通勤2時間、東京で働く50代が「移住」を選ばない理由
■ 「いつか湘南に移住したい」と言われるたびに、少し戸惑う
「海の近くに住んでるなんて、憧れます」
「いずれは移住したいんですよね〜」
そう言われることが増えました。
三拠点生活を夢見ている私にとって、本来なら嬉しいはずの言葉です。
でも実は、私はもう海から徒歩5分のところに住んでいて、しかも東京まで片道2時間かけて通勤しています。
「え、それって移住のゴールじゃないの?」と思われるかもしれません。でも私にとっては、これは移住の”結果”ではなく、今の暮らし方をあえて選び続けている、ただの日常なんです。
50代になると、周りから「そろそろ人生の後半戦、どう過ごすか決めた?」というニュアンスの質問が増えてきます。移住、転職、早期退職。何か大きな決断をすることが、正解であるかのような空気を感じることもあります。
でも私は、あえて「今のままでいる」という選択をしています。それも、なんとなく現状維持しているのではなく、きちんと考えた上での選択として。
■ 「通勤2時間」は失っているものより、守っているものの方が大きい
正直に言うと、往復4時間の通勤は決して楽ではありません。朝は早いし、電車の混雑もある。それでも今のところ、この暮らしを変えるつもりはありません。
理由はシンプルで、この2時間の中に、私の生活を支えているものが全部詰まっているからです。
・毎朝、海沿いを自転車で走ってから
駅に向かう時間
・電車の中で記事のネタを練ったり、
下書きをしたりする時間
・週末の朝市(マルシェ)に立ち寄れる生活圏
・庭の手入れをする、ちょっとした時間の余白
移住して環境を変えるということは、今持っているこの”時間の使い方”をゼロから作り直すということでもあります。せっかく心地よいリズムができているのに、あえて崩す理由が、今の私にはありません。
それに、今の通勤2時間があるからこそ、東京の仕事を続けられているという側面もあります。会社員としての収入や、企業型DCでの資産形成は、この生活スタイルの上に成り立っているもの。もし本気で「海の近くにもっと近い場所」や「地方」へ移住するとなれば、今の働き方そのものを見直す必要が出てきます。
50代で収入の柱を大きく変えることは、決して軽い決断ではありません。今の生活基盤を維持しながら、少しずつ資産を積み上げていく方が、私にとってはずっと現実的な選択なんです。
■ 「移住」という言葉が持つ、ちょっとした思い込み
「50代・海が好き・老後を考えている」という条件が揃うと、周りはすぐに「じゃあ移住だね」という話になりがちです。私自身も、そう思われることに悪い気はしません。
でも冷静に考えると、移住は目的ではなく手段のひとつでしかないんですよね。
私が本当に欲しいのは、“海のそばで暮らすこと”そのものではなく、“自分らしいペースで働きながら、心地よい生活の質を保つこと”。たまたまそれが今、湘南という場所と、東京での仕事の両立というかたちで実現できているだけなんです。
移住という言葉のイメージに引っ張られて、「今のままではダメなのでは」と焦る必要はないのかもしれません。
SNSを見ていると、「思い切って移住しました」という投稿はとても目に留まりやすいものです。変化があるからこそ、ドラマになる。一方で、「今の場所に留まり続けています」という投稿は、地味で目立ちません。
でも、目立たないからといって、そこに何もないわけではないんですよね。むしろ、今の生活を丁寧に続けていくことの方が、実は難しかったりもします。
■ 三拠点生活の夢と、“今すぐ動かない”という選択は矛盾しない
私には、日本・アメリカ・フランスの三拠点で暮らすという、長年温めている夢があります。息子はアメリカにいますし、いつかフランスで刺繍を学びたいという気持ちもずっと持っています。
だからこそ余計に、「今すぐ移住しなくていい」と思えるようになりました。
三拠点生活は、退職後にゆっくり形にしていけばいい話です。今の会社員としての収入、企業型DCやNISAでの資産形成、そして海のそばでの暮らし。この土台があるからこそ、将来の夢に向けて安心して準備ができる。
慌てて今の生活基盤を手放してしまったら、夢を実現するための元手そのものが心もとなくなってしまいます。「今すぐ動かない」というのは、後退ではなく、助走の期間なんだと思うようになりました。
■ 移住しない50代にも、ちゃんと物語がある
移住して劇的に人生を変えた人の話は、確かに魅力的です。でも「今の場所で、今の働き方を続けながら、少しずつ理想に近づいていく」という選択にも、同じくらい価値があると私は思っています。
通勤2時間は、変わらない毎日のようでいて、実は海を見て、庭の花を見て、マルシェに立ち寄る、そんな小さな豊かさを積み重ねる時間でもあります。
移住しないことは、あきらめではなく、今の暮らしを肯定するという選択。50代の今だからこそ、そう思えるようになりました。
もし今、「移住した方がいいのかな」「このままでいいのかな」と迷っている方がいたら、一度立ち止まって考えてみてほしいことがあります。それは、「移住したい」のか、それとも「今より心地よく暮らしたい」のか、という違いです。
もしかしたら、大きく環境を変えなくても、今の暮らしの中で叶えられることの方が多いかもしれません。私にとっての「移住しない」という選択は、そんな気づきの先にあるものでした。
