AI議事録は会議の生産性を本当に上げるのか?
「日本の会社は会議が多すぎる」「会議の生産性が低い」
これらは、以前からよく議論されている経営課題の一つだと思います。私自身も、会議が多すぎることによって本来の重要な業務時間が圧迫されていると感じることが多々ありました。
最近、この問題の解決策としてAIが注目されています。「AIが自動で議事録を作成する」「AIがネクストアクションを要約する」といった技術です。
これらの技術によって、非生産的な会議の問題が解決に向かうと期待されています。
しかし、AIで議事録を効率化しても会議の生産性そのものは「ほとんど向上しない」のではないかと考えています。
「コスト削減」に注目しすぎているAI議事録
まず「生産性」とは、投入したコスト(時間)に対して、どれだけのリターン(成果)があったか、で決まるものだと考えます。
生産性 = リターン(成果) ÷ コスト(時間)
書き起こしにあった例を見てみます。
4人の会議を1時間開催(コスト:4時間)
参加者の1人が2時間かけて議事録を作成(コスト:2時間)
合計コスト:6時間
ここで「AI議事録」を導入すると、議事録作成の2時間がほぼゼロになります。
合計コスト:4時間
6時間が4人時になり、2時間分のコストが削減されました。これは生産性が向上したと言えるでしょうか。
ここで考えてみたいのは、その「議事録」に本当に2時間分の価値(リターン)があったのか、という点です。もし本当にそれほどの価値があるなら、そもそもAIに頼らずとも、専門の書記担当者を置くか、若手の重要業務として明確に位置づけているはずです。
しかし、現実にはそうなっていません。それは、ほとんどの会社が「議事録に2時間かけるほどの価値はない」「誰も読まない」と暗黙のうちに判断しているからではないでしょうか。価値が低いと認識されているからこそ、担当者が明確に決まっていなかったりするわけです。
AIによる議事録作成は、この「もともと価値が低いと判断されていた作業」のコストを削減しているにすぎません。6時間のコストが4時間になったとしても、会議全体の生産性が劇的に上がるとは考えにくいです。
本当の問題は「リターンがゼロ」の会議
私たちが本当に問題として認識すべきなのは、議事録作成の「2時間」ではなく、会議そのものにかかっている「4時間」の方だと考えます。
多くの人が「会議が無駄だ」と感じる根本的な理由は、議事録の作成が大変だからではないはずです。その会議のリターン(成果)がゼロ、あるいは限りなくゼロに近いからだと感じます。
生産性の式を思い出してください。
生産性 = リターン(成果) ÷ コスト(時間)
AI議事録が試みているのは、分母の「コスト」を6から4に減らすことです。
しかし、もし分子の「リターン」がゼロだったらどうなるでしょうか。
生産性 = 0(リターン) ÷ 6(コスト) = 0
生産性 = 0(リターン) ÷ 4(コスト) = 0
リターンがゼロであれば、コストをどれだけ減らしても、生産性はゼロのままです。
なぜ会議のリターンはゼロになるのか?
では、なぜ会議のリターンはゼロになってしまうのでしょうか。いくつか理由が考えられます。
目的が「報告」になっているケース
「定例だから」「進捗報告会だから」という理由だけで開かれる会議です。参加者全員が同期的に集まり、口頭で報告しあう必要が本当にあるでしょうか。プロジェクトの進捗共有は、非同期(チャットや専門ツール)で共有すれば十分な場合も多いはずです。これは会議ではなく、儀礼的な「報告会」になっている可能性があります。報告された内容について横断的に議論しその場で意思決定をするところまでを本来は行うべきです。目的が「議論ごっこ」になっているケース
「今後の戦略について議論しましょう」といった会議もよくあります。しかし、その「戦略」は、いつ、誰が、どのような情報に基づいて「決める」のかが明確になっているでしょうか。
それが決まっていない議論は、単なる「雑談会」や「アイデア発散」にすぎません。意思決定のプロセスが明確でないまま議論を続けても、具体的なリターンは生まれにくいです。本来は、まず先に明確に誰がいつまでにどうやって決めるのか、そのためにはどのような情報が必要なのかといったことを設計する必要があります。「アジェンダ」や「ネクストアクション」が目的化しているケース
会議のテクニックとして「アジェンダを決めましょう」「ネクストアクションを決めましょう」とよく言われます。しかし、これらも会議の「運営コスト」を効率化するという発想に基づいています。
そもそも、明確なリターン(目的)がない会議でアジェンダを作っても意味がありませんし、リターンがゼロの会議で決まったネクストアクションとは、一体何でしょうか。
本来、裁量とコミットメント(数字や期日)を持って仕事をしているのであれば、ネクストアクションは「会議で決めてもらうもの」ではなく、「各自が自分で判断し、実行するもの」であるはずです。
コスト削減より、リターンの最大化を
会議の生産性を本当に向上させたいのであれば、AI議事録ツールを導入する前に、まずやるべきことがあると考えています。
それは、リターン(成果)がゼロの会議を特定し、なくすこと。
そして、本当に必要な会議については、リターン(ビジネスインパクト)を最大化することに集中することです。
「アジェンダは何か?」と問う前に、「この会議のアウトプット(成果)は何か?」を問いましょう。
「ネクストアクションは何か?」と問う前に、「この会議で何を『決定』するのか?」を明確にしましょう。
AIで議事録のコストを2時間削減することに注力するよりも、成果がゼロの会議そのものをなくして4時間(あるいはそれ以上)の時間を生み出す方が、組織全体の生産性向上に大きく貢献するのではないでしょうか。
私にとって会議の生産性とは、コスト削減(議事録の効率化)によって達成されるものではなく、リターン(成果)の最大化によって達成されるものだと考えています。
