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伸びる素直、伸びない素直

「若いうちは、素直な人ほど伸びる」とよく言われる。
たしかに、経験の少ない時期に自己流へ固執する人は成長しにくい。上司や先輩の助言を聞き、まずは教えられた通りにやってみる。これは仕事を覚えるうえで、とても大切な姿勢である。
しかし、「素直な人」とは、いったいどのような人なのだろう。
日本企業で「あいつは素直でいい奴だ」と評価される若手を見ていると、かなり別のものが混ざっているように思う。

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「素直で頑張っている若手」

上司に対して感じがいい。よく懐き、「今度、飲みに連れて行ってください」と自分からお願いする。
上司に誘われれば、二次会、三次会までニコニコしながらついていく。休日のゴルフにも参加する。上司の昔話や仕事論を熱心に聞き、「勉強になります」と答える。
仕事を頼めば、元気よく「はい、わかりました!」と返事をする。遅くまで残業し、何度も上司の席へ相談に来る。不満を言わず、言われたことに真面目に取り組む。
こういう若手は、上司から評価されやすい。
「あいつは素直だ」「あいつは頑張っている」「ああいう奴は、これから伸びる」
たしかに、人当たりがよく、上司と良好な関係を築けることは一つの能力である。頼まれた仕事へ真面目に取り組むことも悪くない。
しかし、それだけで本当に伸びるのだろうか。

「頑張っているように見える」という評価

一部の日本企業では、成果よりも「働いている姿」が評価される。
遅くまで会社に残っている。頻繁に相談や報告へ来る。飲み会にも参加する。休日も上司との付き合いを断らない。
上司との接触が多いため、働いている姿がよく見える。すると、上司は「あいつは頑張っている」と感じる。
一方、短時間で成果を出して定時に帰る人は、努力している姿が見えにくい。自分で考えて仕事を進める人は、逐一相談へ来ないので、上司とのコミュニケーションも少なくなる。
その結果、
上司との接触が多い→努力している姿がよく見える→頑張っていると感じる→素直で成長意欲が高いと評価する
という変換が起きる。
しかし、「上司からよく見えること」と「成果を出していること」は別である。「上司とたくさん話すこと」と「他人から学べること」も別である。
「あいつは素直で頑張っている」という評価には、しばしば「あいつは私にとって感じがよく、頑張っているように見える」という意味が混ざっている。

「素直」と「従順」は違う

日本企業でよくある誤解は、上司に従順な人を「素直な人」と呼ぶことである。
従順な人は、言われた通りに動く。
上司から仕事を頼まれれば断らない。教えられた方法をそのまま実行する。判断に迷えば、再び上司へ確認する。うまくいかなければ、次の指示を待つ。
若いうちは、これでも仕事ができる。
上司や先輩が正解を知っている仕事なら、その通りに動くことが最も効率的だからである。余計なことを考えず、指示を正確に実行する若手は、重宝される。
だから20代では、従順な人と学習できる人の差が見えにくい。
しかし、仕事の難易度が上がるにつれて、両者には大きな差が生まれる。
従順な人は、教えられた方法を再現する。伸びる人は、その方法が有効な理由と条件を理解する。さらに伸びる人は、状況に合わせて方法そのものを作り変える。
表面的には、どちらも上司の話を聞いている。
だが、片方は判断を上司に預け、もう片方は上司の知見を使って自分の判断力を育てている。
この違いは大きい。

30代になると、正解を教えてくれる人がいなくなる

若手の仕事では、「何をするか」「どう進めるか」を上司が決めてくれる。
しかし、年齢や役職が上がれば、自分で決めなければならないことが増える。
どの問題に取り組むのか。何を優先するのか。誰を巻き込むのか。過去の方法が通用しない状況で、どう進めるのか。
こうした仕事には、あらかじめ用意された正解がない。
20代のうちは、元気よく返事をして、上司から与えられた仕事を真面目にこなせば評価されたかもしれない。しかし30代に入るころには、「では、あなたはどう考えるのか」と問われるようになる。
ここで、伸びない素直な人は頭打ちになる。
それまで身につけてきたのが、自分で考える力ではなく、「正解を知っていそうな人を見つけ、その人に従う力」だからである。
同じ会社、同じ上司の下では評価されても、環境が変われば再現できない。社内では「あいつは優秀だ」と言われていても、市場では何ができる人なのか説明できない。
会社の中で気に入られる力と、会社の外でも通用する力は、同じではない。

伸びる素直は、現実に素直である

では、本当に伸びる素直さとは何か。
伸びる人も、他人の話をよく聞く。経験のある人から助言を受ければ、「自分には見えていないものがあるかもしれない」と考え、まずは試してみる。
ただし、そのまま信じ続けるわけではない。
実行したら、結果を見る。期待した成果が出なければ、助言が間違っていたのか、前提条件が違ったのか、自分の実行方法が悪かったのかを考える。うまくいけば、なぜ有効だったのかを理解し、別の状況でも使える形にする。
つまり、伸びる素直さとは、
他人の意見を受け入れることではなく、他人の意見と現実の結果を使って、自分の考えを更新すること
である。
伸びない素直は、人に素直である。
伸びる素直は、現実に素直である。
前者は、上司が「正しい」と言えば受け入れる。後者は、誰が言ったかにかかわらず、結果が自分の間違いを示していれば考えを変える。
この人は、ときには上司に反論する。
「今回は前提条件が違います」「こちらの方法の方がよいと思います」と、自分の意見を述べる。それでも、自分が間違っている可能性を認め、相手の方法を試すことができる。そして結果が出れば、素直に自分の考えを修正する。
何にでも笑顔で「はい」と答える人より、こちらの方がはるかに素直である。

素直さの反対は、反論ではない

素直な人とは、反論しない人ではない。
反論していても、結果を見て自分の考えを変えられる人は素直である。反対に、「おっしゃる通りです」と答えながら、何も考えず、同じ失敗を繰り返す人は素直ではない。
素直さの反対は、反論することではない。
素直さの反対は、何が起きても自分を更新しないことである。
上司に気に入られることも、飲み会へ参加することも、元気よく返事をすることも自由である。それによって仕事が円滑に進むこともある。
しかし、それを「伸びる素直さ」と混同してはいけない。
人の言うことを聞く人が伸びるのではない。
人の意見をいったん試し、現実から返ってきた答えを受け入れ、自分の考えと行動を変えられる人が伸びるのである。


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