人の平日と休日を送りたいか」
までは、あまり考えない。
しかし、仕事は人生の一部である。
仕事で大きな成果を出していても、毎日疲れ切っているかもしれない。高い役職に就いていても、家族との時間をほとんど持てないかもしれない。収入が高くても、仕事以外の楽しみを失っているかもしれない。
反対に、社内ではそれほど目立たなくても、仕事、家族、健康、趣味を自分なりに両立し、こちらが送りたいと思う生活を実現している人もいる。
その人は、業務上のロールモデルではないかもしれない。
しかし、人生のロールモデルとしては極めて重要である。
役職を目指すだけではなく、その役職に就いた人がどのような一日を送っているかまで見る必要がある。
肩書は欲しいが、その人の生活は欲しくないのであれば、本当に目指したいものは別にあるのかもしれない。

自分だけのロールモデルを作る

三人のロールモデルを見つけるとは、三人の平均になることではない。
それぞれの人物が取っている行動や習慣を観察し、自分に必要なものだけを選ぶということだ。
仕事はAさんのように進めたい。チームではBさんのように振る舞いたい。そして、仕事以外の時間はCさんのように過ごしたい。
その三人を組み合わせた人物は、実際には存在しないかもしれない。
しかし、それでよい。
ロールモデルとは、どこかに存在する完璧な一人を探すことではない。複数の人から学びたい行動を集め、自分がなりたい人物を自分で組み立てることなのである。


いいなと思ったら応援しよう!