コーヒー ショップ 《詩》

「コーヒー ショップ」
哀しみに直面した場合
僕等の世界では
人は立ち上がり
しっかりとした平常心を保ち
己の責務をきちんと果たし
哀しみを外に出さぬ様に
こらえなくてはならない
そんな労働者階級の
倫理の中で生まれ育った
抑制された不思議な静けさが漂う
其処には得体の知れない
匂いがあり温もりがある
真実を見つめる
一対の確かな目があり
肌触りがあり息づかいがある
はっきりとわかる優れた部分と
はっきりとわかる欠点が
混在し同居している
僕は二十四時間営業の
コーヒー ショップに入った
珈琲とサンドイッチを注文した後
テーブルに人差し指をあてて
木目をなぞった
僕は煙草に火をつけた
その仕草を
ウェイトレスが見つめていた
コーヒーのおかわりを注文した
特にコーヒーが
飲みたかった訳じゃ無い
ウェイトレスの顔が
見たかっただけなんだ
確かに彼女に似ていた
僕はウェイトレスの彼女と
愛について語り始めた
真の愛とは精神的な愛に
他なら無いと考えている
愛してるよ
そう甘く彼女の耳元で囁きながら
彼女の身体を想像していた
僕は彼女の手の甲に触れた
指先は綺麗に磨かれ完璧な
マニュキアが施されている
僕に短い微笑みを返してくれた
僕の指先に挟んだ煙草が燃え尽きて
カフェのテーブルの上に落ちた
僕は全てが想像の中での
物語である事を知った
ウェイトレスは退屈そうに
時折 長い髪をかきあげながら
レジの隣りにあるカウンターに
片肘をついて
窓から外を歩き去る人達を
眺めていた
彼女は何処にでもいるんだ
まるで夕暮れの様に
さよなら愛した人
神様が君と共にいます様にと
僕は願った
哀しみに直面した場合
僕等の世界では
人は立ち上がり
しっかりとした平常心を保ち
己の責務をきちんと果たし
哀しみを外に出さぬ様に
こらえなくてはならない

Photo : Seiji Arita
