20代のうちに身につけたい、複利の効く思考習慣――毎日の仕事を、そのまま思考トレーニングに変える
「若いうちは、いろいろ経験したほうがいい」
これは、たぶんその通りです。難しい仕事を任されたり、失敗したり、優秀な人と一緒に働いたり、知らない業界をのぞいてみたり。20代のうちに経験の幅を広げておくことには、かなり意味があります。
ただ、同じように5年間働いていても、驚くほど成長する人と、あまり変わらない人がいます。任された仕事の数には、そこまで差がないこともある。
だとすると、違いを生むのは経験の量だけではなさそうです。
ひとつの経験から、どれだけ多くを持ち帰れるか。
こちらのほうが、案外大きいのかもしれません。
仕事には、早く身につけるほど得をする能力があります。その能力を使えば、その後に出会う仕事からも、より多くを学べるようになるからです。いわば、仕事から学ぶ「利率」が上がっていく。
といっても、特別な研修を受けたり、難しい思考法をマスターしたりする話ではありません。日々の仕事の中で、ちょっとした問いを繰り返す。それくらいでも、かなり違ってきます。
20代のうちに習慣にしておきたいのは、次の3つです。
① 毎日、「もっと楽にできなかったか」を15分だけ考える
仕事を振り返るとき、つい「今日はうまくできた」「あの説明は失敗だった」「もっと集中すればよかった」と考えます。
でも、この振り返り方には少し困ったところがあります。いつの間にか、反省の対象が仕事ではなく「自分」になってしまうことです。
もっと集中する。もっと早く始める。もっと丁寧に確認する。
どれも間違いではありません。ただ、それだけだと翌日も同じ仕事のやり方で、同じように頑張ることになります。これでは、本人は疲れるのに、仕事の仕組みはあまり変わりません。
そこで、振り返るときの問いを最初から決めてしまいます。
今日、生産性を下げていたものは何だったか?
同じ成果を半分の時間で出すなら、何を変えるか?
そもそも、やらなくてもよかった仕事はなかったか?
この中でも、「半分の時間だったら?」は使いやすい問いです。
4時間かかった資料を3時間半で作る方法なら、「もう少し集中する」「PowerPointの操作を速くする」くらいしか出てこないかもしれません。
でも、「これを2時間で作るなら?」と考えると、急に話が変わります。
最初に上司と結論だけ相談しておけばよかった。過去の資料を使えた。調査はAIに任せられた。10ページ作ったけれど、本当は3ページで十分だった。そもそも資料ではなく、Slackに5行書けば終わったのではないか。
このあたりまで考え始めると、「自分がもっと頑張る」以外の選択肢が見えてきます。改善する対象が、自分の気合いから仕事の構造へ移るわけです。
振り返りそのものについては、興味深い研究もあります。
HBSが紹介しているWiproのフィールド実験では、研修日の最後の15分をその日の学びの振り返りに使ったグループは、その時間も作業を続けたグループより、約1カ月後のテスト成績が22.8%高くなりました。
これは、作業時間を少し減らしてでも経験を整理する時間を取ることに意味がある、とは言えそうです。
個人やチームのデブリーフをまとめたメタ分析でも、適切な振り返りとパフォーマンス改善には関連が見られました。
毎日15分で十分です。立派な反省文を書く必要もありません。
「明日は、資料を作り始める前に、結論だけ上司と合わせる」
この一行が決まれば、その日の振り返りは終わりです。
反省した気分になることより、今日の仕事をきっかけに、明日の仕事のやり方がひとつ変わる。こちらのほうが、ずっと役に立ちます。
② 何かを知ったら、「それはどういうこと? ではどうする?」まで考える
仕事をしていると、毎日かなりの量の情報が入ってきます。
ニュースを読む。会議で数字を見る。顧客から話を聞く。競合の新サービスを知る。上司から会社の方針を聞く。
ただ、情報をたくさん持っていることと、よく考えていることは、同じではありません。
「競合が新サービスを出したらしい」
「今月は解約率が上がったらしい」
「アメリカでは、こういう会社が伸びているらしい」
ここで「へえ、そうなんだ」と終われば、頭の中の情報は増えます。でも、思考した回数は増えていません。
そこで使いやすいのが、「空・雨・傘」です。
空を見て、「黒い雲が出ている」と確認する。これが事実です。そこから「雨が降りそうだ」と解釈する。そして「では、傘を持っていこう」と行動を考える。
仕事でも同じように、
何が起きている?
→ それは何を意味する?
→ では、どうする?
