早く身につけたい3つのスキル――断る、小さな約束を守る、失敗から立ち直る
締切のある資料を作っているときに、「これも今日中に見てもらえる?」と追加の依頼が来る。
金曜までにレビューを返すと約束したのに、締切当日になっても終わっていない。
会議で古い数字を示してしまい、どこから訂正すればよいのか分からず焦る。
こうした場面は、仕事をしている限り何度も訪れる。そのたびに抱え込み、信用を失い、落ち込んでいては身がもたない。
そこで、できるだけ早く身につけたいのが、次の3つのスキルである。
断る・境界線を引く
小さな約束を守る
失敗から立ち直る
一見すると別々の話に見えるが、実はつながっている。
断れない人は、守れない約束まで引き受けてしまう。小さな約束を守れない人は、少しずつ信用を失う。そして、失敗から立ち直れない人は、次の仕事や挑戦に向かえなくなる。
どれも派手な能力ではない。しかし、早く身につけるほど、その後の仕事に複利で効いてくる。
1.断るとは、優先順位を一緒に決めること
引き受ける範囲・期限・優先順位を言葉にする
仕事における「断る」とは、相手を拒絶することではない。依頼の範囲、期限、優先順位を確認し、自分が引き受けられる条件を明確にすることである。
例えば、木曜正午が締切の資料を作っている水曜に、「別の資料も今日中に確認してほしい」と頼まれたとする。両方を終えるのが難しく、優先順位を自分で決められないなら、こう返せばよい。
現在、木曜正午締切の資料を進めています。追加分を今日中に確認する場合、どちらを優先するか相談させてください。
「無理です」と突き放す必要はない。しかし、無理なものを無理に引き受ける必要もない。優先順位を決める権限が相手にあるなら、選択肢を示して判断を返せばよい。
断るときに、必ず代案を出さなければならないわけでもない。実現できない代案を出して、さらに約束を増やしてしまっては意味がない。
このスキルが重要なのは、仕事を任されるほど依頼が重なりやすくなるからだ。すべて引き受けてから締切直前に「間に合いません」と伝えるより、最初に範囲と期限を調整した方が、相手も予定を立てやすい。
断り方は、性格ではなく練習できるスキルでもある。医療現場での発言行動を対象としたメタ分析では、9研究・804人の分析から、アサーティブ・コミュニケーション訓練による改善が報告されている。アサーティブ・コミュニケーションとは、相手を尊重しながら、自分の意見や事情も率直に伝える方法である。
ただし、これは医療安全という特定の場面での研究であり、どの職場でも丁寧に伝えれば安全に断れるという意味ではない。権力関係や職場文化の問題まで、個人の伝え方だけで解決できるわけではない。
それでも、協力することと、無制限に仕事を引き受けることは別である。
2.小さな約束を守るとは、当たり前の仕事を当たり前に終えること
締切・形式・小さな依頼を軽く扱わない
小さな約束とは、合意した期限までに、決められた形式や完了条件に沿って仕事を終えることである。
締切までにレビューを返す。指定されたフォーマットで資料を作る。会議後に送ると伝えたメールを、その日のうちに送る。「確認します」と返事をした数字を、本当に確認する。
どれも目立つ仕事ではない。しかし、日常の仕事はこうした小さな約束でできている。
大きな成果を一度出すことより、「この人に頼めば、約束したことが約束した形で返ってくる」と思ってもらうことの方が、日々の信用には効く。仕事では能力だけでなく、行動の予測可能性も見られているからだ。
そのため、仕事を引き受けるときには、少なくとも次の3点を確認する。
何をするのか:依頼された作業は何か
いつまでにするのか:締切はいつか
どこまでできたら完了なのか:提出先、形式、確認者などの条件は何か
指示が曖昧だったり、複数の指示が矛盾していたりする場合は、着手する前に確認する。
金曜までにAを指定のフォーマットで提出する、という理解です。提出前の確認は、Bさんにお願いすればよいでしょうか。
確認した内容は、その場で予定表やタスクリストに入れる。締切だけでなく、着手する時間まで決める。提出前には、最初の依頼と完成物を見比べる。
そして、守れない可能性が出てきたら、締切を過ぎる前に相談する。約束を守るとは、何があっても一人で完遂することではない。守れない見込みを早く共有し、約束を調整することまで含まれる。
小さな約束ほど、「覚えているつもり」で抜けやすい。だから記憶力や根性に頼らず、守れる仕組みにしておく必要がある。
3.失敗から立ち直るとは、修復・学習・回復を分けること
ミスの後に必要な3つの仕事を混ぜない
例えば、会議資料に古い数字を載せ、その数字をもとに関係者が判断を始めていたとする。
このとき必要なのは、頭の中で何度も自分を責めることではない。ミスの後にやるべきことを、次の3つに分けることである。
修復する
事実を報告し、関係者へ謝罪し、正しい資料に訂正する。必要であれば、その数字に基づく判断を一度止めてもらう。学習する
どこで古い数字が混ざったのかを確認し、次回から変える手順を一つ決める。提出前に更新日時を確認する、参照元を資料に記載する、別の人に確認してもらう、といった具体的な行動にする。回復する
必要な対応を終えた後も残る疲労や自己攻撃を、そのまま抱え込み続けない。
この3つを混ぜると、「深く落ち込むことが反省だ」と考えてしまう。しかし、長く自分を責めても、資料は訂正されないし、再発防止にもならない。
まず被害を止め、次に仕組みを変え、その後で自分を回復させる。この順番が大切である。
後始末を終えたら、よく歩く、よく眠る、おいしいものを食べるなど、自分に合った方法で回復すればよい。睡眠の制限や剝奪と感情機能を調べたメタ分析では、睡眠不足が感情機能に不利に働くことが示されている。また、身体活動に関するアンブレラレビューでは、運動が抑うつ、不安、心理的苦痛の症状を改善し得ると報告されている。
もちろん、眠ったり歩いたりすることは、訂正や謝罪の代わりにはならない。回復は反省から逃げることではなく、必要な対応を終えた自分を、次の行動に戻すための仕事である。
派手な能力より先に身につけたい
仕事を始めると、専門知識、論理的思考、プレゼンテーションなど、目立つスキルに意識が向きやすい。
しかし、その前に身につけておきたい能力がある。
守れない仕事を引き受けない。引き受けた小さな約束を守る。失敗したら、修復して、学習して、回復する。
この3つができれば、仕事を抱え込みにくくなり、信用が少しずつ積み上がり、失敗しても再び挑戦できる。
仕事を長く続ける力は、失敗しないことではない。約束できる範囲を見極め、約束を守り、失敗しても戻ってこられることである。