まで考えます。
たとえば会議で、「新規顧客は増えているのに、売上は伸びていない」という数字を見たとします。
「新規顧客が増えている」が事実です。そこから、「単価が下がっているのかもしれない」「既存顧客が減っているのかもしれない」と解釈する。
そのうえで、「では、顧客数だけでなく、新規・既存別の売上と単価を確認しよう」と次の行動まで考える。
ここで、最初の解釈が正しい必要はありません。
「既存顧客が減っているのでは?」と思って調べたら、まったく違った。それでもいい。自分の解釈と現実がずれたことで、むしろ新しいことを学べます。
自分では行動できない情報でも、同じです。
海外企業の記事を読んだら、「自分がこの会社の経営者なら、次に何をするだろう」と考えてみる。政府の政策を見たら、「自分がこの業界の経営者なら、何を変えるだろう」と考えてみる。
実際に経営者でもなければ、もちろん何も実行しません。それでも、頭の中では一度、判断と行動まで進んでいます。
自己説明に関する研究でも、与えられた情報について自分で説明することは、単に情報を受け取るだけの場合より、学習や別の問題への応用を促すことが示されています。
研究の多くは教育場面なので、会社員の仕事にそのまま当てはめられるわけではありません。それでも、「なぜそうなるのか」と自分で説明することが、理解や一般化を助けるという考え方には研究の蓄積があります。
ニュースを100本読めば、100個の情報が増えます。
でも100回、「これはどういうこと? 自分ならどうする?」まで考えれば、100回分の思考経験が増えます。
同じものを見聞きしていても、頭の中に残るものはかなり違ってきそうです。
③ 人の答えを聞く前に、自分のスタンスを決める
若手の頃は、周囲に自分より詳しい人がたくさんいます。
会議では上司が答えを持っている。専門的な話なら、その領域に詳しい人がいる。ニュースを開けば、専門家の解説がすぐに出てくる。
これは、とても便利です。
ただ、便利すぎるために、自分で答えをつくる前に、誰かの答えを受け取れてしまいます。
そこで、人の意見を聞く前に、いったん自分のスタンスを決めてみます。
たとえば会議で、A案とB案のどちらにするか議論しているとします。
上司が先に「私はAがいいと思う」と言えば、その後はAを前提に考えるのが簡単です。「たしかにAですね」と、その理由を探すこともできます。
でも、その前に自分の中で決めておく。
「私はBだと思う」
そして、もう一歩だけ考えます。
「なぜBなのか?」
たとえば、「Bのほうが売上への期待値は少し低いけれど、失敗したときにすぐ戻せる。今は不確実性が高いので、私はBを選ぶ」と、自分に説明してみる。
ここまで考えてから、上司のA案を聞きます。
すると、「市場規模については考えていなかった」「その情報があるならAかもしれない」「その観点は分かるけれど、それでも私はBだと思う」と考えられるようになります。
最初から自分の答えを持っていなければ、上司の話を聞いて「なるほど」で終わります。でも自分はBだと考えていれば、AとBの差分そのものが学習材料になります。
他人の意見を先に知ることで、自分の判断が影響を受けることは実験研究でも確認されています。
Lorenzらが144人を対象に行った推定課題では、他人の回答を知ることで回答の多様性が縮小する一方、集団全体の誤差は改善しませんでした。
これは単純な数量推定の研究です。あらゆる会議で、誰の話も先に聞くべきではないという意味ではありません。それでも、自分で考える前に周囲の答えを知ると、判断が引っ張られることはありそうです。
スタンスを持つというと、「一度決めた意見を変えないこと」のように聞こえるかもしれません。
でも、むしろ逆です。
「今ある情報ならBだと思う。理由はこれ。でも、この条件が分かったらAに変える」
そのくらいでいい。
意見を持ち、理由を説明し、新しい情報が入れば更新する。この繰り返しがあれば、他人の判断をそのまま借りるのではなく、他人の判断を材料にして、自分の判断基準を育てられるようになります。
毎日の経験を、少しずつ資産にする
この3つは、別々の習慣に見えますが、実際にはつながっています。
何か新しい情報を得たら、「これはどういうこと? ではどうする?」と考える。
そこで、「自分はこう思う」とスタンスを持つ。
実際に仕事をして結果が出たら、「なぜこうなった? 半分の時間ならどうする?」と振り返る。
そして、その結果を使って次の考え方を少し変える。
こうすると、事実を見て、解釈して、自分の答えを持ち、行動し、結果を見て、次のやり方を変えるという小さな学習の流れが、毎日の中にできます。
この習慣のいいところは、勉強のために特別な時間を大量に確保しなくてもよいことです。
会議も教材になります。ニュースも教材になる。上司と意見が違ったことも教材になる。4時間かかった資料も、失敗した仕事も、次の仕事を少し楽にする材料になります。
20代から10年間働けば、誰でも経験年数は10年増えます。
でも、「経験したら終わり」を10年間繰り返した人と、「経験したら少し考え、次を変える」を10年間繰り返した人では、同じ10年でも残るものはかなり違うはずです。
複利が効くというのは、知識が少しずつ増えることだけではありません。
今日学んだことによって、明日からの学び方まで少し良くなる。
そういうことなのだと思います。
毎日15分だけ振り返る。何かを知ったら、「ではどうする?」まで考える。人の答えを聞く前に、自分の答えを持つ。
やることは、このくらいです。
経験年数は、何もしなくても増えていきます。だからこそ早いうちに上げておきたいのは、経験の量よりも、そこから学べる利率なのかもしれません。
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